4流された先
フワフワとした優しい感覚。
誰かが優しく頭を撫でているような気がした。
そう、幼い時に兄がよく頭を撫でてくれていたように。
「うっ…」
ゆっくりと目を開けると、傍には金髪に褐色色の肌の青年がいた。
「気が付いたか」
「えっ…」
知らない男性がいて驚くも、体が自由に動かなかった。
「無理をしないほうがいい。まだ熱が下がっていないからな」
「生きてる?」
死んだと思ったはずのアイリスは自身が生きていることに驚くも、青年は無言ながらも睨む。
「旦那様、お嬢様が怯えております」
「ピエール」
「お初にお目にかかりますお嬢様、私はピエールと申します」
紳士的な対応をする青年ことピエールは隣の青年を見つめる。
「カトレア商会の主、ルカリオ・シェンベルクだ」
金髪に褐色の肌を持つ青年はそっけなさそうにする。
褐色の肌を持つ人間は何処の国でもあまりおらず、珍しく、他民族扱いを受けていた。
「それでお前は、見た所入水でもしたのか…」
「旦那様!」
背後でピエールが怒鳴る。
いくら何でも無神経だと怒るのだがアイリスは隠すことなく告げる。
「はい、崖から飛び降り身投げをいたしました」
「なっ…」
ここまであっさりと言われるとは思わずルカリオは絶句した。
「助けていただきありがとうございます」
震えながら深々と頭を下げるも飛び降りた時に足を捻挫してしまったのか上手く動かせないでいる。
(腕も打ったわね…)
できることなら早々にこの場を立ち去っらなくてはならない。
貴族の娘が自殺したなんて外聞が悪いので早く出て行かなくてはならないのだ。
「お前行くところは?」
「ありませんが、助かった命です。生きてみようかと思います」
「女一人で生きてけるほど甘くないぞ」
貴族の娘一人で生きていくならばの話だ。
アイリスは前世の記憶があるので箱入り娘ではない。
「解っております」
「…行く当てがないならここで働け」
「はい?」
大丈夫だと言おうとするよりも早く、ルカリオが告げた。
「屋根裏部屋で良いなら置いてやる。ただし使い物にならなかったら即刻叩きだす」
「旦那様!」
目を輝かせるピエールは涙ぐむ。
「お嬢様、旦那様は口が悪く態度も横柄で上から目線ですが、性格が悪いだけなんです、根は悪く御座いません」
「お前は本当に俺の執事か!!言い方を選べ!」
言いたい放題の使用人のピエールに怒るルカリオ。
「お前名前は?」
「アイリスです」
「よし、アイリス。怪我が治るまで邪魔だ。大人しくしていろ」
隣に置かれているのは着替えだった。
「エマ」
「はい、旦那様」
「後は頼む」
大柄の中年女性が現れ、頭を下げる。
「かしこまりました」
「後の事はエマに聞け」
そう言い残してルカリオは颯爽と去ってしまった。
「さぁ、お嬢様。ベッドにお戻りを」
「はい」
少々強引であるが、嫌な気はしなかった。
むしろ暖かさを感じながらベッドに戻されながらこれからどうなるのだろうかと不安を抱き眠りについた。
今は明日を生きることだけを考えるしかない。
アイリスは疲労から、ベッドに戻ってすぐに深い眠りにつくのだった。