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chapter 42 エール

 ご愛読ありがとうございます


 

 引き続き作戦終了後の報告と今後の対応の確認が行われている。

 

 アルカディア国と隣国との境を流れる川の向こうには2つの領地がある。隣村のある北側と全く接触を持った事の無い西側だ。

 北側の新領主は辺境地に重税を課して隣村の者を苦しめているという情報しかない。

 西側の領主は先王の死後から代わっていないのであれば、皇位継承順位11位で先王の実子らしい。


「11位ってどれだけ先王には子がいたんだ?」


「分からない程いますし、場合によっては無限に増えます。血の繋がりなど誰にも分かりませんので。ナック様、子を多く成す事は王の大事な努めです。ナック様も早くお考えになった方がよろしいかと思います」


 ファリスがここぞとばかりにみんなの前で意見を述べた。

 アルカディア国の後継者は別に自分の子である必要は無いし、錬金術師である必要も無い。ただ国をしっかり守ってみんなを幸せにしてくれればいいだけだ。村長に国王になってもらうのも悪くない。


「今の王は結婚して無さそうだし、子もいないだろ? そんなに焦る事も無いと思うけどな……」


 ステラが挙手をして迷っている様な表情で発言を始めた。


「私達の主は婚約をしています……まだ王に成られる前の話で公にもなっていませんが……アストレーア様とです。私達は知っています」


「なんだ。早く結婚してしまえばいいじゃないか?」


「主は王に成る気がほとんどありませんでした。錬金術ギルドの所長として活動する事を望んでいました。ギルド所長ならアストレーア様でも婚姻可能だったんですが、今は身分が違いすぎます……」


 宙ぶらりんって事か。何とかしようとしているのかもしれないな。王としての立場が強固になれば誰と結婚しても文句は言われないだろう。

 当分の間、アストレーアは辛いだろうが……


「隣国の情勢がアルカディア国に大きな影響を与える可能性があります。特に国境を接する領地に関してはしっかりと情報を収集しておく必要がありそうです。田舎の国など相手にしないだろうと安易に思い込むのは危険です」


 ファリスの言う通りだろう。実際に犯罪者の羊ハンターを野放しにしてしまい、羊皮を自由に調達されてしまった。


「商人ルドネに情報の収集を依頼しよう。危険の少ない領地であれば人を派遣して情報を得る事も考えよう。ひとまずこんなところだな。みんな本当に良くやってくれた。しっかり休んでくれ。犯罪者の引き渡しは俺が行ってくるよ」


 ステラがまた挙手をして、今度は自信を持って発言を始めた。


「私達の国の最高レベルの重罪人です。自国の恥とも言える者を捕らえて頂いたのです。私達もお供させて下さい。それに重罪人の護送は騎士の大事な努めです。疲れているなどと言って良い状況ではありません。どうか同行の許可を下さい」


 そこまで言われたらしょうがないな。ステラに限らず騎士はみんな真面目すぎる。


「ザッジ騎士団長。ステラ達を借りるよ。橋まで行って帰って来るだけだ。少しの間、留守を頼むよ」


 もう荷馬車に檻を乗せて出発の準備はしてある。あんな男をいつまでこの国に置いて養ってやる必要は無い。普通なら死罪なんだろうが、殺すのも嫌だ。隣国に行ったら死罪よりも酷い事になりそうだが。


 ザッジが慌てて出発しようとした俺を制した。


「ちょっと待て。もう一つだけ話がある。作戦の成功でゴブリンの脅威はほとんど無くなった。みんな元の生活に戻っていくだろう。多くの者から相談されている事なんだが、子を作ってもいいか確認して欲しいと言われている。後は結婚の話も多い。みんなゴブリンと戦うために自重していたんだ」


 1人でも多くの戦力が欲しい時に子を作ってしまったら、女性は戦う事が出来なくなってしまう。みんなそこまで考えて戦っていたのか。

 しばらくは生活の安定と人口の回復を目標にしよう。内政を重視して国の土台を固めていこう。


「もう自重する必要はないさ。みんなに子を安心して育ててもらえる様に支援策を検討してくれ」


 報告終了後、ステラ達がすぐに準備を整えたので、国境の橋に向かう事にした。

 ゴトゴトと音をさせながら荷馬車の車輪が回っている。檻の中にいる男は魔力を封じる手錠の他に足まで縛ってあるので、荷台が弾む度に転がって体をあちこちにぶつけていた。口も自害防止の為に布で縛られているので声を出す事も出来ない。

 北に向こう道は未だに細いままで道もあまり良くない。深い森の中を騎士団の6名が前後を固めて進んでいく。


 国境の橋が見えてきた。橋の中央には真っ白な鎧を着た10名程の騎士達の姿があった。こちらに気付いて1人の女性騎士が前に進み出た。


 「アストレーア様!」


 王の側近がこんな所まで罪人の引き取りに来るとはな。


「ナック様、この度は我が国の罪人捕縛にご協力頂き感謝致します。まさか王が自ら罪人の護送なさるとは思っていませんでした」


「お久しぶりです。お元気そうでなによりです。本当は1人で来ようとしたんですが、彼女達が聞かなくってね」


 騎士団の方を見ると自信と誇りに満ち溢れた笑顔をしていた。


 もう可愛いだけでは無いな


 心身を鍛え上げ、本当に強く美しい騎士になっている


「彼女達は全員レベル6です。今回のゴブリン駆除で7になっているかもしれません。そろそろ王都に戻ってもいいような気がしますがどうなんでしょうか?」


「え?! そんなレベルになっているのですか……」


 アストレーアはステラ達の方を見て驚いていたが自信に満ちている彼女達を見て納得した表情で微笑んだ。


「レベル以上に強いと思いますよ。生死を賭けた前線で戦い続けてくれました。アルカディア国民は彼女達を心から尊敬し感謝しています」


 目を閉じて大きく頷いたアストレーアが表情を引き締めた。


「そこまで成長しているのであれば多少のルール変更をしても文句を言う者もいないでしょう。必ず王に伝えてますのでもうしばらくお待ち下さい。檻に転がっている罪人ですが、錬金術ギルドにて禁忌の研究をしているのではないかと密告があり、内密に捜査を開始した直後に王都から逃亡しました者です。まさかアルカディア国にいたとは思いませんでした」


「推測ですが誰かのために希少な羊皮を調達していたと思っています」


 アストレーアは黙って頷いた。ここで言える事はほとんど無いのだろう。周りには他の騎士もいる。

 罪人が檻から出されて王都騎士団に引き渡された。

 要件は済んだがアストレーアとステラ達が言葉を交わす事は無かった。久しぶりに会ったんだから少しくらい話をするくらい、いいように思うが本当に騎士はお堅いな。

 ステラ達が隊列を整えて帰路につく準備を終えた。王都騎士団が全員地面に片膝をついて見送ってくれる。

 馬に乗ってアストレーアに声をかける。


「アストレーア、王都に行った時にとても世話になった人がこんな事を言っていたよ。


 『私は約束を必ず守る。例え口頭の約束でも』


ってね。本当に信頼出来る人だ。ふと思い出したから教えておくよ」


 ゆっくりとアルカディア村に向かって隊列が動き出した。


 美しい騎士達が嬉しそうに微笑んでいた


ご愛読ありがとうございます



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