chapter 37 耕す人
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いつもの様に麦畑を耕しているとザッジ達が罪人達を連行しているが見えた。かなりゆっくりと歩いている。手には錠をかけられ、薄汚れた服を着て髪はボサボサだった。
一旦、村を通らないと西の森の新しい村には行けない。
どんな人達なのか知らないので見ていると、結構若い人が多いような感じがするが老人と子供もいた。ザッジに手を振って呼び止めた。
「なあ? 大丈夫なのかこれ? 着く前に倒れてしまうぞ」
「村の中まで我慢してくれと言われてな。治療を頼む。もう限界だぞ」
デミールさん達に後を任せ、北門を開けてもらいに行く。
「全員入ったら必ず閉めてしばらく開けないでくれ」
館に行って仕事を中断してもらい手伝いを頼んだ。
「状態が悪い人はここで治療するかもしない。簡単でいいから食べやすい食事を準備してくれ! 西門の警戒を! 中を見せるな」
薬の入ったリュックサックを背負って北門へ走って行く。何であそこまでしないといけないんだ!
北門に着くと罪人達は1箇所に集まって座っていた。門は閉じられていた。
ザッジのところに行って話をする。
「薬を持って来たぞ。館で食事の準備をさせている」
「分かった。老人と子供の足の治療を頼む。もうこんなのはごめんだ」
「すまない。辛い役を押し付けてしまったな。休んでくれ」
こんな事になるなんて! とにかく治療だ。老人の足にポーションをかける! 子供の足にもポーションをかける!
「どこか痛い所がある人は遠慮なく言ってくれ!」
……誰も喋らない……痛い所はないのか? みんな死んだような目をしている。よく見るとみんな怯えて震えているようだ。
奴隷として酷い目に合うと思っているのか?
そんなつもりは無いぞ。
「歩ける人は食事を準備しているので移動して下さい……」
若い人が少しずつ立ち上がって村人の誘導で館へ向かった。
「みんな手を貸してくれ。館まで何とか連れて行くぞ」
周りで見ていた村人に声をかけて手伝ってもらう。自分も老人を背負って館に連れて行った。さすがに30人も食堂には入れないので交代で食事をしてもらう。
館で指揮しているファリスに話しかける。
「彼らを今からジョブ鑑定してアルカディア国民になってもらうぞ。鑑定が終わったら手錠を外す。男女交代で風呂に入ってもらい服を着替えさせてくれ。もう他国の言う事を聞く必要は無い」
ファリスは迷ったようだが何も言わずに周りに指示を出し始めた。
食事はみんな食べたようだ。食欲があれば大丈夫だな。
村人が1列に並ぶように指示を出している。男性が先に並び女性が後だ。受付にファリスと2人で座ってジョブ鑑定をして、手錠を外していく。ジョブ鑑定が終わった男性から風呂に入ってもらう。女性には風呂を待ってもらわないといけない。ジェロの言う通りだ。風呂が足りないぞ。
列の最後に若い女性が並んでいた。黄緑色の髪をした美しい女性だ。
「奴隷なのにジョブ鑑定をしないといけないんでしょうか?」
「新たにアルカディア国民になる為にはジョブ鑑定が必要です」
ファリスが即答した。本当は健康診断もしないといけないけどこんなに人がいると時間がかかりすぎる。後で新しい村に出向けばいい。
「分かりました……」
女性が机の上に置かれた羊皮紙に手を乗せた。ジョブ鑑定をする。
セレス・ヴィンセント 聖女 レベル 1
ファリスは表情を全く変えず、今までの人と同じ様に手錠を外した。
「お風呂に入って、服を着替えて下さい。脱衣所に係の者がいます」
よく冷静に処理出来るな。改めて感心してると普通に羊皮紙を片付け始めた。ファリスの素早い処理のお陰で誰もこちらを気にしていない。
どうしても救いたいのはこれが理由か……聖女を処刑するのはさすがに無理だろうな。食堂の方を見るとだいぶ落ち着いてきたようだ。
「馬と荷馬車で輸送しよう。今日中に着かないとこちらも大変だ」
「分かりました。ただ、新しい村での対応は厳しくして下さい。これは約束した事です」
確かに約束したな……早く誤解を解きたいが仕方がないな。
ファリスが周りに指示を出していく。村人達はそれに合わせて動いていく。俺はただ眺めているだけだ。
もっといろんな事を学ばないと王など出来ないな。ファリスが王なら素晴らしい国になるだろうに。みんなが嫌な思いをしてしまった。アルカディアに来た人達、護送したザッジ達、館で対応している者達。
深く考えて慎重に行動しないと自分の判断で大きな影響が出る
王とは大変な仕事だな。今からでも遅くない。しっかり考えるようにしよう。そうじゃないとみんなに迷惑が掛かってしまう。
……ファリスとヒナでしっかり準備しているはずだ。これ以上は口を出さない方がいいな。冷静に周りをよく見るとそれほどおかしな状況になっていない。村人達の対応も丁寧だし好感が持てる。
酷い状況を見て頭に血が登ってしまったな……
今はみんなを信じて任そう
この先の事を深く考えて良い方に向かうように相談しよう
指示を出し終えたファリスが受付に戻って来た。一緒に新しい国民達が輸送されて行くのを見守る。
「村の名前を考えないとな」
「そうですね。名称が無いのは何かと不便です」
「こっちの村はアルカディア村でいいよな? 新しい村は……ファリス、何か良い案はないかな?」
「そうですね……開拓者、フロンティアでどうですか?」
「いいじゃないか! アルカディアとフロンティアで決まりだな」
何処から来た人達なのかも知らないし、どんな人達なのかも知らない。奴隷として売られてアルカディアに来たと思っているのだろう。そんな扱いはしない。アルカディア国は全ての人が幸せになれる理想の国を目指すんだ。
「フロンティア村の人達もアルカディア村の人達と平等だ。隣国との約束は果たすけど、これはアルカディア国の精神だ」
夜になり、商人ルドネが館にやって来た。問題無く新しい村に着いた事を伝えた。館の中は日中の騒ぎが嘘のように静かになっていて、自分とファリス、ルドネの3人しか居ない。会議室周辺の照明具だけが明るく光っている。報酬の本と杖を受け取った。魔術具の本はとても分厚くて豪華な表装で見るからに良い内容なのだろう。杖は3本もあった。豪華な飾りの付いた物、丸い玉の付いたちょっと良さそうな物、木で出来たシンプルな物だ。
「魔法使い用の杖を3種類用意しました。どれも最高級品です。全てお渡しする様にと言われています」
全部最高級なのか! 木の棒みたいのも凄いのか?
分からないな。
「木製の物は樹齢数百年の霊樹の枝を加工した物で、3本の中で最も貴重です。これは魔術具の本を読んでも作れません。他の2本は作れるそうですが魔法の装備の作り方が詳細に書かれた本も探して来ましたのでお渡しします。これは私からのお礼です」
魔法の装備か……全くここには無いな。さすがルドネだな。
しかし、木の棒が1番凄いとはな。全く分からない世界だな。木の杖を手に取って見てみたけど、その辺に置いていたら薪にして燃やされそうだ。
「豪華な杖と丸い玉の杖はどっちが上ですか?」
「強さは玉の杖の方が上と聞いてます。価格は同じ位です」
豪華な杖が1番弱いのかよ!
さっぱり目利きが出来ないぞ
「今回の件はいろいろ考えさせられました。ファリスが居なかったらとても対応出来なかった……ここはアルカディア村と呼んで新しい村はフロンティア村と呼ぶ事にしました。フロンティア村も頑張って良くしていきますよ」
アルカディア村だって少しずつ良くなっている。必ずやれるさ。
「平和なアルカディア国には縁の無い光景ですが最近の王都では頻繁に見る事です。まだ続くでしょう。そうだ、依頼のあった牛ですが使いの者が連れて来ています。明日にはここに着くと思います。足が遅いので一緒には来れませんでした」
もう牛が来るのか! 明日からまた頑張って畑を耕そう。フロンティア村の食料も確保しないといけないからな。
ゴブリンもしばらく出てこないだろうからな
これで好きなだけ畑が作れる
最高だ!
応援有り難うございます




