chapter 28 礎
ご愛読ありがとうございます
今日から朝6時公開になります
登場人物 紹介
ナック 錬金術師 のんびり生活が好きな青年
村外れの小高い山の上で1人暮らし
祖父から薬草作りと創薬の技術を学ぶ
釣りが得意
ザッジ 戦士 村の門番 正義感が強い 熱い男
ナックの幼馴染
ヒナ 狩人 エルフ双子姉妹の姉 村長の娘
活発で陽気な女性
オレンジのショートヘア
ナックの幼馴染
ルナ 狩人 エルフ双子姉妹の妹 村長の娘
落ち着いた女性
青白色のロングヘア
ナックの幼馴染
ビッケ 漁師 浜近くの小屋で1人暮らし
ナックの弟分 素潜り漁師
幼さの残る気楽な少年
カナデ 裁縫師 村1番の黒髪美人
ファリス 司書 小柄な女性 冷静沈着
金のセミロングヘア
黒の丸縁メガネを愛用
アオイ 鍛治師 ハーフドワーフの女性 東の国出身
元気に挑戦する人
赤茶色のショートヘア
商人ルドネが村にやって来た。ひとりの女性を連れていた。
「お母さん……」
隣り村に住むクレアの母親だった。アルカディアに派遣されている娘が心配でアルカディアに行くと言うルドネに頼んで連れて来てもらったそうだ。
「ナック様、この者はこの国への移住を検討しています。娘さんと一緒に暮らしたいそうです」
クレアは聞いていなかった様なので相談室でよく話し合ってもらう事にした。
「今日ここへ来たのは別件で参りました。移民を相互に受け入れる条約を締結する文章を2枚お持ちしました。既に隣国の王からは署名を頂いています。ナック様が署名をすれば条約成立になります」
「あなたは商人のはずでは……とりあえず確認します」
文章に目を通して、同席していたファリス大臣にも見てもらう。
「ナック様、正式な文章で間違いありません。内容も対等な物です。調印してよろしいかと思います」
ファリス大臣がしっかりと確認してくれた。
「わかった。こちらが願った事だ。サインします」
2枚の文章にサインをして1枚はこちらで保管し、もう1枚は商人ルドネに返した。
「隣国ではいくつか反乱が起こりましたがすぐに鎮圧されました。予想通りの者が反乱を起こし、予定通りに鎮圧されたと言っていいでしょう。問題はこれからです。じっくり計画を練り準備して起こした反乱の方が危険ですから」
「なるほど。こちらは予定より早くゴブリンを封じ込めました。今は沈静化しています。ハーブの種がとても役に立ちました。ありがとうございます」
「それは良かった。先程の者ですが養蚕に長けている者を隣り村で探している時に知り合いました。もし移住する事になればここでも養蚕が可能になるかと思います」
隣り村は養蚕業が盛んだ。そろそろ布を仕入れないといけないと思っていた。養蚕、裁縫……カナデに頼んでみるか。
クレアが母親を伴って会議室に来た。
「ナック様……母は荷物をまとめて出て来たそうです。家財は親戚に処理を任せてあるそうで……ここに置いて頂けませんでしょうか?」
「それは構わないよ。移民条約もたった今、成立した。村のルールでは家を建てて住んでもらう事になるけど一緒に住むかい?」
「え?! あ、あの私もですか! 急な事でちょっと……」
「まあいいさ。とりあえず君の部屋に一緒に住んでくれ」
以前の様な空き部屋はもう無いので一緒に住んでもらうしかない。
2人は仲良く館を出て行った。村を案内するそうだ。
「アオイの店が開店したと聞きました。今度は養蚕と製糸の道具を仕入れて来ましょう。いかがでしょうか?」
「お願いします。ここには裁縫師がいますので取り組んでもらえないか聞いてみます」
アオイの店を見に商人ルドネは出て行った。宿泊は館の来客用の部屋を使ってもらえばいい。
これが上手くいけば全てが整う。
食材、木、皮、布、薬、金属
そろそろダンジョンの事を話す時だ。ファリスとアオイとカナデに話をして協力してもらおう。
いろいろ順調に進んでいたが、自分の薬草畑は不調だった。なかなか品質のいい薬草が育たない。こんな事は初めてだった。
確か野菜作りの上手な人がいたはずだ。参考に見に行ってみよう。
今まで野菜畑をしっかり観察した事などなかったけど、人によって育てている物が違って結構面白い。同じ野菜でも微妙に育て方が違っていた。
けれども、育ち方はそんなに目立った差はない様に見える。
野菜作りの上手な人の畑では様々な種類の野菜が育てられていて、とても整然としている。
よく眺めて見たけど、確かに丁寧に育てられている様に見えるが、他の畑でも同じくらい丁寧にやっている人はいくらでもいる。
「おや? ナックじゃないか、野菜が欲しいのかい?」
デミールさんの奥さんが畑の手入れを止めてこちらに来た。薬草の品質が良くない事を相談する。
「この野菜は全部ウチの旦那の指示通りに育てているのさ。言われた通りにしているだけで詳しい事は旦那に聞きな」
そう言って家の中に案内してくれた。旦那さんは村長の葡萄畑管理が仕事で、休みの日には家にほとんど居なくて山や森を歩いて、植物の研究をしているらしい。
壁にはメモ書きがたくさん貼られていて、机には資料が山の様に積まれていた。
「旦那はあんたの事を心配していたよ。あんたのお爺さんに昔、世話になったらしくてね。畑の薬草を全て使ったと聞いて何度かあんたの所に見に行っていたよ」
祖父を知っているのか。薬草畑を見たなら何か気付いた事があるかも知れない。
「ビッケがここの野菜スープがとても美味しいと言っていました。何か秘密があるんですか?」
「秘密なんて無いさ。とても簡単な事だよ。1番大きいヤツや美味しそうなヤツを収穫しないだけさ」
「え? 1番いいのを収穫しないんですか?」
「そう言われてずっとやっているよ。そいつを次の種にして育てるのさ。失敗して枯らしてしまった時には生き残ったヤツも残すように言われているね。種を取るタイミングは旦那が全部指示してくれるよ」
「どのくらいそれを続けているんですか?」
「どのくらいって? ずっとだよ」
1番いい物や強い物を次の種にしているのか……俺は収穫していた。
「せっかくだ。野菜スープを作るから食べていきな。旦那もそろそろ帰ってくるよ」
旦那さんはとても研究熱心な人みたいだな……こんな人が村にいたなんて全然知らなかった。しばらく待つとデミールさんが帰って来た。
「お? ナック君じゃないか? 薬草畑はどうだい?」
デミールさんは採取して来た植物を入れた籠を置いて、心配そうに話してきた。スープが出来たらしく、一緒に野菜スープを食べる事にした。
「おお? 本当に美味しいですね! 野菜の味がしっかりしてます」
「そうなる様にしたのさ。水をあまりやらないとか、土に工夫するとかいろんな方法がある。野菜によって全然違うからね」
そうなのか……野菜作りも工夫を重ねているのか……
長い年月をかけて良い種を育て続けている
「デミールさんはとても研究熱心なようですね?」
「ああ、趣味みたいなものだよ。昔は研究者になりたかったけど、今は珍しい植物を探して観察するのが楽しみなんだ」
この人は今の国に必要な気がする
「デミールさん、アルカディアは国になりました。この国の農業を指導する研究者をやってみませんか? 若者にあなたの知識や経験を伝え、さらに研究を重ねてみませんか?」
「ええ? この年で研究者を始めるのかい?」
「年齢なんて関係ありませんよ。この国は農業が中心の国です。でも、若者達は手探りで農業をしています。教えてくれる人がいればとても助かると思います。お願いします」
「うーん。そんなに頼まれてはやるしかないな。頑張ってみるよ」
ファリスに相談した結果、デミールさんには農業大臣をやってもらう事になった。相談はいつしてもいい事にして、定期的に野菜毎の作り方を指導する講座を開催することにした。
館の一画にデミール農業大臣の事務所を設置した
「こ、こんな所で研究していいのかい?」
ファリスが農業に関する本を用意してくれて書棚に置いてある。
「農業ほど、この国に大事な産業はありません。農業の本は特に多く持って来ました。この本達が活かされる時が来て、私も嬉しいです。国のため一緒に頑張りましょう」
ファリスはとても嬉しそうにしている。小さい国とはいえ、ひとりで業務を支えていたのだから、仲間が出来たものいい事だ。
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