chapter 124 共に進む人
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ヒナとカナデが長城に戻り、特大魔法の運用と援軍の編成について会議が開かれている。
俺は出撃するために必死に聖水と薬を作り続けていた。
長城ではジェロ隊と建設部隊が次々にアイデアを形にしている。とにかく楽が出来る様に改善が重ねられていた。
その改善の中でもデミールさん発案の装置が絶賛されている。
城壁の上に管を通してそこに小さな穴を開けた装置だ
ポタポタと聖水が自動的に落ちる仕組みで勝手にアンデットを駆除してしまう便利な物だ。聖水が無くならない様に監視しているだけである程度の敵に対応出来てしまう。
「この装置の肝は倒しすぎない事さ。あんまり倒すと敵も警戒するからね」
デミールさんから装置の説明をしてもらい、駆除の様子を確認する。
「水滴に当たった敵はかなりのダメージを受けてますね」
「凄い聖水みたいだね。さすがナック君だ」
「もっと勢いよく流せば全く登って来れない様な……」
「そう思って設計したんだけどね。ジェロ君からそれでは駄目だと言われてね。ホドホドに倒した方が敵の戦術が変わらないからいいそうだよ。遠くから見ても分からない程度に倒すのが理想みたいだね」
「そういう発想は出来ないな……」
敵の量が増えてきたら矢を放ったり、魔法で攻撃したりしているみたいだ。
「聖水だけでも何とかなりそうだけど、あえて敵に普通の攻撃をして見せる様に指示が出てるよ」
城壁の上にいる人数は驚く程少なくなっている。
簡易休憩所も完備されていて、魔法攻撃用のスペースが建築中のようだ。
「昔の戦場とは大違いだね。元はナック君の指示だと聞いているよ。君だってジェロ君とは違った発想で貢献しているのさ。みんなに意見を求める事が出来るのも立派な能力だよ」
そうなのかな……ただ何とかしないといけないと思っただけなんだよな。
「穀倉地帯を守る為に援軍を出すそうだね?」
「はい、苦しむ人達を見て見ぬ振りはできませんので」
「大きな意義のある戦いだね。数千人の命に関わるよ。君はここぞという時に迷わず決断が出来る。『王』の才覚が備わっているね」
「名前ばかりの王ですよ……」
「この長城に立って、皆が確信したよ……国は富み、兵は強い。ここから見える景色はアルカディアとは対象的だね。東は戦いに明け暮れて滅ぶ寸前、西は権力闘争ばかりで民を見捨てる。みんなが知ったよ、あるべき『王』の姿をね」
デミールさんは滅びゆく東の国を悲しそうに見つめている。
「デミールさん、アルカディアはみんなが『王』なんです。みんなで支え合って前に進んでいます。あなたもその1人ですよ」
「みんなが王……今までに無い考え方だね」
自分1人では大した事は出来ない。みんなで協力し合ったからこそアルカディアは飛躍的に発展したんだ。
「もう2度と戦わないと思っていたんだけどな……」
デミールさんの手にいつの間にか杖が握られている。見た事もない杖だ。カナデの豪華な杖よりもっと豪華な杖だぞ。
「悲しい過去の記憶を乗り越えて、輝く未来を目指す若者達と共に戦おう!」
デミールさんの前に巨大な魔法陣が現れた!
「ファイアストーム」
炎の嵐がアンデット達を包み込んだ!
かなり広範囲! しかも高威力の魔法!
「デミールさん、あなたは……」
「この魔法で多くの人を焼き殺してしまったよ……過去を封印していたら前には進めない。ナック君、ここの守りは心配いらない。出来るだけ多くの人を救って欲しい」
「……分かりました。ご協力感謝します」
デミールさんを城壁に残して作戦会議室へ向かおうと歩き出すとジェロの姿が簡易休憩所にあった。
「見てたのか?」
変な勘はこんな時でも発揮されるのか。
「よくあの人を動かしたな?」
「俺は何もしてない。彼自身が考えて決めたんだよ」
ジェロはデミールさんが魔法使いだと知っていたようだ。
「カナデに残ってもらうつもりだったが援軍に回せるぜ?」
「遠慮なく連れて行かせてもらうよ。後は誰が残る?」
「俺が軍師、魔法はセレスとデミールさんで十分だろう。だが騎馬隊を指揮する総大将が決まらない」
「ザッジかクレアだな?」
「クレアは迷っているぜ。どちらの国にも恩義がある」
「お前らしくないな? 得意の勘は働かないのか?」
ジェロは下を向いて考えている。
「どちらに参加しても厳しい戦いだ。勘に頼って決めれる状況じゃないぜ」
「クレアは長城の総大将だ。対アンデットにパラディンは有利なはずだ。クレア相手では勘が働かなくて困るのか?」
「……そうだ」
「近くにいないと守れないぞ。決まりだ。いいな?」
「おかしなところで強引なんだな。まあいいぜ。決まりだ」
ジェロと2人で作戦会議室に行く。まだ話し合いは続いていたようだ。
「ジェロはクレアが欲しいそうだ。たまにはわがままも聞いてやろう」
「おい! ナック! お前!!」
「そ、そうですか。 では決まりですね」
「デミールさんがカナデの代わりにここで戦ってくれる事になった。かなり高位の魔法使いみたいだから安心してくれ」
「「おおーー!」」
「では早速、準備にかかりましょう」
みんな一斉に動き出した。決まれば早い。
ザッジの所にヒナ、ルナ、カナデ、ファリス、そして自分が集まった。
「これにビッケを加えた7名が援軍だ」
ザッジが自信ありげな口調で俺に説明した。
7人か……
「人数は問題ではありません。間違いなく最強のパーティーです」
ファリスも納得の人選のようだな。
明日の早朝に特大魔法の威力を確認してから出撃する事になった。ビッケ隊が敵軍を上手く足止めしてくれていれば防衛線の手前で迎撃出来るはずだ。
朝日が登り、城壁の上には多くの人が集まっていた。準備が整い、大きな魔法陣の上に魔法使い達が立っている。中央には美しい法衣を着たセレスが立っていた。
東は相変わらずアンデットの大軍で埋め尽くされている
カナデがみんなに解説をしてくれるそうだ。
「簡単に言えば中央の人が砲台で周りの人は魔力を供給する人って感じね」
「という事はセレスの魔法の威力が増大するって事か?」
「そうね。この魔法陣は魔力が低い者が倒れないように村長が考案してヒナが設計した物よ。全員が魔力の半分を消費するわ」
1発で魔力半分を消費とは……
魔法使い達が杖を構えて集中力を高めている
複雑な魔法陣が白い輝きを放っている
セレスが天高く木の杖を突き出した!!
「セイクリッドライト!!」
眩い光が放たれて視界が真っ白になった!
全く目を開ける事が出来ない
激しい光がずっと放たれて続けている!
…………
少しずつ光が収まって周りが見えるようになってきた
真っ黒に埋まっていたはずのアンデットの姿は無い
ただ白い灰だけがどこまでも砂地のように広がっていた




