第4話 再会
2030年4月
僕は現れた駅のホームへと降り立つ。
僕が電車に乗る前とは似ても似つかない駅だった。
仮に僕が朝までいた駅だとするならば、相当な工事が行われている。
しかしその駅だと証明する物が何も無い。
普通ならば大きく【○○駅】と書かれた看板を目にするはずだが、そんな看板はどこにもない。
その代わりに大きなテレビのような薄型のモニターがあるだけだ。
電気が通っていないのか、そもそも電源がついていなのか分からないが、画面は黒いままだ。
ーーここはどこだ.......?
《プシュー》
僕が考え事をしている間に電車のドアは閉まり、また暗闇の中へと走り始めた。
徐々に後方のライトが遠ざかってゆく。
そして光は完全に暗闇の中に姿を消した。
僕は電車を見送ると、この世界の何駅に着いたのかを調べる為に辺りを捜索することに決めた。
《カツンッ》
僕が歩き出した時、足に何か物が当たったことに気づく。
足元を見ると、そこには電車に乗る前に落としたスマホが落ちていた。
ーーあれ?何で落ちているんだ?
僕は不思議に思いながらそのスマホに手を伸ばす。
すると目の前に僕以外の手が現れ、その手は僕のスマホを持ち上げる。
「え?」
僕が思わず声を漏らした途端、色々な人から見られている気がした。
《ガヤガヤ、ガヤガヤ》
周りから急に機械音や人の話し声が聞こえてくる。
しかし周りの人が何を喋っているかまでは聞き取れない。
僕は焦って顔を上げる。
すると僕の目の前にはとても美しい女性が僕のスマホを持っていた。
「これ、あなたのですよね?」
どこかで聞いたことのある声だった。
しかし今はここがどこかを調べなければいけないので、そんな引っかかりを考えている暇なんてなかった。
「あ、はい。ありがとうございます」
女性の顔もろくに見ないで返事を返し、スマホを受け取る。
しかし中々女性は手を離してくれない。
それとなぜだか僕をジロジロ見ている気がする。
僕も女性から強引に取り上げる訳にもいかないので、顔を上げ女性の顔を見る。
「え.......」
思わずびっくりしてしまった。
女性も僕のびっくりした声で確信したのか、僕にスマホを渡してくる。
「な、何で、千明がいるんだよ.......」
「何でってこっちが聞きたいよ。大学卒業してから一切連絡くれなかったくせに」
その声は正真正銘千明の声だった。
顔もちゃんと見れば千明だ。
化粧をしているので高校の頃の面影は少し消えていた。
しかし目の前にいる人物が千明であることに変わりはない。
化粧をしてるかしてないかなんてどうでもよかった。
僕はただ千明に会えたことに感動している。
思わず涙が頬を蔦る。
「え?ちょっ、何泣いてんの?」
「あ、ごめん。何か急に涙が.......」
僕は急いで服の袖で涙を拭う。
しかし涙が収まる気配はない。
僕は思わず千明に抱きつく。
色々な場所が成長していたが、匂いも何も変わっていない。
千明も少し照れながらも僕を受け入れてくれた。
周囲の人間が更にガヤガヤし始める。
僕はその音を聞こえなくする為に千明の胸に顔を埋める。案の定音は聞こえなくなった。
僕はその一瞬の幸せを噛み締めた。
ゆっくりゆっくり咀嚼するように.......
《グサッ》
その音は唐突に僕の耳に入って来た。とても嫌な音だ。
その音が聞こえた瞬間、千明は僕ごと地面に倒れる。
僕は急いで千明から離れる。
僕は手に違和感を感じ、手のひらを確認する。
手のひらには血がついている。
そして千明の背中にはナイフが突き刺さっていてる。
「お、おい。大丈夫か?」
「うん。だ、大丈夫だから.......」
弱々しい返事が聞こえてくる。
しかし千明は僕に笑顔を向けている。
明らかに大丈夫じゃないのは誰が目にしても分かる事だ。
しかし千明が声も上げずに倒れたので、周囲の人間は気づいていない。
人々は皆スマホ?に夢中になっている。
ーー助けたい、助けたい.......
そんな気持ちが先行して声にならない声で叫ぶ。
周囲の人間ほもちろん僕の声に気づくことはない。
「おい!!誰か救急車を読んでくれ!!」
僕は振り絞った声で助けを求める。
その間、僕は千明から目を離す。
僕の声にようやく気づいたのか周囲の人々はスマホ?を取り出し、どこかに電話をしてくれている。
《キャー》
女性の叫び声が聞こえる。
嫌な予感がする。
僕は急いで千明の方を向く。
するとその瞬間、僕の顔に血のようなものが飛んでくる。
「.......え?」
思考が停止する。
時が止まったように僕はその場で動けなかった。
さっきまで笑顔だった千明の顔は、歪んだ表情に変わっていた。
喉にはナイフで切られたような後があり、血がどくどく出ている。
そしてその近くには赤く染まったナイフが1本転がっている。
僕の後ろを誰かが通る。
僕は後ろを振り向く気力すら失っている。
周囲の人間が叫び声は叫び声を上げているのだろうか、それすらも耳に入らない。
ーーまた助けられなかった。あの時僕が目を離さなければ.......
僕の見える世界は一瞬にして真っ黒く染まる。
あの電車から見た暗闇のようだった。
暗く暗く、光が届かない世界。
五感全てが機能を停止している。
何も感じない。
涙も流れない。
ただ暗闇の世界にいることしか出来なかった。
そして僕の意識はそこでなくなった。




