第3話 電車
???年?月
あの男がいなくなってからどれぐらいが経っただろうか。
時計がなく暗闇の中を走る電車は、僕の時間感覚を忘れさせる。
きつかったタバコの匂いも微かな匂いになっている。
僕は誰もいない広い電車内で暇を持て余していた。
電車に乗る前に落としスマホを拾っていないことをとても後悔している。
いつもはクソゲーだと思っていたゲームも今なら楽しめる気がした。
外を眺めても闇ばかり。
小さな光さえも見えない暗い世界。
昔見た光景にとてもよく似ていた。
とてもとてもよく似ていた。
その日は淡い夕焼けが美しい日だった。
いつものように校門の前で千明を待っている。
しかし中々彼女は僕の前に姿を現さない。
少し不審に思った僕は校舎の方を見た。
何も異常はない普通の校舎だった。
ある一点を除いては.......
なぜか千明が屋上にいたのだ。
何かすごく嫌な予感を感じた。
僕は急いで屋上に向かって走り出した。
考えるより先に体が動いた。
屋上までの道のりがとても長く感じた。
はぁはぁと息を切らしながら階段を登る。
喉から血のような味が込み上げてくる。
それでも僕は走り続けた。
《バァン》
勢いよく屋上のドアを開ける。
するとそこには千明が僕の方を向いて待っていた。
淡い夕日に照らされている彼女はとても可愛かった。
しかし彼女の目には涙が溜まっていた。
涙が光に反射しキラキラしている。
僕は彼女に何と話しかけたらいいか分からなかった。
すると千明の口が動く。
「じゃあね幸晴」
とても震える声で僕にそう告げる。
僕はその言葉を聞いた瞬間に彼女の元に走り出す。
しかし彼女は僕の視界からいなくなった。
あと数センチだった。あと数センチ手を伸ばせば届いた。
数秒後、下から何かがコンクリートの地面に落ちる音が聞こえた。
まだ半分信じられていない自分がいる。
僕は動かない足を無理矢理動かして下に向かった。
僕が着く頃には人だかりができていた。
僕はその人達を押しのけ千明の死体があるであろう場所に向かう。
そこにはやはり千明の死体があった。
周りが見えず、ただ目の前にいる千明の死体を眺めている。
あんなに綺麗だった顔も赤く染まり、柔軟剤の匂いも血の生臭い匂いがしていた。
僕は暴れたり泣き叫ぶのではなく、静かに彼女を眺めている。
そしてあの時握れなかった手を握りしめる。
まだ微かに温かかった。
その事件の後から僕の世界は真っ暗になった。
何も見えない。救いの光などある訳がない。その光を失ったのだから.......
「.......さん。お客さん」
誰かの声が聞こえる。
優しい男の声だ。
「.......ん」
目の前には少し太った男がいる。顔はよく見えない。
どうやら僕は寝ていたらしい。
すごく嫌な夢を見た。
あの時の光景は今でも僕の脳裏に焼き付いている。
僕の人生で最大の後悔。
「お客さん。お目覚めの所悪いのですが、もうすぐ目的地です」
「あ、はい」
僕が返事を返すと、男はどこかえと行ってしまった。
車掌だろうか、駅員のような帽子と服を着ていた。
しかし一点不思議なことに、顔はよく見えない。なぜかこちらからは黒く塗り潰されたような感じにしか見えなかった。
するとまたあのアナウンスが流れる。
《次は2030年、2030年お出口は右側です》
僕の心臓はバクバクと音をたてている。
不安な気持ちでいっぱいだった。
そこで僕は目を瞑りゆっくりと深呼吸をする。
電車は既に止まっているのか、電車が動く音は聞こえない。
微かにタバコの匂いが香る。
そのタバコの匂いを嗅ぐだけで勇気が出る気がした。
電車に乗った時から決意は決めていたと思ったが、ちゃんと決まりきってはいなかったようだ。
僕は自分の頬を両手で叩き、気合いを入れ直す。
「行ってきます」
誰もいない電車の中で一言そう呟き、僕は電車のドアの前に立つ。
すると駅が現れる。見たことのない駅だった。
《プシュー》
ドアが開く。
僕は新たに決意を固め、電車から一歩を踏み出した。




