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第17話 病弱美少女、王宮に行く。


 3人で王宮へ向かう。

 王都の人通りはとても多いな。


「明日から建国祭ですから」


 とソレノンは何気なく言う。

 ソレノンは未だに四獣将と戦ったときの状態のままのようで、服が破けていた。


「あ、すみません。少し待っててください。着替えたいので」


 そう言って、ソレノンは一人、王都の自宅へ行った。


 一方リーンはキョロキョロと辺りを見回し、田舎から都会へやって来たおのぼりさん丸出しである。


「すごいの! たくさん人がいるし、何より建物がすごいの!」


「確かに……オレもこんな建物初めて見た」


 貴族街に並ぶ建物は、一目で凝っていると分かるようなものばかりだ。


 決して直方体の建物ではない。球状の建物や、建物それ一つがまるで銅像のようなものもある。

 ソレノンの自宅もアーチ状の形であり、とても不思議だった。


 やっぱり魔法が発達しているお陰か?


 そのお陰で魔法建築的なものが発達しているかもしれない。


「魔法建築士になるのもいいかも」


「魔法建築士?」


「魔法を使って建物を作る人なの。建物の設計とかもするの」


「へー」


 面白そうな職業だな。


「でも、リーンなら剣聖を目指してもいいと思うが……」


「全然、あたしなんて全然だよ。井の中の蛙だったってこと、思い知らされたもん」


 リーンはそう言って、じっとこっちを見た。


「ご、ごめん」


「あ、別にクリアちゃんが謝るようなことじゃないよ! むしろこうやって村から連れ出してくれて感謝してるぐらいだから!」


「そうか?」


「うん……」


 リーンは弱弱しく頷き、


「でも、ホント、あたしって何にも知らなかったんだって気付かされるの……」


 落ち込んだようにそう言った。


 しかし気にするようなことではないと思う。


「なあに、まだ14歳だろ? まだまだ人生始まってもいないと思うけどな、オレは」


 14歳なんて、小説で言うとプロローグの段階だ。

 ちなみにオレの場合は、剣聖になるまでがプロローグで、妻と出会うまでが序章。妻と出会ってから結婚して子供育てたりしたときが中章で、最盛期を過ぎたのにそれを認めきれず必死に修行に明け暮れるようになったのが終章だろうな。


「ありがと」


 リーンは、はにかむ。


「でもクリアちゃんってたまに……14歳じゃなくて、もっと年上みたいな言い方をするんだよね」


「そ、それは……」


 痛いところを突かれた。

 さっきの発言は軽率だったかもしれない。

 いかんな……どうしてもリーン相手だと気が緩んでしまう。


「ねぇ、本当はいくつなの?」


「……」


 オレは押し黙った。


 沈黙が場に流れる。


「……大丈夫だよ。あたしはクリアちゃんを嫌ったりなんか絶対にしないから。クリアちゃんがいくつだろうと、関係ないから!」


「……ごめん、リーン」


 年齢じゃないんだ。

 オレは中身はおっさんなんだ。


 性別だけは隠し通さねばならない。

 だからオレは年齢も隠す。

 だって、性別だけ隠すとか、リーン相手には絶対に見抜かれると思う。


 そう。

 性別だけはなんとしても隠し通さねばならない。

 美少女の中身がおっさんという寒気がするような状況だけは知られてはならない。


 だからリーンの意識が年齢に向いているのは、悪くない。


「本当にごめんな……」


 心が痛かった。




 ソレノンが戻り、王宮へ向かう。


「王様と謁見希望です」


 ソレノンはそう言って、王宮の門番に貴族カードを提示する。


「えー、ワッカーンの街の領主、ソレノン・ワッカーン様ですね。事前に許可は取られていますか?」


「いえ」


「でしたら第一文官室前にて謁見申請を行いますので、よろしくお願いします」


 ソレノンは迷いなく歩く。


 その後ろをオレとリーンはついていく。


 至る所に兵士がいる。


 リーンは小声で言う。


(すっごいたくさん兵士がいるの。それに無駄なスペースが無駄にたくさんあるし)


(王宮とはそういうもんだ)


 オレも小声で答えた。


(領主館も無駄なスペースだらけだったけど、ここはそれを超えてるよ)


(そうだな、確かに無駄かもな)


 小声で話すのは、広い空間の中、とても静かな空間で話すのがためらわれる雰囲気のせいだろう。


 少し歩くとすぐに第一文官室に着いた。


「王様と謁見希望です」


「ならば謁見申請ですね。あちらのソファーで行いましょう」


 女性の文官が一人、文官室から出てきて、近くのソファーに腰掛けた。


「ではまず、謁見内容をこちらの紙にご記入ください」


 ソレノンは書いた。


「えー、ソレノン・ワッカーン様ですね。リーン様とクリア様と3名での謁見をご希望と……貴族カードの提示をお願いします。それと同行者について身分証があればそれを」


「リーン様、冒険者カードは作りましたよね?」


「はいっ!」


「ならそれを」


 ソレノンは貴族カードを。

 リーンとオレは、冒険者カードを渡す。


【貴族カード】

名前:ソレノン・ワッカーン

爵位:伯爵

職業:ワッカーンの街の領主

結婚:無(婚約者もなし)


【冒険者カード】

名前:リーン

出身:ヘロヘロ村

職業:細剣士

ランク:C


【冒険者カード】

名前:クリア

出身:異世界

職業:剣聖

ランク:C


「ソレノン・ワッカーン様、リーン様、クリア様ッ、ぶふっ!? ……いえ、失礼しました」


 文官は突然吹き出しだが、すぐに冷静になる。


 とんでもない量の液体がソレノンへと飛ぶ。

 しかしソレノンは素晴らしい反応をした。火魔法を使い、一瞬で蒸発させたのだ。


――やるな!


 オレの口角がニヤリと上がる。


「……えーと、怪しい人は王様に謁見できません。イセッ、ぶふっ!? 駄目これ! つぼった! ……えー、異世界というのはあまりにも変なので、クリア様ッ……の謁見は控えさせていただきたいです……ふー、ふー。あと職業は剣聖となっていますが、これもいけませんね。虚偽申告ですので」


「そ、そうですか」


 ひどい文官だな。

 事実に正確に書いただけなのに……分かるけども。



 *



 リーンたちは文官室前のソファで待つ。


「う~ん、もうすぐ謁見できると思うのですが……」


「ソレノンちゃん、なんでそんなに王様と謁見したいの? 普通にさっきの文官の人に報告するとかでもいいんじゃないの?」


「念のためです。最悪のパターンの場合、こうした方が良いと思うので」


「……どういうことなの?」


「まあもし最悪のパターンだったら、私が何を気にしていたのか分かりますよ」


 ソレノンはそれだけ言ってコーヒーに口を付け、「にが」と呟いた。


「あと、これから謁見するけど、あなたたちに質問が来たら全部『ソレノン・ワッカーン様の言う通りでございます』で通せばいいから」


「分かったの」


 リーンは疑いなく頷くが……


 それってどういうことだ?


「二人はあまり強くありません。絶対に四獣将になんて勝てないということです」


「え? どういうことなの?」


「まあこの事件が無事終わったら、分かりますよ」


 オレの力を隠すってことか?

 でもなぜだ?


「あ、ソレノン様! まだいらしたのですね、良かったです! なんと急遽、今から謁見可能ということになりました! こんなことなかなかないですよ! 運がいいですね!」


 文官の女性が兵士を引き連れて、慌ててやって来た。


 ソレノンには予想通りのようで、ドヤ顔をしたのだった。


「あの、こちらのクリア様は、謁見はやめておいたほうがよろしいと思います」


 文官の女性が兵士に言った。


「なぜだ?」


「これを見てください」


 文官が見せたのは、オレの冒険者カードの写しだった。


「出身、イセッ、ぶほっ!? ……失礼した」


 兵士はとんでもない量の液体を吹き出した。

 文官の女性は躱すことができず、濡れる。


「うぅぅ……」


「失礼した。しかし王を待たせるわけにはいかない。クリア様以外の2人で謁見を行う」


 兵士は堂々と言った。

 しかしソレノンは食い下がる。


「いえ、クリア様も重要な人物です。3人でお願いします」


「いや、2人だ」


「3人でお願いします」


「2人だと言ってるだろ!」


「3人でお願いします」


 ソレノンは澄まし顔で繰り返す。


「王を待たせている。急ぐぞ」


 兵士は何も言わずに駆け足で案内する。


「結局、オレも謁見するのか?」


「ええ、お願いします」


 そしてオレたち3人は、王の間へやって来た。


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