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第14話 病弱美少女、四獣将を倒す。


「奥義、鷹の型、《天命之刃》!!!」


 曇りなはずの空から、光が差し込んだ。

 空からオレへ、一本の輝く道が生まれた。


 天空の先から、白く輝く刃が飛来してくる。

 真っ直ぐにオレに向かって、刃は高速で落ちた。


――いけるか?


 ああ、問題ない。


 オレは剣を振るう。

 そして同時に受け流せるという確信を持った。


 キイイイイイイン!!!!!!


 オレは受け流していた。


「なかなか面白い技だったな!」


「なっ!?」


「で? 奥義はこれだけか?」


 オレは聞く。

 この世界最強の一角、獣王。

 それに次ぐ実力者、四獣将イングウェル。


 まさかこの程度で終わりだなんて、思いたくなかった。


 確かに前の世界の最強は、この程度だった。

 しかしオレはこの世界に期待していた。

 新しい世界の奴らが強いことを、心から願っていた。


「終わりじゃないよな?」


「フハハハハハハ!!! 面白い!!! まさか我が《天命之刃》を喰らって生きているというだけでも驚嘆に値するというのに、無傷な上、そのような態度を取る奴がいるとは!! しかも人間の子供に!! その上、女の子ときた!! 傑作だ!! 傑作だぜ!! こんな面白いことがあるか!?」


 ほう。

 これで終わりというわけじゃなさそうだ。


 ニヤリ。

 自然と口角が上がる。

 オレも楽しくなってきた。


 同時にオレの中の不安がひょっこり顔を出した。

 本当に大丈夫か? と。


「ククク……名前、覚えておいてやろう。お前の名だ。教えろ」


「ふっ」


 名を聞くか。

 そのとき、


『オレは第15代剣聖アリク・シュガルド!』


 前の世界での名乗りが、脳裏をかすめた。


 違う。

 それじゃない。


「オレは、クリア」


 今のオレは14歳の女の子、クリア。


「まだ何者でもない、ただのクリアさ」


 そう、今はまだ何もなしていない――


「――だが将来、世界最強の頂に立つ者の名でもある!」


 オレはまるで若者かのような名乗りを上げた。


 透き通るような空気を吸った。


 大自然の空中で、オレと四獣将は互いに向かい合っている。


「クリアか、いい名だ。しかし……惜しいな。人間は皆殺しにすることになっているんだ。お前ほどの逸材も殺さねばならない。

 そうだ! こういうのはどうだ? お前が俺の奴隷になるんだ! そしてこの俺が自ら獣王に頼み込んでやる! そうすれば命だけは助かるだろう」


 ……何?

 オレが奴隷だと?


「ふざけるな!!」


「そうか……ならば仕方ない。後悔しても遅いぜ! 【覚醒】!!!」


 イングウェルから突然、膨大な魔力が噴き出た!


 同時に光り輝く!

 黒かったはずの羽毛は、黄金色に輝いている。


「なんだそれはっ!?」


 初めて見る技だった。


 とりあえず一目で魔力消費が激しすぎることが分かる。

 あんなの、もって一分というところだろう。多分、実際には30秒ももたない。

 それほどまでに、イングウェルは膨大な魔力を放出し続けいた。


 ビュン!!!


 イングウェルは輝く軌跡を残しながら、オレの目の前に現れた。


「速いっ!?」


「オラッ!!」


 迫る拳。

 オレはなんとか受け流しにかかる。


 ガキイイイイイイイイイイイイン!!!!!!


 くっ……なんてパワーだ!

 最初の拳とは比較にならないほど、威力が高くなっている。


 《半獣化》に【覚醒】の重ね掛けか。

 とんでもない威力向上だ!!


 イングウェルは攻撃を畳みかけてくる。


 ガキイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

 ガキイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

 ガキイイイイイイイイイイイイン!!!!!!


「隙がねぇ! なんて奴だ! これほどまでの威力の連続攻撃を涼しい顔で受け流していやがる!!」


 いや、正直かなりギリギリです。

 しかし相手の【覚醒】は魔力消費が激しすぎる。凌げば勝ちという状況だ。このまま耐え切れば、勝ちだ!!


 イングウェルの拳が迫る。


 くっ……

 オレはなんとか受け流す。

 《心剣憑依》を使っているのに、これほどギリギリなんて! 威力がバカ高すぎる!


「……ホント隙がねぇ! ならこれはどうだッ!?」


 そう言って、四獣将イングウェルは明後日の方向へ魔法を飛ばした。


 一瞬、何をしたいのか分からなかった。

 なんで全く戦いに関係のない方向に魔法を飛ばしたのか――



――直後、オレは雷が走ったかのような衝撃を感じた。


 違う!!!

 あれはリーンのいる方だ!!!


 イングウェルはずっと戦いに関係なかったはずのリーンを狙ったんだ。


 クソッ!

 汚い手を!!


 オレは咄嗟に剣を振り、剣技《飛斬》を放った。


 よし!

 大丈夫!

 空中でぶつかり消滅するコースだ!


「――隙ありだッ!! 俺のすべての魔力を以て、死ね!! 奥義! 《神・天命之刃》!!!」


 イングウェルから発せられる魔力がさらに膨大となる。


 やはり奥義は使えるのか!

 【覚醒】は非常に魔力消費が激しいが、奥義ではないらしい。だからこそ【覚醒】状態で奥義が放てる。


 しかし、これ……

 どれほどの威力となるのか、想像もつかない。


 曇りなはずの空から、神々しい光が差し込んだ。

 空からオレへ、一本の輝く道が生まれた。


 天空の先に、神々しく輝く刃が見えた。

 直後、目にも止まらぬ速さで刃は、オレを殺すため、放たれた。


 オレは――



――怒っていた。


 リーンを狙ったことに怒っていた。


 オレの隙を作り出すためにリーンを狙ったんだ。

 確かに生きるか死ぬかの戦いなら、後ろ指さされるようなことではない。勝った方が正義だ。だから四獣将イングウェルの行動におかしいところはない。


 だが――怒る。オレは怒る。


 感情は理屈じゃなかった。


 オレは怒っていた。


 神の刃がオレへと迫る。

 もう目の前に迫っている。

 ほんの一瞬たりとも、残された時間はなかった。


 だが、問題ない――


「――奥義、異能の太刀、《反転》」


 神の刃は突如、かき消えた。


 そして次の瞬間、神の刃は全く別のところから生えていた。

 イングウェルの胸に深々と突き刺さっている。


「馬鹿な……ゴフッ」


 イングウェルは口から血を吐いた。


「すげぇ……」


 一方のオレは自分のことなのに、まるで自分のことじゃないかのように驚き、感動していた。


 奥義は成功した。


 なぜか成功した。


 しかし放つ直前、なぜか成功するという確信があった。


 なぜか、というのは、通常なら放つことはできなかったと思うから。

 この奥義は非常に高い集中力が必要だ。《心剣憑依》の直後に連続で放つことができるような奥義ではないはずだ。少なくともこの体では不可能だと思っていた。


 もしかしたら怒りなのか?

 怒りの力とはそれほどまでにすごいものなのか?


「ゴフッ……俺は死ぬのか」


 四獣将イングウェルは刃が胸に刺さったまま、空中をふらつく。

 どう見ても死ぬのは時間の問題だろう。


「……だが、ただでは死なん!!」


 何っ!?


 イングウェルは一気にオレへと近づいた。

 そして――



「――うおおおおおお!!!!!! 《自爆》!!!!!!」


 ピ、ドガアアアアアアアアアアアアン!!!!!!


 オレは咄嗟に、奥義、七の太刀、《裏立》を使った。


 くそっ!

 きついかっ!


 奥義は失敗だ。

 30%くらいの力しか出ない。


 熱量を持った爆風が吹き荒れる。


 しかし爆風の中、オレは無傷だった。


 四獣将は、大した魔力が残っていたわけじゃないようだ。


「はぁ……」


 オレは地上に降り立ち、息を小さく吐いた。

 最後まで冷や汗ものだったな、この一戦は。


 ちらりとリーンの方を見ると、無傷のようだ。


「ふぅ……やはりこの体はきついな」


 オレはそんなことを呟きながらも、勝ったことにことに誇らしさを感じていた。

 こんな感情いつぶりだろう?

 ずっと勝つことが当たり前だったからこんな風に感じることなんて本当に久しぶりだと思う。


 ただただ、勝ったことが誇らしかった。


 そんな思いとともに、オレは意識を手放した。



 *


SIDE:リーン



「クリアちゃん!」


 倒れこんだ白髪の美少女に駆け寄るリーン。


 近づくと、すーすーという寝息が聞こえてくる。


 寝てるだけなの……

 とリーンはほっと息をついた。


 一方、四獣将の方はもう跡形も残っていない。


「よかった」


 四獣将が現れたときはどうなるかと思ったけど、本当によかった。


 その後、クリアちゃんがあたしを放置して戦い始めたときも、死んだかもって思った。たった一人で、ものすごい速度で地面へと落下して、本当に走馬燈が駆け巡りそうだった。


 あたしには高いところから落ちる経験なんてなかった。

 ……でもクリアちゃんの見よう見まねでなんとか制空して止めることができた。


 草むらで寝るクリアに、リーンは四つん這いとなって上から覆いかぶさる。

 そしてじっと見つめ、クリアの体をまじまじと観察した。


 かなり弱っている。

 でも表面的な傷はないようだ。


「本当によかった」


 リーンは小さく、クリアへとキスをした。

 唇と唇が触れ合うキスだった。


 白髪の少女は、もちろん気付かない。

 しかし黒髪の少女の頬は赤くなる。


 そして、慌てたように立ち上がるのだった。



―第1章 完―


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