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第13話 病弱美少女、四獣将と戦う。


「相手が強すぎるの! だから逃げよ? 領主様はもう飛び降りて逃げてるし!」


「強すぎる?」


 こっちには王国最強の一角、聖騎士様がいるんじゃないのか?


 だから心配するとすれば聖騎士様が獣人をすべて倒してしまうことかと思っていたが……


「クリアちゃんが強いのは分かっているけど、でも今回の相手は流石のクリアちゃんでも厳しいと思うの!」


「……誰なんだ?」


「獣王」


 獣王!?


 それって世界最強の一角だと領主ソレノンに教えて貰った奴じゃないか!


 そいつが今ここに?


 戦いたい!!


 だが――



――オレは不安を感じた。

 果たして戦って勝つことができるのか? この体は弱い。普通の女の子レベル、いやそれ以下かもしれない。よく風邪をひくということ以外にも、単純に身体能力とか魔力量とかが一般人レベルだ。いくらオレの剣技が素晴らしくとも世界最強の一角に勝つことができるか分からない。多分、奥義を3回も使ってしまえば限界だと思うし……


 昨日ギルドマスターと戦ったとき、あれは完全に前までの体の感覚だったのがいけなかった。

 そう。

 きっとまだオレはこの体の感覚に慣れ切っていない。


 部屋の片隅に置かれた姿見に映る自分をぼんやりと眺める。


 白髪に深青の瞳。

 かつての面影なんてどこにも見当たらない可愛らしい顔立ち。

 ボディラインにはくびれがあって、女の体であることが見て取れる。


「それに……」


 リーンが口を開く。


「実は四獣将っていう獣王に次ぐ実力者4人がいるだけど、そのうちの一人もいるらしいの」


 四獣将。

 獣王だけじゃなく、そんな奴まで来ているのか。


「だから逃げよ?」


 リーンが若干の上目遣いで提案してくる。


 ……しょうがないな。


 それにこの体はまだ14歳。

 まだまだ時間はある。

 焦る時じゃない。

 そうきっと、また戦うチャンスはあるさ。


「そうだな。逃げようか」


 リーンの手を取る。


「あっ」


「――《4次元湾曲》」


 瞬間、景色が切り替わる。


 青い空。そして、眼下には雄大な白い雲の絨毯が広がっていた。


 オレたちは重力に従って、体全体に風を受けながら落ちていく。


「えっ!? 何が起きたのっ!?」


 繋いだ手に力が入ったのが伝わってくる。


 ジェスチャーで、上を見て! ということを伝えると、リーンは目を見開いて驚いた。


「あれって飛空艇だよね!?」


「そうだ」


「もしかして、転移魔法を使ったの!?」


「まあそんなようなものだ」


 転移魔法がどんな原理かは知らないが、効果的には似たものだと思う。


 《4次元湾曲》は空間を曲げて少し離れた場所と繋げることで、瞬間移動するっていう技だ。

 奥義レベルには到達しない、ちょっとした小技である。

 空間を曲げるっていう技の性質上、戦闘では使い物にならない。レジストが簡単すぎるのだ。例えば相手の背後を取ろうにも、その相手を含めた空間ごと曲げる必要がある。それなら、曲げた瞬間レジストされたら失敗に終わる。


 とはいえ、こうやって障害物をすり抜けるときには使える技だ。


 上空の飛空艇はどんどん小さくなっていく。


 オレたちは重力に身を任せて、落ち続ける。


 雲の中に突撃しても勢いは減衰しない。


 真っ白な視界の中、リーンと繋がれた手に熱がこもるのを感じた。


――そして雲を抜け、視界が晴れる。


 眼下には雄大な自然が広がる。

 山や森、川、湖。


 ……ん?

 湖はその半分くらいが、赤く染まっている。


 なんだ?


 よく見ると、たくさんの何かが浮いている。


「死んでるの?」


 リーンの呟きで、オレも気付く。

 人だ。

 たくさんの人が湖に浮かんでいる。ピクリとも動かずに。


 確かに死んでいる。


「なんで? なんでなの??」 


 リーンの恐怖が伝わってくる。


 その気持ちは最もだ。

 この光景はあまりにも、おかしい。


 湖に浮かぶ死体は数十体。

 そのすべてが、まだ死んでから大した時間が経過していないように見える。


 腐ったような死体は見当たらないし、そもそもこんな場所で死体が放置されていればすぐにでも魔物のエサになっているだろう。それなのに、魔物に食べられたような跡がない。


 不自然だ。

 何者かの故意がなければ、このような状況は発生しない。


 何者かの……


 瞬間――殺気を感じた。


 しかしその殺気はオレに向けられたものではない。


 狙いはリーンだ!

 殺気は手を握り繋がれた先、リーンへ向けられている。


 オレは咄嗟に奥義を使う。


――奥義、三の太刀、《断絶》


 直後、


 ドオオオオオオン!!!!!!


 リーンが攻撃を受けた。

 しかし無傷。


 敵の拳はリーンの目の前で止まっている。

 《断絶》の効果だ。


 この技は概念的な繋がりを断つ技だ。

 【反転龍レクシオン】との戦いの時には、反転龍が纏う《反転装甲》を切り離す目的で使った。


 今回は空間的な繋がりを断った。

 空間は通常連続して繋がっている。その繋がり断つとどうなるか? 空間的な繋がりがない以上、例えばそこを通ろうとする拳は止まってしまう。そりゃそうだ。だってその拳が進む先には空間がないのだから。


 結局のところ、通常の攻撃はすべて無効化されてしまう。

 ちなみに奥義、四の太刀、《虚空斬》はこれを破るために生み出したものだったりする。

 逆に言うと奥義レベルの攻撃じゃないとビクともしない。


 その拳の主の表情は、驚愕に彩られていた。


「何だとッ!? 俺の拳を止めただとッ!?」


 ソイツは30歳ほどの男だった。

 しかし特徴的なのはその腕。鳥のような羽根が手の甲から腕にかけて生えていて、人間ではないことは明らかだった。


「やはり獣人か」


 重力に逆らって、オレは空中に立った。

 一方リーンはそのまま落下し続けているが、リーンの実力から考えれば時速200キロの速度で地面に落ちることくらい全く問題ないだろう。


 オレは空中に立ったまま木刀を軽く振り、その獣人の男と相対する。


「てめぇが止めたのかッ!?」


「そうだな」


「なるほど。今日の俺は損な役回りかと思ったが、なかなか先ほどから楽しめる奴らが降ってくるじゃねーか!」


「楽しめる、か。むしろオレはお前ごときがオレを楽しませられるのか、聞きたいがな」


「ククク、ハハハハハハ!! 面白い! この俺、四獣将の一人イングウェル様を雑魚扱いか!?」


 四獣将だと!?


 こいつが?

 体は細めだが、痩せているというよりは引き締まっているという表現が正しいか。無駄な脂肪はなく、身軽だがパワーもありそうだ。


 鳥型の獣人らしい体型なのかもしれない。


「へぇ、四獣将か……それは少しは楽しめそうだな」


「粋がる人間のガキが! ……確かに、オレの拳を止められる人間なんてほとんどいない。人間の中では負け知らずだったかもしれん。だから四獣将が直々に世界の現実って奴を教えてやるよ! しかし獣人は人間どものような生ぬるさなんて持ち合わせていねーんだ。つまりどういうことか分かるか?」


 四獣将イングウェルはそう言って、視線を血の湖へ送った。


 たくさんの死体が湖に浮いた惨状。


「そうか。あの惨状はお前がやったのか?」


「ああ、そうだ。あの中の一員になりたくなければ……さあ、少しは楽しませろよ」


 四獣将はそう言って――



――一瞬で加速した。


 速い!!


 ギイイイイイイン!!


 四獣将の拳を咄嗟に木刀で受ける。

 しかし、吹き飛ばされてしまう。


 空を蹴り、なんとか体勢を立て直す。

 くっ……


 四獣将。

 その称号に違わぬ実力を持っているようだ。


 しかし……空中戦は苦手だな。

 それに相手は鳥系の獣人だ。

 ここは相手のフィールドだろう。


「フハハハハハハ!!! 一度ならず2度までも我が拳を受けて無傷とは!! 驚いたぞ、人間よ! しかし、なんという僥倖! このような場所でこれほどの相手と戦えるとは!」


 四獣将はそういうが、今のやり取り明らかにこっちが押されている。

 地上戦に持ち込むか?

 いや、それ以前の話か。

 純粋なパワーに勝てない。

 奥義を使えば対抗できるが、魔力的にもこの体の脆さ的にも3回使うのが限度だ。しかもさっき一度使ってしまったので、残り2回か。


 いやできれば2回も使いたくない。

 奥義はあと1回で決めたい。

 この体は弱い。

 あと2回も使ってしまえば、ひどい風邪をひくかもしれない。


「仕方ない――奥義、二の剣心、《心剣憑依》!!」


 オレは奥義を放った。


 《心剣憑依》

 これはその名の通り、心剣を俺の持つ木刀に憑依させるという技だ。

 心剣というのは、心の剣。何百、何千、何万という素振りの末、心の中に作られる剣。心の中にあるその剣は、オレの半身と言っても過言ではない。それほどまでにオレは剣に人生を捧げてきたし、その結果心剣は限りなく強くなった。その心の中にある剣を今持っている木刀に重ね合わせる。その結果、木刀はオレの剣そのものを背負い、輝く。


 この奥義は一度の使用で長時間持つタイプの奥義であり、消費エネルギーもかなり少ない方だ。

 それでもこれは奥義と呼べるだけの力を持っている。

 例え自分自身のパワーが弱くとも、剣が補ってくれる。


「奥義か、面白い! ならばこっちも本気を出すぜ! 《半獣化》!!」


 四獣将のイングウェルは、見た目が変わっていく。

 体中から羽毛が生え、腕は幅広になる。翼というほど幅広ではないが、普通の腕の大きさではない。

 上半身が多少大きくなり、顔の形も変わる。


 それはまさしく半獣化だった。

 人間と鳥の中間のような見た目になっていた。


 シュン!


 イングウェルは一瞬でオレの目の前に現れた。


「死ね!」


 キィィィン!


 オレは難なく受け流す。


 ふむ。

 攻撃力はかなり上がったようだが、同時に繊細さが落ちているようだ。

 総合的に見れば確かに相当強くなっているが、技術的な部分がお粗末すぎて負ける気はしないな。


 今度はオレからイングウェルに近づく。


 キンキンキンキンキンキン!!!


「ぐぅ……!!!」


 明らかにこっちが押している。

 オレが一振りすれば、イングウェルは腕に魔力を込めなんとか受けようとする。しかしその度に体勢が崩れていく。《半獣化》によって生まれた圧倒的なパワーで補おうとするが、オレの次の攻撃の方が早い!


 イングウェルは隙だらけになっていた。


 今、奥義を放てば勝だろう。

 しかしこの体に奥義を放つことができるのか?

 《心剣憑依》は軽い奥義だ。だから解除してすぐに使えると思う。


 特に、奥義、一の太刀、《確定剣》なら確実に放てるだろう。

 ただ、奥義、九の太刀、《魔纏一刀》の方だと放てるか分からない。


 《魔纏一刀》を放てれば確実に一撃で殺せる。

 だが《確定剣》だと怪しい。こっちだともしかすると相手がギリギリ生き残る可能性があるかもしれない。そうなると、オレはもう奥義を3回使ってしまっているので多分体が限界だ。限界を超えて戦うことになるかもしれない。


 しかし限界なんて超えたくないし、そもそも限界ギリギリもなるべくなら避けたい。

 この体は前の体みたいに頑丈なわけじゃない。

 できれば、もうこれ以上奥義を使わずに倒したい。


「ぐぉおおお……!!!」


 イングウェルはオレの剣を喰らい、細かい傷が増えていく。

 しかしまだ大きな傷はない。


 このまま押し切れるか?


 イングウェルは羽ばたいて、距離を取った。


「やるな、人間の嬢ちゃん! 正直ここまでとは思ってなかったぜ! だがこれを使ってしまえばいくらお前さんが凄くとも、終いだ。楽しかったぜ! 俺の糧になったこと誇りながら死んでゆけ! 奥義、鷹の型、《天命之刃》!!!」


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