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第11話 ヘロヘロ村の美少女、戦う。


 リーンはクリアと二人で仮眠室へやってきた。


「わあ、すごい! 全然寝るだけのところって感じじゃないね!」


 リーンは興奮する。


 そこは仮眠室という名前からは想像できないような、高級感のある個室だった。

 領主館の個室のようなシンプルながらも上品な美しさを持った綺麗な部屋だ。もちろん領主館に比べれば部屋の大きさは狭いが……


 クリアはベッドにダイブした。

 ベッドは白髪の美少女を優しく支える。


「あたしも!」


 リーンもベッドへとダイブする。

 クリアの横の狭いスペースにリーンは収まる。


「柔らかいね!」


「ああ」


 リーンは体を横に向けて、リーンの方を向く。

 クリアと目が合う。


「クリアちゃん、かわいい」


「リーンもかわいいよ……一緒に寝るか?」


「ん~、どうしよ」


 服屋もみたいんだよね……

 でもクリアちゃんと一緒に寝るのも魅力的だよ。


 リーンは悩む。


 そうだ!


 リーンは閃いた。

 両方取ればいいじゃん!


「ねぇ、クリアちゃん、目、閉じて?」


「こうか?」


 クリアは疑いもせずに目を閉じた。


 とても綺麗な顔だと思った。

 鼓動が速くなる。


 ええい!


 リーンは勢い、クリアの頬に唇を付けた。


 そして即座にベッドから離れる。


「リーン……」


「クリアちゃん、じゃあね!!」


 リーンは顔を真っ赤にして、部屋を出た。


「……はぅ」


 リーンはやってしまった、と思った。

 唇じゃなくてほっぺにキスをしたのは日和ったからだけど、リーンは日和って良かったと心底思った。


 そもそも別に恋愛的にどうとか思っているわけじゃない。

 あくまでも友人として、だ。

 ただクリアちゃんが聖騎士ルーコフとおでこ合わせをしたとき少し嫌な気分になったから、ちょっとあたしもそれ以上のスキンシップをしたかったというだけだ。


 リーンは内心、言い訳をする。


 そもそも、キスはクリアちゃんのためだ。

 あたしが一人で服屋に行くと、クリアちゃんが「オレ、もしかして嫌われてる?」とか思うかもしれないし……


 そうだそうだ。

 だから頬にキスをして服屋に行くのは最善なんだ。


 リーンは内心言い訳をしながら、心ここにあらずの状態で第二棟の3階、服屋へと向かうのだった。



 *



 リーンは服屋を見て回る。


 ……すごい。


 色鮮やかな様々な服がたくさん並べられている。

 服を着た人形が店頭に並べれていて、そのどれもがスタイリッシュで目を引く物ばかりだ。


「お客様、お綺麗ですね。当店の服を見ていかれては、いかがでしょうか」


 カッコイイ男性に話しかけられて、珍しく固まってしまったリーン。


 村のダサい男どもとは全然違う!


 内心、少しテンションが上がるが、


(あたし、変じゃないよね?)


 不安になってしまう。

 本当は超絶美少女と言って過言ではない容姿なので、むしろ店員の方が相手にされていないんじゃないかと不安になっているのだが、リーンは気付かない。不安になって、まともに相手の方を見れていないのだ。見なければ当然、リーンの自慢の観察眼も役に立たない。


 店員は勇気を振り絞って勧誘を続ける。


「当店は現在スカートフェアをやっておりまして、世界各地の様々なスカートを取り寄せております! さあさあ、見るだけでも結構ですので、どうぞ中に!」


 中に入ると色様々なスカートが並べられている。

 そしてそれを見ている人は、みんな美人だ。服装もとってもオシャレで、自分がこんなところにいてもいいのかな? 場違いかも? とリーンは自信を失った。


 でもあたしはあの超絶美少女のクリアちゃんの友達なんだ!


 クリアちゃんに比べれば、ここの人たちなんて……ううん、比べることすらおこがましい。


 虎の威を借る狐のような発想で自信を取り戻したリーンは、なるべく堂々と店の中に入るのだった。



 *



 スカートの店に始まり、様々な店を見て回る。 


 平和に、それは平和に見て回っていた。


 だが服は買っていない。

 お金はソレノンからおこづかいを貰ったので大丈夫なのだが、リーンは一度すべての店の服を見てから決めようと思っていた。


(でも全部見るのは無理かも……半分、も無理そう)


 リーンは何度も試着したりと、かなり時間を使っていたため、今のところ、まだ5店舗目だった。


(この店はいろいろ売られているけど、シンプルな服が多いのかな?)


 リーンは服を見る。


 そんなとき――



――ウーウーウーウー


 サイレンの音が鳴り響く。


 え?

 何が起きたの?


 リーン同様、人々も何が起きたか分からず騒がしくなる。


 バリン!!!!!!


「うわっ」


 何かが破裂するような爆音が響き、飛空艇全体が揺れた。


「何が起こったの?」


 リーンは何が起きたのか分からない。

 リーンですら分からないのだから、その他の群衆が分かるはずもない。辺りは混乱に包まれる。


 ただリーンには直感があった。

 クリアのところに向かった方が良い、と。


 ここは第二棟の3階。

 クリアのいる仮眠室は船内だ。そこに行くためには、第一棟から地下に入る必要がある。つまり一回外に出なければならない。


 リーンは持ち前の素早さを使い、群衆の上を駆け抜ける。

 そして階段を駆け下りる。


 その中でリーンは気付いた。

 群衆の喧騒の中で消えそうになっているが、確かに悲鳴が聞こえることに。


(かなりまずいことが起きてる……かも)


 リーンは駆ける。

 そして外に出た。


「何これ??」


 そこは戦場――と呼ぶにはあまりに一方的な惨劇が行われていた。


 そして一際、目を引くのは――



――人の姿でありながら獣の耳や尻尾を持つ獣人。


 それは、デルタ王国にいるはずのない種族。

 もちろんリーンは初めて獣人という存在を目にした。


 何……あれ……


 人は知らないものに出会ったとき、悪い印象を持つようにできている。

 それはリーンについても同様だった。

 獣人という全く初めて相対する生物相手に、リーンは嫌悪感を抱いた。


 だが、その姿はほとんど人間と同じだ。

 耳と尻尾が異なるだけ。

 しかしピクピクとネコミミが動き、毛むくじゃらな尻尾が揺れる度に、リーンの中で不快感が沸き上がった。



「ひいいいいいい!!!!!!」


 一人の女性は大声を上げながら獣人から逃げている。


「オセーんだよっ!!」


 その獣人は女性を蹴り飛ばした。

 女性は血をまき散らしながら冗談のように吹っ飛び――そして飛空艇の外に放り投げられてしまった。


「うわああああああぁぁぁぁぁぁ」


 女性の悲鳴がだんだんと小さくなり、聞こえなくなった。

 リーンは急いで第一棟に行こう! と思った。

 こっから第一棟までには何人か獣人がいる。リーンの観察眼によると一番強い奴で戦闘力3万ほど。戦えば負けてしまうが、第一棟に逃げるだけなら何とかなるかもしれない。


 クリアちゃんのところに行くか、それとも第二棟に戻って騎士団とか聖騎士が獣人を何とかしてくれるのを待つか。

 リーンはどっちを選択すればいいかなんて、全く分からなかった。


 本当に分かんない。

 分かんないよ……


 騎士団や聖騎士が、多分なんとかしてくれる。

 だから第二棟に戻ってそれを待つ方がいい。


――本当に?


 リーンはそれじゃダメなような気がした。


――もし聖騎士様が負けたら?


 聖騎士が負け、第二棟に獣人たちが押し寄せる未来を想像する。

 そして、何もできずに圧殺される未来を想像したリーン。


――嫌だ!


 クリアちゃんのところに行こう! そっちの方が良い!


 リーンは駆けた。


 真っ直ぐに第一棟へ向けて駆ける。


 しかしその直進路上に、一人の獣人が割って入ってきた。


「歯ごたえがねーな!! オレを楽しませてくれる奴はいねーのか!? なァ!?」


 リーンはその眼で獣人を観た。


 ぱっと見、頭部に三角の金色の毛の耳が生えている以外、普通の人間だ。

 そして――


――戦闘力は5000ほど。


 あたしの戦闘力は5000だから、全くの五分。


 だけどリーンのこの数値には、その卓越した分析眼の力は含まれていない。

 分析眼を含めた場合、リーンの戦闘力はいかほどになるのか。ただ言えることは、戦闘力5000程度には負けないということだ。


「お前はオレを楽しませてくれんのかァ!?」


 獣人が回し蹴りをしてくる。

 リーンは体勢を蜘蛛のように低くし、速度を殺すことなく獣人に近づいた。


 首。

 心臓。


 急所を狙うことはできた。

 でもそれはしなかった。


 否、リーンにはできなかった。


 リーンは人を殺したことがなかった。

 獣人とはいえ、見た目は人間にそっくりだ。そんな存在を殺すということに、リーンの心の最後の壁がリーンに殺すことをためらわせた。


 そしてこの一瞬の戦闘では、小さなためらいが大きな違いを生む。


 リーンは絶好のチャンスを逃し、第一棟へと駆けた。


 しかし結果的に、これは最善の選択だった。


――左右から二人の獣人が接近してくる。


 戦闘力は3000と2万……


 あたし、いけるの?


 ……。

 違う、行くしかないんだよ!!


 リーンは細剣をぎゅっと握りしめ、集中力を極限まで高める。


「それはオレの獲物だァ!! 手ェ、出すんじゃねぇぞ!!」


 後ろから何かが吠えた。


 すると接近してきていた獣人の足がぴたりと止まった。


「ずりーぜ、こんなカワイイ獲物と楽しいことできるなんてよ!」

「そうだぞ! ふざけんな!」


 二人の獣人が後ろの獣人に言っているようだ。


 チラリと振り返る。

 後ろの獣人は――



――さっきの獣人だった。


 リーンは知らないことだが、獣人の世界では戦いの最中に横から手を出すのはマナー違反となる。

 つまり最初の獣人がリーンと戦い続ける限り、他の獣人がリーンに手を出すことはない。


 グオオオオオオオオオオオオン!!!!!!


 その獣人は吠えた。

 すると筋肉が膨れ上がり、体が一回り大きくなる。全身からは毛が生え、顔つきは人間のものから獰猛な肉食獣のものへと変わっていく。


 何それ!?


 リーンは初めて見る現象に驚きを隠せない。


 ビュウウウウウウン!!!


 より獣に近くなった獣人は、弾丸のような速度でこっちに突っ込んできた!


 リーンの駆ける速度よりも速い。


 くっ!

 ギリギリのタイミングで地面を蹴り、なんとか躱す。


 リーンは地面を転がるがすぐに立ち上がり、再び駆ける。


「これは《半獣化》って言ってなァ……本来の獣の力を借りることで、圧倒的なパワーを得る技なんだァ……多少の時間制限があるのが難点だがなァ……」


 その獣人は余裕綽々といった風貌で、聞かれてもいないことを語る。


 だがリーンはその行為を傲慢だとは思わなかった。

 それほどまでに相手と自分の実力は離れている。


 《半獣化》……これによって戦闘力は5倍にまで膨れ上がっていたのだから。


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