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第1話 その少年、自称悪魔の少女と出会う

「_______うわぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」

気味の悪い浮遊感、そしてこの世の終わりかと思うほどのすさまじい絶叫とともに飛び起きた樹紀。

勢い良く上体を起こし、冷や汗びっしりの状態で荒い呼吸をする。

しかし、自分の周りに広がっている光景を目にした途端、今度こそ心臓が止まりそうになった。


どこまでも続き、所々に可憐な花々が咲き乱れている草原。

雲一つない、清々しいほど青い空。

そして遠くにはうっすらと、雄大な山々がその頂上に雪を積もらせて(そび)え立っているのが見える。


そんな大景を目の前に、茫然とした、間抜けた顔で一言ぽつり。


「マジでどこだ・・・ここ・・・?」


自分がどこにいるかわからず、一気に頭の中が???で埋め尽くされる樹紀。上から容赦なく照り付けてくる太陽の輝きに目を細め、思わず顔の上に手を翳してカバーしながら、何とか状況を把握しようと周りを見渡す。すると、今の今まで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に一人の少女が横たわっていた。


歳は12くらいだろうか。透き通るような白い肌に北欧系の端正な顔立ち____たとえ目を閉じていても人を惹きつけるような、天使を彷彿とさせるほどに可憐だ____をしたその少女は、太陽の光を反射してきらきらと輝く、まるで黄金で出来ているかのように美しい金髪を地面に無造作に広げている。

だが、注目すべき点はそこではない。


「う、うわっ・・・!? なんで裸なの!? え、ちょ、こんなん完全に事案じゃん!?」


少女は一糸纏わない姿で倒れている。

つまるところ、全裸である。


度重なる理解不能な状況に頭がフリーズして、少女の華奢な身体を数秒ほど眺めてしまっていた樹紀だったがすぐに我に返り、とっさに手で(無意味に)両目を覆い急いで顔を背ける。

健全な男子高校生には、このくらいの歳の女の子の裸はいささか目に毒なのである!


そんなことをしている最中にも樹紀の脳内は混乱を極めており、何から解決していけばいいのかすらわかんなくなってしまっていた。とりあえず、状況を一つ一つ分析する。


(えっと、えっと、俺の名前は淡浪樹紀(あわなみいつき)。高校生で、確か昨日の夜は家のベッドでちゃんと寝て、変な夢を見て、いまこんな状況にいる。よし、記憶とかがなくなってる感じじゃなさそうだな。次に、えっと、なんでここにいるかはわからない、隣で倒れてるこの子もだれだかわかんない・・・・てことは、この子がなんか知ってるかもしれないけど・・・・)


指と指の間に隙間を作り、恐る恐る少女を覗き見るが、少女の慎ましくもちゃんと()()胸が目に飛び込んできたため、またもや速攻で目を背ける。

いったい何が起こったのか、少女は知っているかもしれないがもしここで躊躇なく起こしてしまったら、自分が裸に剥かれていること知らなかった場合に樹紀が責められてしまうだろう。

それも「きゃーえっちー」なんてもんじゃない。「すみません警察ですか助けてください変質者がいるんです!」になる確率が圧倒的に高い。


どうしよう起こそうかな、いややっぱりそっとしておこうかな、などと考えているその時だった。


「_______んぁ?」


鈴を鳴らすような、幼い少女特有の甘い声がした。

ぎくっ、と背筋をこわばらせる樹紀。まるで錆びついた機械人形のような動作で後ろを振り向く。


太陽が眩しいのが瞼越しでもわかるのか、少女は眉間にしわを寄せゆっくりとした動作で右手を顔の前まで持ってきて、目を擦る。

そして非常にゆっくりとした動作で起き上がり、両目をごしごしと更に擦って意識を覚醒させたようだ。少女の眠たげで若干焦点のあっていない目線が宙をふらふらとさまよい、間近でそちらを振り返っていた樹紀と目が合ったところで目線の動きが止まった。鮮やかな翡翠色をした、珍しい瞳だった。


その目が徐々に大きく見開かれ、これ以上開けないんじゃないかっていうくらい真ん丸にさせた後、少女は口を開いた。

そして小さく呟く。


「あんたが、私を【召喚(コール)】したんです?」


「・・・え?」


予想外の一言だった。

もう樹紀の頭からは、どこにいるのか、目の前にいるのは誰なのかといった疑問は吹き飛んでいた。


ぽかーん、と口を開けたまんまになった樹紀に対し、少女はなんらかの結論を脳内で導き出したのか、納得したかのような表情でこう続けた。


「やっぱり。その右手にしっかりと私の紋章が刻まれてるのです!」


「はっ、えっ、右手?」


樹紀が自分の右手に目を落とすと、手の甲にいつの間にか見たこともない奇怪な紋章が刻印されていた。しかもかなり大きく。

このくらいの大きさならふつう気づくはずなのに、なぜ今の今まで気づかなかったのだろうかと疑問に思ったが、それよりももっと気になることがあった。

召喚(コール)】、という言葉。

さっぱり意味が分からず、こちらの顔をまじまじと見てくる少女に問いかける。


「えっと、あの、【召喚(コール)】・・・って、なに・・・?」


「えっ?」


「えっ?」


今度は少女が疑問の声を上げる番だった。

ちょっと驚いたような顔をしつつ、少女は疑念の混じった声で説明して声を荒げる。


「【召喚(コール)】っていうのは、私たちみたいな()()とか、使い魔を召喚するときに魔術師が使う術式を示す総称なのです・・・って、こんなの説明しなくても普通わかるです! あんたほんとに魔術師なんです!?」


「はっ、えっ、悪魔?使い魔?魔術師?術式? な、なにを言ってるんだかさっぱりわかんないんだけど・・・どういうこと?」


素っ頓狂な声で聞き返した樹紀に、ますます変なものをみるかのような表情になる少女だったが、


「・・・もしかしてあんた、【異世界】の人間なのです??」


またもや変な問いを投げかけてきた。


「おいおいちょっと待ってくれ! さっきからファンタジーみたいな単語つらつら並べられても困るんだけど、一体全体どういうことなんだ!?」


すると少女は一転真顔になって、面倒臭そうな表情になり、嫌々といった調子で聞いてきた。


「じゃあ質問を変えるです。

あなたが今までいた世界には、【魔術】とか【悪魔】っていうものは存在してたですか?」


「えっと・・・、まぁ単語はあったけど、そんなの現実にはあり得ないし、悪魔とかも実際にいるか怪しかったし・・・まぁ存在してなかったし、するわけないよな」


「うん、わかったです。あんたは【異世界】の人間で決定なのです。」


まさかの断言だった。しかも自信たっぷりに。


「は、はぁ!? 何を一体どうやったらそんな結論に至るんだよ!?」


「いやそれは_________うん?」


思わず声を荒げた樹紀だったが、少女は首を傾げたかと思うと、ふと自分の身体に視線を移した。


上体を起こしていても、地面にぶわさぁーと広がるほど長い金髪が、胸や下半身といったアウトな部分を見事に覆い隠していた。なんだこれ、人類は髪の毛すら衣服にできちゃうのか。

しかし、自分の身体を見つめた状態で少女は固まった。

少女の顔は、次第に目に見えるほど赤くなり始め___________

しまいにはこめかみに青筋すら立つほど真っ赤になって________

怒りを込めた目で樹紀をキッと睨みつけ_______________


「こんの・・・・・ど変態やろぉおおおおおおおおおがああああああああああ!!」


ズッッッッッパァァアアアン!!! と、少女の小さな掌が樹紀の頰にすさまじい勢いでぶち当てられた。


「うぼあっっっっっ!?」


あまりの勢いの強さに軽く脳震盪を起こしそうになった樹紀は、強烈な一撃を食らった左頬を片手で抑えた。まるでスパナとか木材とか、そういう鈍器系の武器で一発やられたような感覚である。

反射的に尻もちをつき、四つん這いの姿勢で少女から距離をとる。

あの少女のどこにそんな力があるのか若干疑問に思ったものの、さすがに一発平手打ちしたためもう気が済んだかなと思い、恐る恐る少女を振り返るが、


「一体全体どこに正当な悪魔を全裸で呼び出す馬鹿者がいるのです!? マジでバッカじゃねぇの、私は 淫魔じゃないしそもそもあんな奴らと同等に扱わないでほしいのですッッッ!!」


かんっぜんにブチ切れてた。

もはや自分が素っ裸であることも気にせず、勢い良く立ち上がって右手を握りしめた少女。

_______あ、これ、完全にぼこぼこにしてくる奴だ!


「待って待って、お願いだから()()()()()! 一回俺の話を________って、え?」


樹紀が驚いた声を上げたのは、目の前にすさまじい威力を持った拳が迫ってきたからではない。

むしろその逆だ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

どうやら少女の表情から察するに、必死で体を動かそうとしているようだがうまくいかないらしく、その姿勢は一ミリもぶれずに静止している。

ますます訳が分からなくなる樹紀だったが、そこで口を開いたのは少女のほうだった。


「・・・・・・どうやらあんたは、本当に私のご主人様らしいのです。まだ【召喚(コール)】されてから一時間も経っていないというのに、【令呪(オーダー)】を使いこなすなんて・・・」


「お、オーダー? というか、なんでそんな姿勢のまんま固まってるんだ!?」


「いいから、ごちゃごちゃ言わずに『動け』と私に言うのです。そうしない限り私はずっとこの状態で固まってなければいけなくなるのです」


「あ、あぁ。よくわかんないけど・・・()()


すると少女の体が急に動き、慣性の法則に従って樹紀のほうに倒れこんできた。

ぼすっ、と華奢な少女の体を受け止めて抱きしめるような格好になると、少女が覆いかぶさったまま至近距離で妖艶な微笑みを浮かべた。

そして心臓をバクバクさせている樹紀の耳元でこう囁いたのだ。


「はじめまして、ご主人様。

私の名前は【セイファ(虚無)】。序列第97番の魔界の侯爵令嬢にして、虚無を司る大悪魔。

これからよろしくお願いするのです」


記念すべき第1話!、と言いたいところなのですが、しょっぱなから飛ばしてますね・・・。

ただ一日一話投稿みたいな感じにしていくので、第2話も楽しみにしててください! 

評価やレビューなどを書いてくだされば励みになります。

よろしくお願いします!


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