第4話 足音跫然
────東京都港区に位置する『天王学園』の周辺には生徒の為と称し、様々な施設が建設されている。
大型ショッピングモールに巨大な図書館、ゆったりくつろげそうなカフェがその一例だ。そんな建造物の中にはあの東京ドームの約二倍を有する程の競技場まである・・・・・・。
そのせいか知らないが、最も近い駅は学園からかなり離れていて、駅を降りてから約五キロの道のりを歩かなければ学校にはつかない。
これからは学校から徒歩三分の寮に住むため問題は無いのだが、初日の今日だけはそこそこ重い荷物の入ったスクールバックを持ちながら、その道を歩かなければならないのである。
そんな中、残り五百メートル程というところで彼女に出会ったのである。
「それにしても今年は何十人位入学するんだろうね?」
「今までも三クラス分作ってきたらしいから、今年も九十人位かな?」
「そうなんだ! 詳しいね!」
「そうか? ホームページに乗ってるぞ」
「そんなのあるんだ。あとで見てみよっ!」
見てない人もいるんだな。普通、自分の行く学園のサイト位チェックするものだと思っていたが。
それにしてもさっきから華以外の生徒を見ないな・・・・・・
「他の生徒はまだ来てないんだな」
「え?何言ってるの?だってほら」
そう言って華はスクールバックの中から入学書類を取り出しあるページを指さした。
「え」
驚きで思わず声を出してしまった。そこに書いてあった集合時間には午前九時半の文字。
そして現在の時刻は・・・・・・午前七時半である。
つまり俺は集合時間を七時半と勘違いして二時間前に来てしまったわけだ。
「え、じゃあなんで華はこんな時間に来てるんだ?」
「何となくかなー。私、昔っからこういうの早く来なきゃ気が済まない性格なんだよね・・・・・・」
華はその綺麗な口元に薄笑いを見せて静かにそう言った。だからって故意に二時間前にくる人いるんだな・・・・・・
「あ! 見えたよ!」
そうこうしているうちに目で見える所まで来てしまったらしい。
学園はどこまも続く鉄製の柵に囲われていて、奥には全貌がわからないほど巨大な建物が見えている。
柵の真ん中にある大きな門は、軽トラ四台位なら横に並んで同時に入ることだって出来そうだ。
そんなことを思ってる内に段々と門が近づいてくる。
近くで見ると監獄にすら見えてくるな・・・・・・
そして────
「お、大きいね・・・・・・」
「そうだな・・・・・・」
門の前にたった俺達は、その巨大な校舎に唖然としていた。いや校舎と言うよりも、ビルと言った方が正しいだろう。
壁のほぼ大半がガラス張りとなっているそのビルの窓は、朝の静かな太陽の光で輝き、眩しいくらいだった。
四十階程あるだろうか。しかもそのビルは一棟だけではなく二棟も横に連なっている。
周りには体育館と思われるドーム状の建造物、その他にも、もはやなんの建物かわからない謎の建造物がいくつも建っていた。
「ねぇ、慧くん。同時に門を潜ろうよ」
「いいぜ」
その自信に満ちた顔つきをしている華の眼差しからはこれからの学園生活への期待感と不安が織り交ざったなんとも言えない感情が滲み出ていた。
「いくよ? せーのっ!」
わざとらしい程、足を上に上げて俺と華は、同時にその門の境界線を超え、思い切り一歩を踏み入れる。
『トンっ』
ローファーの清々しい足音が辺り一面に響き渡った────