メイド長の教え
メイド爆誕☆
コツコツと、俺が履いているヒールが音を鳴らす。今向かっているのはダンスホールだそうだ。モンスターが湧かない所で建物の状態も良く、礼儀作法を教えるのに最適だとメイド長は言った。
「ふふっ、ごめんなさいね。話すのが久々だからついつい教えたくなったちゃったのよ」
「そう、なんですね」
そりゃあそうだろうな…古代魔道時代がどの位前の時代なのかは分からないがこのツタの生えよう、アンコールワットみたいな家々、少なくとも300年は前のことだろう。
その時からこの人は居たのか、設定とはいえ、このゲームのことだ何かしらやっていたんじゃないか……
「さぁ、着いたわよ。ここであなたにメイドとは何かを教えていくわ」
え??礼儀作法とかしゃべり方じゃないの?メイドとは、何かって…俺メイドになりたいわけじゃないんですけど!?
「いや…お、私は別にメイドになりたいわけじゃ無いんですが」
「えっ…なって、くれないのかしら?」
頼むってマジで、泣き顔とかなんとも思わないけどいたたまれたくなるだろーが……。
しゃあねぇ、なって損は無いだろうしメイド服着てんだ、今更メイドになろうがなんだろうがどうでもいいわ!!
「はぁ…なりますよ……」
「ふふっ…ありがとう。一人くらいは弟子が欲しかったの些細な願いだけど、叶って良かったわ…」
そういうことなら一生懸命やってやろうじゃねーですか。死者の願いは死の王様が叶えてしんぜようってね。
「じゃあ…メイドになって貰うために、サブ職業を設定して貰おうかしら?」
サブ職業ってなんすかそれーー!!?
「サブ職業ってなんですか!?」
「あっ…あら?知らない?メインの職業より既に補正は下がるけどもう一つ職業を付けられるのよ。この〖天職の宝玉〗って言う魔法道具を使って行うんだけど…。あぁ、そういえばこの魔法道具、この国原産だからもう無いのかしら?」
サブ職業とんでもねぇ……この国原産でもう無いかもしれないってことは…うわぁ、このクエスト受けて良かったぁ!!
「じゃ、サブ職業を設定するわよ?ふんふんあら、あなた盗賊なのっ………吸血鬼ですって!?」
えっ…ステータス見られたっ!?ヤバい、吸血鬼って確か人間と、敵対していたってチュートリアルって言ってたはずっ…
「いっ、いやこれはその…」
「どうりで服とかネグリジェだったわけね!あなたもしかして城に安置されてた吸血鬼じゃなくて?」
なっ!?俺が棺に入っていた事を知っている!?どういう事だ?
「何で知っているんですか……?」
「あら、私は城のメイドやコックを総統する立場だったのよ?ある程度の秘密なら知ってるわ。例えば誰がどの貴族の愛人とか…ね?あなたは王がダンジョンから持ってきたって聞いてたけど、まさか今復活するなんてね?城のお抱え魔術師達は魂が無いとかうんたらかんたら言ってたのに。ビックリだわ!」
「あの、吸血鬼に嫌悪感とかは無いんですか?」
「あらやだ…こんな可愛らしいのに嫌悪なんて湧くわけ無いじゃない!ふふっ…可愛い子のお師匠様になれるなんて最高ね!」
可愛いって…男なんですけど。いつ言ったら良いんだろうなぁ。
まぁ、いいか。めんどくせぇ。
「よし。設定したわ、見て貰えるかしら?」
おお…どうなったんだろ。
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name レイ 《ランク2》
吸血鬼 《男爵級》LV1/30 JobLV12/25《盗賊》
JobLV1/25《メイド》
HP4400/4400 MP5400/5400
ATK 50 AGI 750 DIF 25 MIN 25
STR 50 INT 500 DEX 50↑25up LUC 150↑50up
ステータスポイント残り 75
スキルポイント残り 6↓2down
《種族スキル》
吸血LV1 再生LV1 霧化LV2 血魔法LV2 飛行LV1
《スキル》
隠密LVMax 暗殺術LV1 気配察知LV2 歩法LV5↑2up
軽業LV2
短剣術LV5 死霊魔法LV3
《装備スキル》
・家事LVMAX 生活魔法LV5 幸運LV3 礼儀作法LV5
《称号》
【死に恐怖なき者】デスペナルティ時のステータスダウン半減
【死の征服者】デスペナルティ時のステータスダウン四分の一
【死の王】デスペナルティ時のステータスダウン無し
《死霊魔法》獲得
【先導者】レベルアップ時スキルポイント+1
ステータスポイント+10 スキルを獲得しやすくなる。
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おお!!……メイドになってるー…。がちかー、ほんとかー、まぁ、ステータス上がってるからいーやもう。
「あと、これをあげるわ。今後使えるでしょう。」
そう言って渡してきたのは巻物だった。
開いてみると、『スキルスクロール:偽装』を使用しますか?
と出て来た。なんだこれ?
「あの、なんですかこれ?」
「それはね、偽装スキルを習得するものよ。ステータスを偽装したり、吸血鬼の種族を隠すことも出来るわ。人間の街に入るときに有利だと思うから、使っておきなさい?」
「ありがとうございます…!」
素直にこいつは嬉しい。前から懸念してたことが無くなったよ
いやー…あ、そういえば。
「あの、遅くなったけど、レイです。」
「あらやだ、自己紹介してなかったわね!私はジーンよ、よろしくね!可愛いお弟子さん!」
「はい。よろしくです」
「う~ん。何からやろうかしら?紅茶の入れ方…テーブルクロスの…う~ん、あ!まずは歩き方をやりましょう!」
「歩き方…ですか?」
「ええ、主人が貧相に見られないように歩き方まで品格を持って行うのがメイドというものよ。さあ、やりましょう!」
「はーい。」
さて、頑張りますか!
まずジーンさんがお手本を見せてくれた。普通に歩いているだけなのに、ジーンさんの周囲だけ別の世界のように感じられる程、綺麗な歩き方だった。
「ふふっ、どうだったかしら?」
「とても…綺麗でした」
もうこれっぽっちの言葉しか出て来ない程凄かった。
「ありがとね、じゃあ次はあなたの番よ。やってごらん?」
出来ねぇだろあんなの…。いや、やってやるよ、さっきのジーンさんの歩き方をマネして…。
コツ コツ コツ
「あら…」
心の中は無心にしてジーンさんの歩き方を思い浮かべる。
上体はぶれず、ふわふわと雲の上を歩くように、優雅に。
歩法とメイド服のスキル、礼儀作法が俺の体をアシストしている。じゃなきゃヒールでこんな風に歩けないし。
ゆったりと…ゆったりと。
「──イ!レイったら!」
ジーンさんの呼ぶ声が聞こえて、ふと我に返ると目の前にジーンさんがいた。
うわ、そんなに集中してたのか、俺。
「まさかそんなに上手いなんて思わなかったわ。これじゃ教え甲斐がないじゃない!なんてね?ふふ。」
「上手く出来てたんですか?」
ジーンさんはきょとんとして言った。
「ええ!すっごい上手かったわよ!これなら次の段階に行けるわ!次はね、音を立てずに同じ事をするの。これは難しいわよ。まぁ、見ててね」
するとジーンさんが一瞬光ったと思うと、体が透けなくなった。
「実体化出来るんですか……!?」
「ふふ。少しだけの間だけどね?さ、見ててね?」
ジーンさんは歩き出した。さっきと同じようだけど全く音がしない。実体化して、ヒールの音がするはずなのに。凄い、これが出来れば暗殺に使える…!!
俺がやる番になった。
さっきの歩き方で、どう音をなくせるか考えてみた所膝で音を和らげれば、歩法も相まって音が出なくなるんじゃないかと思いついた。
ほんの少し膝で和らげて…ふわりと歩く。イメージは水面を歩くように…。
ふわり…ふわり…
音が出ない…!!やった!
ピコン♪スキル:歩法のLVが上がりました。
「うひゃ……!?」
ちょ…マジで急なアナウンスやめて…!!体勢が崩れたし…!
てか、スキルポイント使わなくても上がるの初めて知ったよ…。
「あら、どうしたの?ふらついて?」
「えっと…」
何て言えば…あ、これでいいや。
「急にスキルレベルが上がったって、声が聞こえてビックリしちゃって…」
ジーンさんは合点がいったように、
「あぁ、神の声ね?確かに急に来るとビックリするわね。それと、今の歩き方とても上手かったわ!もう最後よ!」
「ほんとですか!嬉しいです!」
うおー…なんか嬉しいわ。よし!次で最後か…頑張ろ。
「最後は走り方よ。急ぐときも優雅に…そして素早く。戦闘にも対応できる走り方を教えるわ。じゃあ見ててね」
ジーンさんはものすごい早さでダンスホールの端まで走って行った。
凄い、優雅さを無くさないように走ってる…!!腕を振ったりするのは一緒だけど、前傾姿勢からの加速が凄かった…!!
どうやるんだろ…ヒールは、前の方で着地して走ってたのは分かる、でも…あのブオンみたいな擬音がそっくりの加速は出来ないかな…。
まぁ、やるっきゃない…!
「ふっ…!!」
足の回転速度をいつもより上げて、前傾姿勢の上体はぶれないように。これは…縮地よりの体勢で走ってる感じか、よし、分かった。行ける…!!
武器を持ってると想定して、腕は固定。足の回転と前傾姿勢の維持で加速ッ…!!
「うあっ…!!やべ…!」
気が付いたら目の前に壁が迫っていた。
俺は、踵のヒールを床にあてブレーキをする。普通に止まるのは無理だこれ。
キキーーッ…!!っと摩擦音を鳴らして壁のほんの少し前で止まることが出来た。
あぶねぇーー…!そういや自分のAGIの高さ忘れてたわ!!
ヒールは……あ、耐久力∞だった。良かった良かった。
「凄いじゃない!もう歩き方と走り方は完璧よ!次は────」
ジーンさんのメイド講座はこの後4時間程続いた。
その結果、ジーンさんのお墨付きを貰えるほどメイドスキルは高まった。
もうプロでも働けるってさ……こんなつもりじゃなかったのに…男だと伝えるチャンスもなく、誤解されたままだし…。どうしよ、いつ伝えよっかな…。
するとジーンさんか俺のことを呼んだ。
「レイー!お茶しましょ?いいかしら?」
誤解をとくチャンスだ…!!
「はい!お茶したいです…!」
「ふふっ…良かったぁ。じゃあお茶しましょ!」
それから俺達は他愛もない話しをしたり、お茶を入れ合ったりとってもたのしかった。
すると、ジーンさんが決意を固めた顔で俺をみる。
「ひとつ…昔話をしてもいいかしら?」
「え、ええ。聞きたいです」
ジーンさんが話し始める。
「あれは───────」