第七事 王宮騎士団副団長
目を覚ますといつもの日常の天井が見える。というお決まりはなく、やけに豪華な見慣れない天井が見えるだけだった。
「起きましたか、カインさん」
俺が起きたのに気づいたらしく、ローシェが声をかけてくる。
相変わらず、翡翠の服はとても似合っている。
「ああ、おはよう、ローシいてぇっ!」
「カインさん!まだ体を動かしては行けません!」
「いや……だいじょう、ぶ、だ」
ほんとは大丈夫じゃないが、ローシェに心配はかけたくない。
しかし、あんなに人間離れした動きをしては体が大丈夫な訳がなかったようだ。体がほとんど動かない。
「ローシェ、とりあえずここはどこだ?」
「ここはアストルジューマの王城の一等室です」
「まじか、王城かよ」
今まで気づかなかったが、天井だけではなく、部屋一面にも高そうな壺やら絵画やらが飾ってあった。いくらぐらいするだろう?買えるかな?
俺が場違いな考えを浮かばせていると、不意に部屋のドアが開いて、長身の女性が入ってきた。
「目が覚めたようだな」
最初見た時は遠くて長身だったこと位しかわからなかったが、いざ近づかれるとその美貌に絶句した。
なんと言ってもまず目を引くのがその体のボディ。体のラインが綺麗に出る軍服のようなものを着ているので、余計に際立って見える。
目は鋭く、相手を圧倒する鷹のように鋭い目で、それに連なり顔全体のパーツが綺麗に整っている。
その印象を一言で言うと、ドS上司だ。M男歓喜である。(和樹はMではない)
「王宮騎士団副団長ナリシャ・スカリオンだ。ナリシャと呼んでくれ。よろしくな、カインくん」
「は、はぁ」
「早速だが、その体を幾分か楽にさせてあげよう。【ヒール】」
ナリシャさんの手から何か暖かいものが流れてくる。
初めて見る回復魔法に目をキラキラさせつつも、まさかナリシャさんがヒールを使えるとは思わず多少驚いた。
もっとえげつない攻撃魔法とか使うと思っていたのに軍服でヒールとか似合わねーとか言ったら殺されそうだ。
「ふむ、何か言ったか?」
「い、いえなにもそれよりあ、ありがとうございます」
「気にするなカインくん。それよりも、早速だが話を聞いていいか?」
動くようになった体を上げ、ベットに座り直すとナリシャさんも向かいの椅子に座った。
「いい、ですけど」
「わかった、では質問だ。まずはそちらの妖精に問いたい」
「なんでしょう?」
「君はカインくんと契約したのかね?」
「はい、そうです。私はカインさんと勝手に契約しました」
「勝手にだと?互いの了承が得られてからの契約ではないのか?」
「本来、妖精は了承を得ないといけません。ですが精霊の場合は違います」
「そうか、、君は精霊という訳だな。そしてカインくんと契約をした。そういうことだね?」
「ナリシャさんの考えで間違ってないです」
「やはりか、精霊など伝説上の生き物だと思っていたが、精霊使いならあの魔法も頷ける」
「精霊って、今ははいないことになってるんですか?」
「ああ、私が産まれる前には既に絶滅していたと聞いている」
「そう……ですか、やはり絶滅してしまったのですね」
「はいはーい、ちょーっといいですか?」
「うむ、なんだ?」
「二人で精霊談義に花を咲かせているところ悪いけど、それよりも俺がここに運ばれた理由を教えてほしいんだが?」
二人の話に痺れを切らした俺が二人の会話に割り込んだ。
「……ああ、すっかり忘れていたよ。カインくん、君をここに呼んだ理由は、王宮騎士団に入団してもらいたいからだ」
「え、そんなご冗談を」
「いや本気だ」
「嘘……ですよね?」
「いや本気だ」
「騙してますか?」
「いや本気だ」
「…………」
何度言っても通じねぇ!?いやいや、嘘だろ?何で俺みたいな貧弱が王宮騎士団なんかに!?
「嫌ですよ!?そもそも、何で俺をスカウトしようと?」
「あの剣技、素晴らしかったぞ。途中から見させてもらったが、あのような剣技は生半可な特訓では身につきますまい」
「あ、いや、違うんです、あれは俺の剣技じゃなくて……」
「む?嘘は……ついていないようだが、あれがカインくんの剣技ではないとはどういうことだ?」
「あれは、この剣のおかげなんだ」
「この、剣か?」
ナリシャさんが部屋に立て掛けてあった剣を持って言った。
「ああ、その剣だ。名も無きその剣に救われたんだ」
「う~む、今日は不可思議なことばかりで頭が追いつかんな。まぁ、その剣に救われた、ということは信じよう」
ナリシャさんはとて理解力があるようだ。さっきの頭が追いつかないと言っていたのも嘘であろう。
本当に頭が追いつかなかったから、そもそも頭が追いつかない発言は出来ないからだ。
「さてカインくん、ここで一つ提案なんだが、その剣を私たちに売ってくれないか?」
「理由を聞いても?」
「先程の炎騎士の暴走で燃えた場所は武器庫だ。そして、もう一人の副団長が引き連れていた上位騎士十二人が死んだ」
「そう……だったのか」
「ああ、上位騎士十二人がまとまっても倒せなかった相手を、たった一人で倒した君を是非とも王宮騎士団に入れて欲しいとの、国王からの命令があったのだ」
「こ、国王ですか」
「だが、王宮騎士団に入るのを拒むというのならその剣と、炎騎士の剣だけでも、ということだ」
「武器を貰ってくるのも国王からの命令か?」
「いや違う、私の独断だ。売ってくれるというのなら普通に生活するなら一生金に困らない程出すが……30ガルソルでどうだ?」
三千万……か、昔の俺だったら迷わず受け取っただろう。だが今の俺はお金を受け取る意味はない。
しかしこの世界は三千万あれば普通に生活できるのか。それなら俺は何回人生を送れるだろう。(所持金100億)
「いや……お金は間に合ってますので……」
「ではその十倍でどうだ?」
「え、いや、でも……お金は要りません」
「……驚いた。ここまでの金を提示してもなお断るとは、よっぽど無欲か、よっぽど金があるのだな?」
「ま、まぁ」
無論和樹の場合は後者である。(所持金100億)
「こちらは出せるギリギリまでの手札を切ったつもりなのに、そちらはまだ余裕そうだな」
「いや、余裕なんてありませんよ。なんせここは王城の、しかも窓の景色からして一番奥の方の部屋とみました。つまり俺が逃げ出そうとしても結局無駄ということですね?」
「ほほぅ、そこまで分析するとはなかなか見所があるな。……どうだ?本当に私の所で王宮騎士団をやらないか?」
「そうですね、それも一つの選択として頭に入れておきましょう。それよりも、今一番すべきことはなるべく自分にいいような条件をつけることですかね?」
まだ知事をやっていた頃はその辺の立候補者たちに適当に喧嘩売って、絡んできた所を返り討ちにするという方法でさんざん蹴散らしてきたが今回は相手が違う。出方をミスれば、終わりかねない。
「わざわざ自分の目的を声に出すとはな」
「それも一つの方法ですよ」
「なるほど、面白いやつだ」
「では厚待遇目指してどんどん要求しますね」
「ああ、望むところだ」
「さて、ナリシャさん、王宮騎士団に僕が入ための条件を決めました。一つ目は身の安全の確保。二つ目は適度な休息。三つ目は他の団員と同じか、それ以上の立場。そして四つ目は……いい店を紹介してほしい」
自分でもおこがましいと思うほどの要求並べるが、ここでとやかく言われるようじゃやっていけねぇ。俺は楽したいからな。
別に王宮騎士団に入りたいわけでもないし入る理由がないから、多少強気に出ても問題ないと判断したが、ナリシャさんはどう出てくるか。
「なるほど、まず一つ目は絶体とは言わないが、戦場に居るとき以外の安全は私が保証しよう。二つ目も三つ目も、同様に私が話を通しておく。だが最後のはどういう意味だ?」
「そのまんまの意味だ。いろいろな店を紹介してほしいだけだ。そろそろ家も持ちたいと思ってるしな」
「そういうことならそれも私が付き添おう。部下から情報を集めてくる」
「……まじか、俺の要求がすんなり通るとは……そんなに俺の剣が必要か?」
「ああ、だが剣じゃなくて君自信も必要だと気づいたよ。君とは良い友になれそうだ」
「奇遇だな。俺もそう思っていたところだ」
「ハハハ、私にそのようなことをいったのはカイン、君だけだ」
「早速呼び捨てにするとか流石ナリシャさんだな」
「そちらも呼び捨てで良いのだぞ?」
「いや、仮にも上司だからな。俺はこのままでいくよ」
「ふんっ、まあ良いだろう。それでは私は報告してくるから、またあとでなカイン」
「ああ、また後で、ナリシャさん」
以外にも好待遇が決まって、正直ビックリしている。
だがそれよりもローシェがいないことに不安を覚えている俺であった。
誰か無論と勿論の違いを教えてくださいm(_ _)m