第三事 夢と現実
「俺の名前は……」
っていやちょっと待て、思いつかねぇよまじで!?名前……名前ってまじで思いつかねぇ。
困ったな、かずきと名乗るには些か不安だし、でもとりあえず和樹の「か」はいれるとして
か、か、か……カロン?……って某骨じゃねーか!!
えーと他に、カカオは豆だし……カマキリ……って固有名やめよう、うーむ。あ、思い出した。俺だって異世界とかに憧れるガキだった頃がある。今だってゲームのキャラクターネームはいつも……
「俺の名前は、カイン……だ」
いよーし!無難かつ異世界っぽくそれでいて格好いい名前になったぞ!これならいける。さすが俺天才だな!
「カイン……ですか、わかりました」
「おうよろしくな」
「はぁぁ、そういうことにしといてあげますね」
え?嘘ばれてる?いや、そんなわけなく……はないのか?精霊って言ってるし嘘がわかる的な能力もあったりするのか?
「この人たちどうします?」
「う~ん、そうだなやっぱりさっきも行った通り身ぐるみ剥がして適当に放置でよくないか?」
「でも今は気絶してるだけですよ、いつ起きるかも分からないんですよ?」
「確かにそうだが、ね?こうさお金とかお宝とか、なんかロマンがあるじゃないか?」
「……女の人がいるからですか?」
「ギクゥ……じゃあなくて、だなぁその、俺って無一文じゃないか?」
「へぇ、無一文であそこにいたんですか?」
「ああ、そうだ。だから今はお金が欲しいんだ」
「はぁ……そういうことにしておきます」
「だからぁ違うって!!女の人の身ぐるみを剥がしてどさくさに紛れてあちこち触ろうとか考えてないしー!?」
焦って苦し紛れの言い訳。だがしかし逆効果になっていることをこのときの俺は知るよしもなかった。
和樹の名誉を守るために記載しておくが、彼はけして変態などではない。少し頭がおかしいだけだ。(晴信論)
「じゃあ、ちょっくら剥いでくるわ」
「はい、わかりました」
俺が身ぐるみを剥いでる間、ローシェはこちらを見ずに、少し頬を明らめ俯いていた。男の人が上半身裸になっているだけであそこまでいくとはいじりがいがありそうだ。今度は仕返ししてやる。
女盗賊の方は上までは剥いでないからな!本当だからな!!
「よし、あらかた終わったし、どうする?」
「どうする?って、もう結構遅い時間ですよ」
「あ、ほんとだ、ちょっと暗くなってきたな」
「どうするんですか?」
「ローシェ、あんた寝なくても大丈夫なタイプ?」
「ま、まさか……」
「おうっ、寝ないで町までゴー……って言いたいところだけど、今日はもう疲れたしな」
「わたしの【幻視境】で隠せばこの盗賊たちにもばれないで寝れますよ」
「おっ、じゃあよろしくー」
そういうと俺はその場に寝転がり…………寝た。
俺の知事スキル【瞬間睡眠】である。
「あのーカインさん?もう寝たんですか?」
「…………」
◇ ◇ ◇ ◇
「ーぃ……ぉーい……おーい」
何処からか声が聞こえるあまり聞きなれてはいない声、だが聞いたことのある声がからか聞こえてくる。
「おーい!!」
「……ん?」
謎の声の主に呼ばれる声で目が覚める。
「わしじゃよ鍵山じゃ」
「ん?鍵山ってどっかで聞き覚えあるようなないような」
あ、思い出した。俺がふらふらと入っていって、ラーメンを食べて……美味しかったなー……じゃなくて、色々不味いこと暴露して、たしかそのまま……鏡投げられた。名前はやっぱ鍵山って言うんだな。
「思い出した!!あんた鏡投げんなよ!!」
「おっほっほ、まぁよいではないか、それよりどうじゃ異世界での生活は、堪能できたかの?」
「ああ、まぁまぁいいところだと思う、盗賊に襲われたけどな」
「そうかそうか、では異世界にいく気になったかの?」
「いやいやまてまて、色々と聞きたいことがあるから質問いいか?」
「答えられる範囲なら答えてやろう」
「じゃあひとつ目、あんたは何者だ?」
「わしはお主の味方じゃ……それ以外は今はなにも言えん」
「答えになってないし、でもどうしても言えないんだろ?味方って言うなら今はそれでいいよ。」
大体この手のことは何度言っても変わらんものだ。だからむやみに聞かずに、相手から言ってくれるのを待つのが得策である。
「じゃあ二つ目、ここは何処で何故あんたがいる?」
「ここはお主の夢の中でわしはお主の夢の中に干渉し、お主と夢の中で話しておる。今お主の体は寝てる状態じゃぞ、勿論お主の相方の精霊は隣で寝ておる」
「なるほど、俺は夢の中であんたと話してる訳か。でも夢の中じゃ、俺は自由に動けないんじゃないのか?」
「お主がその考えを持った時点で気付くべきじゃな」
「そう……だな、確かにこの夢はいつもとなにかが違う気がする。俺が自由に動けないはずという考えを持った時点でもう自由に考えているということだな」
「そうじゃ、わしの夢だからの。お主には自由に動いてもらってる……ところで異世界に残るかそれとも戻るかどっちにするんじゃ?」
正直なところ、異世界でこれから暮らしていくのはとても難しいだろう。だが、元の世界に戻ったら、誰かにばれないかひやひやしながら暮らすことになる。
そんな生活もうごめんだ。
確かに俺は法に触れることをした。しかしあれは仕方なかったのだ。母親の病気……母親を恨んではいないが、あれがなかったら俺はまっとうな知事として働いていただろう。
「俺……俺はーー
異世界に留まるか、元の世界に戻り現実をみるか、その二つの考えで揺れる。戻りたい。昔からの友達に会いたい。母親も友人も置いてきてしまっている。
でも、俺はもう、あいつらと対等に接してはいけない。俺は犯罪者だ。あいつらと一緒にいてはいけない……
ごめん、ごめんよ、みんな、俺まだ戻れそうにねぇよ、ほんと、ごめん、晴信、桃香、ごめんほんと、騙してごめん……悔しいけど、俺、もう……」
俺は嗚咽混じりにただただ泣き叫んだ。悔しい。なんもできていない、できない。
自分のことがよく分からない。もうどうしようもない。
帰りたい。けど帰りたくない。いっそ晴信たちと一緒にこっちに……だが、そんなことできるわけない。
「お主も色々あったようじゃの。とりあえずはこのままに異世界に残るということでいいんじゃな」
「……ああ、それでいい」
逃げた。結局俺は逃げたのだ。
嫌な現実から目を背いて、親や友達を置き去りにして。
「最後に一つだけ質問いいか」
「なんじゃ?」
「俺があっちの世界にいた記憶は、あっちに残っているのか?」
「安心せい、残しておる。いつでも帰えれるようにしておるぞ」
「……わかった」
「じゃあわしから最後に一つアドバイスじゃ、お主の右ポケッの中に、お主の全財産を異世界のお金に変換して入れておいたぞ。説明を良く読んでつかうように」
「は!?」
「じゃあの」
鍵山がそう言った瞬間、だんだんと意識が遠退いていく。
◇ ◇ ◇ ◇
ふと目が覚めた。
目の前にいるのは小さい人間?いや違う。精霊のローシェだ。
結局のところ鍵山の考えはわからない。だがいずれにせよおれは……
ーーこの世界を生き抜くーー