第二事 何事も考え方次第
「オラッ早く金出せよ!」
「お!珍しいもんつれてんなぁそこの妖精でもいいぜ」
「丸腰でここを通るたぁいい度胸してんなぁ兄ちゃんよぉ」
悪役っぽい台詞を色々言いながら、おそらくで盗賊であろう人たちがじりじりと距離を縮めてくる。
かと言ってすぐに捕まるような距離ではない。盗賊もどきたちの出てくるタイミングが早すぎたお陰で、三十メートルも離れている。
やっぱり盗賊はどこでも頭が悪いのが多いのな。
「ハハハ、前に三人後ろに三人もいればお前はもう逃げられないだろ?」
「そうだな。この街道が舗装された道だけだったら俺は逃げれなかった。だけどな、俺は逃げることができる。」
「どういう意味だ!」
「こうするんだよぉ馬鹿どもがぁ!!」
俺はニヤッと不敵な笑みをを浮かばせから、最大限相手をおちょくるようにいい放つと同時に街道の真横、舗装されていない道なき道に向かい、勢いよく走り出した。ローシェも少し遅れてついてくる。
俺の実力を見せてやんよと言ったな。不本意だがあれは嘘になってしまった。
だがそのときそのとき一番いい判断をした上で行動したまで。
少し前までは戦おうと思ったが、やはり逃げる方がいいと判断しただけの話。
この判断力のおかげで知事としてやっていけたようなものだ。
「おい!お前!逃げてんじゃねぇ」
「戦術的撤退だが何か文句でも?」
俺が全力で走ってるのを盗賊もどきが追いかけながら文句を言ってくるが関係ない。
「すごい追いかけて来てますよ?何か振り切る策でもあるんですか?」
「任せろ!超すばらしい作戦を用意してる」
「なんですか?」
さっきまで無言だったローシェが焦るように話しかけてきた。走りながらの会話だが現実で走るより辛くないのは異世界に来たからだろうか。
「あんたの能力を使え」
「能力?」
「ああそうだ。あんたあの大木普段は見えないようにしてたんだろ?」
「まぁ、そうですが……」
七十パーセント位はったりだったがあれはやはり大木を隠していたようだ。最初に声が聞こえてきた時に大木が見えなかったから何かあると思っただけだが。
「よしじゃあそれと同じ原理だ。俺たちの姿を隠せ」
「わかりました。やってみます」
その瞬間ローシェは空中を移動しながら再び輝きだした。
「なんだ!?あいつらがぼやけて……消えた!?」
「くそっどこ行きやがった!」
「急に消えなかったか!?」
盗賊たちはいきなり消えた俺たちの姿に驚きや怒りの感情を表している。
「……うまくいきましたね」
「ああ、あんたのおかげだ」
「ほんとにこんなことができるなんて思いませんでした。それよりなんでわたしが大木を消してるってわかったんですか?」
「勘だが」
「勘ですか!?」
ものすごく驚いているようだ。俺もここまでうまくいくとはおもわなかった。
「さて、俺らを見失ったあのくそ盗賊どもをやっつけますかね」
「そんな、そこまでしなくてももう逃げられますよね」
「確かにローシェの言う通りだが元々仕掛けて来たのはあっちだし、相手の弱味にどんどん漬け込んでいくのが俺のスタイルだからな」
知事をやっていたときも相手の弱味に漬け込みまくって何人のライバルを潰したのやら。もう覚えてはいないが。
「叩き潰す前に質問、今俺たちを隠してるのは魔法なのか?」
「いいえ、これは最上位の闇と光の精霊術で【幻視鏡】と言います。光と影を自在に操り相手に幻を見せる術で、相手の脳に直接幻を見せているのではないので複数人を対象に発動できます。」
「じゃあ今俺が木の枝を持ったとしてそれも隠れるのか?」
「はい、すぐに魔法を上書きできるのでそれくらいなら大丈夫です」
「わかったじゃあいくぞ」
近くにある少し大きめの丈夫そうな木の枝を持ち、いくつかの石をポケットにいれると。盗賊に向かってまずは石を投げた。
弧を描くように投げられた石は盗賊の一人に当たった。
投げた後の石は見えるようになるんだな。
「イテッ、なんだ!?お前殴ったか?」
「いや、俺はなにもしてねぇぞ」
「じゃあお前か?」
「俺は知らねぇぞ!?」
という具合に見事に喧嘩を始めた。そこで俺はゆっくりと盗賊たちに近づき、一人ずつ木の枝で叩いていった。
叩いて待避して石を投げの繰り返しをひたすら続ける。
この広いウルレキア街道から少し外れた草原で盗賊六人が見えない何かから襲われている。盗賊たちは逃げるのことすらも忘れていた。
「クソゥどうなっていやがる」
「攻撃が見えない……だと」
「あぁ腹立つぜ!」
「俺……もう……無理」
ちびちびと攻撃を続けた結果、相手はかなり消耗して座り込んでいるものまでいる。
ここぞとばかりに木の枝を捨て、右手後ろに引き込み、その反動で前に思いっきり突きだす。いわゆる右ストレートというやつである。
繰り出した右ストレートはバッチリと盗賊の鳩尾にヒットした。
「うぼぁ」
バタンッと盗賊の一人が倒れ込むと、残ったやつらがどよめき始める。それを無視して一人ずつ右ストレートを決めていく。
五人に右ストレートを決め終わると、残った座り込んでいたやつの前に立ち、ローシェに精霊術を解いてもらう。
「あ、ああっお、お前がややっ、やった、のか?」
「…………」
座り込んだ盗賊は冷や汗と涙を流し顔をひきつらせながらながら必死に懇願しているが、俺はそれを無視して無言でひたすら飛びっきりの笑顔を見せつけていた。
「あ、あああ、やめっ、ごめっ、許してぇ」
「仕方がないなぁ、許し…………てやらない」
そいつに向かって思いっきり右手を振りかぶり、そのまんま突きだし右ストレートが相手の顔面に当たる瞬間……拳を止めた。
相手は白目を剥いて気絶していた。
「やり過ぎじゃないですか?」
「いやぁまだまだ、身ぐるみ剥がして金目のものを盗らないと」
「……あなたの方が盗賊みたいですね」
「そんなこと言うなよローシェ」
「なるほど、名前で読んでくれるんですか?……そういえばあなたの名前を教えてもらってなかったですね」
「俺の……名前ねぇ」
正直に言ってもいいのだろうか?なんか異世界にきたら別の名前を名乗った方がいいというのを聞いたことがある。よし、折角異世界に来たのだからかっこいい名前にしよう。
「俺の名前は……」
ここで引っ張ります。わざとです。
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