第7話:旅の夜明け
私が言いたいことは伝わったのだろうか。
ありがとう、としか言えていない気がする。
でも……きっと伝わった。
だって、さっきまで肩で泣いていた先生の背中は、今とてもあたたかい気持ちにさせてくれるもの。
不安や心配、そんな気持ちがあったはずなのに、もう……そうなものは空っぽだ。
温かい気持ちが詰まってる。
「先生……」
「ねえ、見てご覧? 少し右、少し奥」
先生が私の言葉を遮るようにそう云う。
なんだろう。言葉の意味に理解を得ぬままに、いわれるまま言われた方へと振り向くと。
「……朝」
「ええ、朝。太陽もあなたを応援してくれている」
そんなにたくさんの時間が流れていたことに驚いてしまった。
時間の流れは恐ろしい。私は人生で初めてそのことを覚えた瞬間だった。
そんなきれいな景色に見とれている私に、先生はーー
「楽しんでらっしゃい……きっとね」
と、一言だけつぶやいた。
………
……
実のところ、私はこのバイクに乗る前、たとえ何を言われようとも、海外へ行くことは決めていた。
だから、たとえ先生に否定されたとしても、きっと海外へ向かっていたと思う。
ーーだけど、そんな寂しい思いは支度はなかった。
私が好きな先生には、最後まで笑っていた欲しかったから……
本当に……笑っていて……ぐすっ……
「あらあら……どうやら、あなたの問題は解決をしたみたいね。……私もね」
そう優しな言葉で言うと、先生はパーキングエリアの方へとバイクを向ける。
そしてゆっくりと停止させると、一晩という長い長い二人きりの旅路が歩みを止めた。
★★★
「コーヒー、買ってきたわよ」
「……ありがとうございます」
一晩中バイクを乗り続け、体が冷えてしまった体があたたまる。
キリッと苦いビターな味が、なんだか安心する味に感じる。
「安心した」
先生は一言だけそういった。
コーヒーの香りを楽しみながら、昇りゆく陽光を眺めている。
「私とあなたの旅は、これでおしまい」
「……はい」
目を合わさぬままに、その言葉に私は頷く。
だけど、寂しくはなかった。
「大空、か……良いわね。青春じゃない」
「そ、その表現は……あくまで比喩みたいなものでして」
「いいじゃない。私は好きよ。【大空】 自由に飛び立てる鳥になる、素敵じゃない!」
空を飛びゆく鳥たちを目で追いながら、先生は迷いのない力強さで言ってくれる。
「その鳥が描くものは、きっと私も幸せにしてくれるものになる、そうでしょ?」
「……はいっ!」
そう振り向いてくれた先生の笑顔は、とても優しくて、凛々しくて……素敵な姿をしていました。