第6話:だから私は鳥になる
そしてどれくらいの時間が経っただろうか。
わずか数分だったかもしれないのに、数時間に感じるような時が流れたような感覚だ。
「先生……」
「……うん、なあに?」
小さく呟く私の声に、先生はそっと耳を傾けてくれる。
「私は今とても幸せです、とても…幸せです」
とてもいいたかった言葉が言えた。
それは、いつも感じていて、いつもありがとうを伝えているつもりでも、この言葉だけは今伝えるべきだと思った。
「…………」
先生は黙っていた。
幸せ――
とても暖かな言葉の感謝。
先生は言葉を返さなかったけど、暖かな背中が、まるで「どういたしまして」と返事をしてくれているようだ。
「私を私にしようとしてくれて、ありがとう」
ぎゅっと背中を掴んで呟く。
★★★
私は確かに悲劇のヒロインだったのかもしれません。
人に話せば涙ぐむ人もいました。
話さずに済めばよいのですが、学校にはそうはいきません。
そして、先生……あなたにも。
だけど悲劇のヒロインという役を、周りはどうしてもやらせてくれませんでした。
私にたくさん接してくれた。
私にたくさんの新しいを教えてくれた。
私に愛を教えてくれた。
私に自由を見せてくれた。
そして――
「私を鳥にしてくれた――」
怪我をした小鳥に、空を飛ぶ練習をしてくれたんじゃない。
空という広大な世界が素敵であることを教えてくれた。
楽しかった。
振り返れば夢の中も楽しかった。
だって、私が一人にならないようにみんなが会いに来てくれたもの。
そしてお外に出たときも、ずっとーー
空は明るかったんです。
だから先生ーー
私はもう……大丈夫。
一人で大空へ飛び立てるんです。
だから、海外に行くことを寂しがらないでほしいのです。
私は……自由の鳥になりたいです。
だから、そんなに泣かないでください。
……ね?