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第4話:それから私は――

★★


 私は目を覚ましてから、早く中学校に行きたいという気持ちで一生懸命リハビリをしました。

 体力をつけることや、今までできなかった勉強、人との付き合いや、社会での行き方について――

 私にとって刺激的すぎるその莫大な情報は、情報過多になるどころか、ドンドンと吸収していきたいものになりました。

 周りの人も驚いていたようですよ。

 三年ほど掛けてリハビリをする予定が、一年で全ての過程を終わらせてしまったので。

 全ては、二人に学校で逢いたいっていう気持ちが私を支えてくれたのです。


 中学校二年生になって、私は初めて学校というものに行きました。

 初めは慣れないことも多かったですが、事情を知っているみんなは、私を相当良くしてくださいました。

 あまりに良くされ過ぎて、寧ろ困っちゃいました♪


 中学校でマイコちゃん、ナナちゃんと逢うことが出来ました。

 二人は、なんだかしんせーんってすごくライトな表現をしてきましたね。

 部活はどこに入っているのか訊いてみたところ、二人共美術部に入っているとのことでした。


 まあ、予想通りの結果かもしれないです。


 小学校の頃に宣言したとおり、マイコちゃんは人を、ナナちゃんは風景画を描いていました。

 その頃には、人の骨格は――筋肉は――とか、この建物のパーツは――線画は――というような、周りの人よりも随分と先を走っていたようです。


 それぞれが描いた絵は、全国の選考でも上位の賞を受賞するような特別な評価を得ていたようで、周りからも、美術の才能があるということで、将来は絵の道を進んだらどうかという話が既に進んでいたようです。

 二人も気持ち的にはその気になっていたようで、中学校三年生になった時の進路表にも、美術学校に行きたいという事を書いていました。


 ここまでの話を聞く限りだと、マイコちゃんとナナちゃんと一緒の道を進みたいという理由で私も美術の道を進んでいきたいっていう『便乗』だと思いますよね?

 ……まあ、実際のところはそうかもしれないです。

 私は絵という魅力を見るという視点から素晴らしいと考えています。

 だから、技術的なところで言うと、まだまだ決して高くないです。


 でも、私は知っています。

 どんなに下手くそでも、絵は気持ちを込めれば人の心を感動させることが出来る芸術だと。

 今まで意識がなかった私が、様々な絵を見てそういうのですから、そこだけは説得力ありませんか?

 実際に感動したのは事実ですからね。

 私は、私が自ら体験したような、あの世界に引き込まれてしまうあの世界を、私自身でも作りたい……私以外の誰かの絶望を、希望に変えてあげたいって感じるようになりました。


 絵という物を通じて、人を感動させるものを作りたい――

 素直に感じたこの想い――

 これは、紛れもない本物――


 私は、空白の六年間を希望にしてくれたような絵を、本気で作り上げたい。

 これが、私の真実。

 これが、私の悩み――


★★


「先生、これが私の想いの全て――聞いてくれましたか?」

「…………」

「……ええ、ちゃんと、全てね」

 先生は、落ち着いたような声で私に答えてくれる。


「私の気持ち、軽くない……ですよね……」

 恐る恐る、私は先生に訊いてみる。

「あなたの想い――重たいわね。重たすぎて、バイクが停まっちゃいそう」

「もう、こんな時に冗談は――」

「だから私も、あなたに返事をしてあげないとね。今度は私の返事、聞いてくれる?」

 先生が私の言葉を静止するように、そう呟く。

「…………」

「……お願いします」


 私は先生の言葉にそう答える。

 怖くて怖くて負けそうでも、私はこの返事を聞かなくてはいけない。

 先生が口を小さく開く。


 私は、その言葉に耳を澄ますように、目を瞑って静かに先生の背中に密着した。

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