第1話:私と先生の約束
第1話:私と先生の約束
九月二日 二十二時三十分
「さて、そろそろ出発の時間だよ。出発しようか?」
先生がバイクのエンジンを入れ、私にヘルメットを渡しながら言う。
「わかりました。よろしくお願いします」
私は先生に軽く一礼を入れると、手渡されたヘルメットを両手で受け取る。
「……その他人行儀な態度——見慣れているとはいえ、お姉さん少し悲しいなあ」
「そうですか……」
「そうだよ。まだ一ヶ月とはいえ、週三回は家庭教師で来ているんだから、もうちょっとフレンドリーに接して欲しいなぁ」
「…………」
相変わらず、彼女は私にお節介。性格が明るい人は、少し苦手だ。
「ヘルメットの付け方は知ってる? 顎のベルトを固定するのを忘れないようにね」
「分かってます。子供扱いしないでください」
「何言っているの。あなたは子供。社会や大人にわがままを好き放題言うことが出来る特権を持った、れっきとした子供よ。もう少し、甘えてみるとかしてみてもいいんじゃないかな?」
彼女がそう言うと、私のヘルメットに軽くピンッとデコピンを入れ、ヘルメット越しに私の方を見つめてくる。
「……そういうモノですか」
「そういうモノ。家庭教師は勉強に関しては嘘つかない」
彼女は右手をグーにすると、親指を立てて私に見せる。
「今のは勉強じゃ無いと思いますが……」
「人生の勉強よ。私は英語以外に心理カウンセラーの授業も専攻しているから、コレも授業の一環」
「……これから夜のツーリングに駆り出されるのも、勉強の一環ですか?」
「ええ、私の特別課外授業。あなたにぜひ体験してもらいたいことがあってね」
「……こんな夜遅くにですか?」
「ちゃんと親御さんの許可もいただいているから大丈夫。安心して私のバイクに乗るといいわ」
「……お手柔らかに、お願いします」
「お手柔らかに、爆走します」
——何というか、強引だ。