現代の吸血鬼達
六
三階に上ると、目の前には一階二階とは違う光景が待っていた。
下の階は一目で廃墟だと分かるほど汚れていたが、三階はここが海外の城の一室だと言われても信じてしまう程の豪華さだった。
まぁ、そんな所に行った事無いから想像だけど。
部屋の壁は金の装飾が施された赤い布で飾り立てられていて、床には壁の赤を強調するためか黒のカーペットが敷かれていた。
天井は下の階の様なコンクリート打ちっぱなし状態では無く、黒で塗られていて小さいシャンデリアが部屋を照らしている。
なにより目を引くのは、部屋の端から端まである長い食卓と中央にある金色の玉座だろう。
その玉座の横に夕日さんは立っていた。
「我が屋敷にようこそお越し下さいました、私の正面の席へお座り下さい」
俺は促されるままに座る。
そして夕日さんも座ると、今まで空白だった席に突然人が現れた。
「さて皆の者、新たなる友藤田京士郎との出会いを称えよう」
俺以外の全員がワイングラスに手を伸ばしたのを見て俺も真似をする。
「乾杯!」
夕日さんがグラスを持ち上げ発した、それに周りの人達も合わせる。
「か、乾杯!」
少し遅れて俺もグラスを上げた。
「本日の昼食は、トマトのスープバスタでございます」
夕日さんの横にエミリーさんが現れた。
「失礼します」
後ろから別のメイドさんがパスタを持って来てくれた。
ゴクリ。
そのパスタは見た目から美味しそうなのが分かった。
赤いスープの中にパスタが浮き、その中央に小さく分けられたブロッコリーが乗っていてトマトと少しかかっている粉チーズの香りが鼻をくすぐる。
そんな料理に惹かれたが、俺はひとつ気になっている事をメイドさんに尋ねた。
「このグラスの中身ってなんですか?お酒だとちょっと」
「大丈夫ですよ、ただのぶどうジュースですから」
「それなら、良かった」
そう言いながら、俺はぶどうジュースに口をつける。
味が濃い! まるでそのままぶどうを食べているかの様だった。
「そのジュースは、うちの会社で作っているんですよ。ワインと同じ様な製法と保存環境で作っているので味が濃くなるんです」
夕日さんが説明してくれた。
「ジュースだけでなく、トマトもパスタも全て自家製なんですよ。それに食器も」
本当に凄いなと思いながら、パスタに口をつける。
美味い。
スープが美味いのもそうだけど、パスタの硬さがちょうどいい。
作った人の腕もいいのだろう。
「味はどうです?」
「すごく美味しいですよ、特にパスタの硬さがちょうどいいですね」
「この料理はメイド達が作ったんですよ」
俺はエミリーさんの方を見て、
「本当に美味しいです」
と改めて言った。
「ありがとうございます」
エミリーさんは無表情のまま、頭を下げた。
「すみません、エミリーが無表情で。普段は明るくて、笑顔が可愛いんですよ」
「いえ、そんな事はございません」
エミリーさんは、無表情のまま答えた。
周りを見ると、俺の食べている物とみんなが食べている物の色が少し違う事に気が付いた。
みんなが食べている物は、俺のより色が濃く赤黒い色をしている。
俺がキョロキョロとしている事に夕日さんは気づいたらしく、
「あぁ、私達の料理には人工血液が入っているんですよ。だから、色の濃さが違うんです。初めて料理を見た人は全員驚くんですよ」
「そうなんですね」
「それとパスタ自体も違うんです、ほら」
夕日さんが見せたパスタは少し赤い色をしていた。
「これは吸血鬼用のパスタで、ご飯やパンなんかもあるんですよ」
料理の他にも吸血鬼の生活等について話を聞きながら、少し遅めの昼食を過ごした。
※
「ごちそうさまでした、美味しかった」
俺は、店で食べるような豪華な食事を終えて満足していた。
「それなら良かったです、夜までの間に予定はありますか?」
夕日さんが尋ねてくる。
「いえ、特には」
それを聞いた周りの吸血鬼さん達が、
「それならあの事件について聞かせてくださいよ」
「それはいいな、お願いします」
そう口々に言い、皆の視線が俺に集まる。
「そんなに面白くないですよ」
「いえいえ、我々の間では伝説みたいになってますよ。それとさっきの槍を消した事についても教えて下さい」
みんなが詰め寄ってくる。
彼等の腕が俺の肩に触れそうになっていた。
「ちょ、危ないから。少し下がって・・・」
その時、パンッと夕日さんが手を叩いた。
今まで俺の周りを囲んでいた人達が、一斉に消え元の席に戻っていた。
「藤田さんが困っているでしょ、それに藤田さんに触れると火傷するよ」
「どういう事ですか、夕日様」
さっき槍を投げてきた一人が聞く。
「たぶん、藤田さんって浄化の力を体内から出してますよね?」
「分かるんですか?」
「だって藤田さん、槍を消した時って道具をなにも使って無かったですよね。サリーとかは道具使ってるけど藤田さんは素手だったですし、道具を隠してた様子も無かったので」
「そういえば、吸血鬼って透視出来るんでしたね」
「透視なんて大層な物じゃないですよ、せいぜい箱の中に入っている物が有機物か無機物か分かる程度ですし。それで見たら、腕の周りには何も無かったですから」
「ええ、何も持ってませんよ」
「それにしても素手の祓い士って珍しいですよね?」
「そうですね、俺も自分以外で三人位しか見た事無いですし」
「私も二百年位生きてるけど、両手の指で収まる程度しか会った事無いですしね、それと」
仲間を睨みながら、
「とりあえず、相手の武器の確認は必ずしなさいと言ってるでしょ。これが本当の敵だったら消滅してるからね」
申し訳ありませんと言う声と同時に、室内が静かになる。
「まぁ、今日の事は私の早とちりも反省しないといけないのでお互い様だけどね」
はははとみんなが笑い、部屋の重苦しい空気が軽くなった。
「まぁ、そういう事だからあんまり近づかない方がいいですよね」
「まぁそうなんですが。ちょっと違うんですよ」
俺は席を立ち、夕日さんの側に歩いて行く。
そして夕日さんの椅子の横に立ち、右手を差し出した。
「握手してみてください」
「けど、火傷するのでは?」
「大丈夫です、俺を信じて下さい」
恐る恐る夕日さんが手を差し出す、その差し出された手俺は握った。
「あれ。熱くない?」
俺から手を離し、夕日さんは自分の手を見つめている。
「実は呼吸の仕方で浄化の力を抑えられるんですよ、ただ少し疲れるんですけどね」
夕日さんはへぇと感心しつつ、
「それは知らなかったです、半分以上の人がハンターでしたし」
俺の手を離し、夕日さんは皆の方へ向き直り
「触っても大丈夫だそうですけれど、あまり藤田さんに迷惑を掛けないように」
「はい」
「では藤田さん、しばらくの間みんなの相手をしていて下さい。私は少し仕事がありますので」
「分かりました」
「では」
夕日さんが闇に溶ける。
「藤田さん、さっきの話なんですけど・・・」
それから、俺は質問攻めにあった。
みんなからの質問攻めが終わった後は、日菜ちゃんに遊びに誘われ夜までの時間が早く過ぎた。
※
日菜ちゃんとメイドさん二人と俺の十連続ババ抜きは、俺の十連敗で終わった。
「日菜、藤田さんに遊んでもらってたの?」
夕日さんが現れ、日菜ちゃんに聞く。
「うん!」
「楽しかった?」
「楽しかった! けど、おじさん弱かったよ」
いや確かに弱かったけどね、透視を使われたら勝てないよ。
それにおじさんって。
俺は苦笑いする。
「日菜、駄目でしょ。おじさんじゃなくてお兄さんだって」
「え~」
自分でも自覚はしているけど、そこまでおじさん臭いとは。
「藤田さん、そろそろ行こうかと思っているんですけどいいですか?」
そう言われ時計を見る、もう九時を過ぎていた。
「そうですね、ちょっとメールしますんでそれからでもいいですか?」
「分かりました。日菜、これからお母さんは藤田さんと出かけてくるから。エミリーの言う事をきちんと聞いていい子にしててね」
「うん」
日菜ちゃんが、少しだけ元気がなくなった気がした。
エミリーさんが夕日さんの後ろに現れる。
「それじゃ、お願いね」
「分かりました、当主様」
「じゃあ、支度してきますね」
横目で日菜ちゃんがエミリーさんに抱きつくのを見ながら、携帯を取り出しヤマさんにメールを打つ。
このビルの住所と目印になりそうな建物を教え、あれを持って来て下さいとメールを送った。
するとすぐに、分かったすぐ行くとメールが返ってきた。
「あの、藤井様」
とエミリーさんが声を掛けてきた。
「なんですか?」
「お召し物の事なのですが、もう少し時間が掛かってしまうのですが」
「いいですよ」
「申し訳ございません」
いえいえと言っていると、夕日さんがやってきた。
「お待たせしました、では行きますか」
夕日さんは、黒のフードが着いたコートを着ていた。
「では、いってらっしゃいませ」
エミリーさんが頭を下げる。
「ええ、留守番頼むね」
「承知しました」
「藤田さん、それじゃあ行きましょうか」
俺と夕日さんはビルを出た。
※
「よう、待ってたぜ」
約束していた場所にはもうヤマさんが来ていた。
「あれ、早いですね」
「近くに用事があったからな」
「そういえば、あれの使用許可貰えましたか?」
「おう、前ほど文句は言われなかったよ」
夕日さんが、
「こちらの方は?」
と聞いてきた。
「刑事の山下護さん。まぁ、俺はヤマさんって呼んでるけど」
夕日さんがヤマさんに挨拶する。
「ヤマさん、こっちは木場夕日さん。今回の事件の協力者」
おう、よろしくとヤマさんが言った。
「それじゃあ、行きますか」
挨拶もそこそこに、俺達はヤマさんの乗ってきた車で目的の工場の跡地に向かった。
「ここですか?」
俺は夕日さんに尋ねる。
「ええ、ここの中です」
その工場は外から見るとただの倉庫の様だったが、所々から出ている配管で元が工場だという事が分かる。建物自体は錆で赤茶けていたものの、建物自体には大きな損傷は無さそうだ。
建物の中に入ると、広い部屋の天井に配管がびっしりと張り巡らされていた。
「ここって元は何の工場だったんでしょうね」
何気なく話したその言葉に夕日さんが、
「二十年位前に、薬品を作ってみたいです」
「知ってるんですか?」
「いえ、あの人がここで居なくなってからここの関係者が何か知ってるかもと思って調べたのです。けど工場の持ち主も工場長もここで自殺してたわ」
その話を聞いていたヤマさんが、
「ああそれか、当時は話題になったしド新人だった俺も資料整理を手伝ったな。なんでも工場で使っていた薬品が複数の従業員にかかったらしく、その事件により工場は閉鎖。さらにその責任を感じて、持ち主と工場長が工場内の事務所で亡くなっていたのが発見されたんだよ」
実際に現場に来たのは今日が初めてだけどなとヤマさんは付け加える。
入り口から少し進むと、
「たぶん、この辺りよ。彼が最後に立っていたのは」
そこは工場の真ん中で、外からの光はほとんど届いていない暗い場所だった。
(ライトを持って来て良かった)
「ヤマさん」
「おう、これだな」
ヤマさんは手に持ったアタッシュケースを地面に下ろす。
「ほらこれだろ」
その手には霧吹きが握られていた。
「それは?」
夕日さんが聞いてくる。俺はヤマさんからその霧吹きを受け取り、
「ルミノール溶液ですよ。刑事ドラマとかで液体をかけたら光るの見た事無いですか?」
「ああ、それなんですね。初めて見ました」
俺はその液体を床に吹きかける、すると瞬く間に辺りに青白い光に広がる。
「これは凄いな」
ヤマさんが独り言ちる。
床の広い範囲が淡く光っている、ぱっと見の感じだが人ひとり分程の血液が流れている様に思えた。
「他の、この工場で自殺した人の血液って事は無いですかね!?」
血相を変えた夕日さんがヤマさんに詰め寄るが、
「いや、ここで亡くなった二人は首つりだったからし場所が違う。他にここで何かがあったって話も聞かねぇしな、すまねぇな」
夕日さんは膝から崩れ落ちた。この血は間違いなく朝日さんの血とみていいだろう。
「とりあえず、血液を鑑識に回そうと思うがいいか?」
「お願いします」
ヤマさんは床の血液を剥ぎ始めた。
俺は泣いている夕日さんを見ていたが居たたまれなくなり、ヤマさんに話しかけた。
「ヤマさん、終わったかい?」
「おう」
工場内は無音になった。
その時、何かが近づいて来ている気がした。
泣いていた夕日さんも気づいたらしく、泣き止んでいた。
「夕日さん、大丈夫ですか」
夕日さんは、顔を伏せたまま頷いた。その背中からは先程対峙した時以上の殺気を放っている。
殺気で背筋に悪寒が走る。
俺は夕日さんに背を向けて立った。
「ヤマさん、終わったなら俺と夕日さんの間に居てくれ」
「どうした?」
「たぶん敵です」
工場の外、月光に照らされて黒い影が蠢いている、その影は俺達を取り囲むように迫っていた。
ゆっくりと俺達に近づいてきたのは、この前見た餓鬼だった。
ただ今回は誰にも憑りついていない、こんな餓鬼を見るのは初めてだった。
「ギョギャギャギャ!!」
背中越しに夕日さんが立ち上がるのが分かる。
横目で夕日さんを見ると、右手には先程の槍ではなく血の剣を握っていた。
サリーちゃんに聞いた事がある、血の槍はあくまで捕獲する為の物なのだが血の剣は違うと。
あの剣はただひたすら相手を滅す為だけの物だそうだ。
「今の私は機嫌が悪いの、今のうちに帰った方がいいわよ」
餓鬼達は当然の如く夕日さんの忠告を聞かない。
夕日さんの正面に居た餓鬼の一体が飛び出してくる、彼女はは片手に剣を持ったまま胸の前で構えた。
餓鬼が夕日さんに襲いかかる。
その時、夕日さんが剣を薙いだ。剣で赤い線を引いてるかのように煌めく。
その輝きが消えない間に今度は縦に剣を振る。その線が十字を切った瞬間、餓鬼は細切れになって霧散した。
たぶん、実際は視認出来た二回以上切り刻んでいるのだろうが早すぎて剣の軌跡が一部しか見えなかったんだと思う。
(あれが吸血鬼の本気か。さっき、あの攻撃をされてたら間違いなく大怪我していたな)
「藤田さん、前!」
夕日さんがこちらを見ずに叫ぶ。
「おっと」
俺の正面の餓鬼が飛び込んで来ていた。
俺は掌を開き、餓鬼の頭を掴む。
「ウガゴッ!」
右手に力を集中させ、餓鬼の頭を握りつぶす様にして祓う。
「集中してください」
そう注意を促された。
「いや、すみません。あまりに剣さばきが綺麗だったので」
「どうも、でも今はそれ所じゃ無いですよ」
俺と夕日さんの動きを見てヤマさんが、
「何が起きてんだ、それにその手の剣は何で急に出たんだ。誰か説明してくれ」
困惑するヤマさんに俺は、
「すいません、後で説明しますんで。とりあえず、後ろに居て動かないで下さい」
消された仲間の敵討ちをするかのように、今度は一斉に迫ってくる。
力を両拳に集める。
「右!」
餓鬼にストレートを繰り出す。
「ギョ!」
餓鬼が消える。
「左、っと」
走り込んで来ていた餓鬼の右頬にフックを浴びせる。
「グギョ!」
とりあえず、正面から来ていた餓鬼は居なくなった。
けれど右側から飛び出した餓鬼がヤマさんを襲う。俺はフックを出した為にまだ体勢が整ってなかった。
なんとか体を捻り左腕を伸ばすが、
「届かないっ!」
しかし、横から赤い線が伸び餓鬼が消滅した。
夕日さんが助けてくれたようだ。
「ありがとうございます」
俺は体勢を直し餓鬼の来た方へ移動して、左から来ていた餓鬼に右ストレートを繰り出す。
「ギョ!」
消える。
夕日さんを見ると、向こうも全て倒し終えた様だった。
「一体何がどうなっているんだ?」
ヤマさんが聞く。
「餓鬼っていう人の悪意を糧にして面白がるタチの悪いヤツだよ。それに囲まれてたんだ」
「なんでそんな事に?」
「さあね」
視界の端に黒い塊が見え、咄嗟に掴まえる。
「ググゴギャ!」
俺は餓鬼の頭を捕まえていた左腕に浄化の力を込める。
「グゴ!」
先程とは違い直ぐに消滅しない。
「えっ?」
手のひらを引っかかれる。
「ッ!」
驚きと痛みで手を離してしまう。
「マズッ!」
餓鬼がヤマさんに飛び乗る。
「ウッ!」
「ヤマさん!」
餓鬼がヤマさんに憑りついた。ヤマさんは苦しみ膝をつくが、直ぐに立ち上がりヤマさんがふらふらと歩き始めた。
たぶん、ヤマさんも抵抗しているのだろう。
「くっ!」
動くヤマさんに、彼女も手が出せないようだった。
一瞬、ヤマさんの動きが止まった。
「ヤマさん!」
「なんだか具合が悪いんだが、どうしたんだ俺は?」
ヤマさんは餓鬼に操られなかったようだ。
「意識があるのか?」
「あ? ああ、頭は重いし体はだるいし吐き気もするけどな」
「なら動かないでくれ」
「あ?」
その言葉を聞く前に、俺は餓鬼の頭めがけて渾身の右ストレートを放つ。
「ゴシュ!」
餓鬼を祓った時、ヤマさんが再度膝をついた。
「大丈夫か!?」
ヤマさんは重々しく頭を上げ、
「ああ、頭が少しふらふらするけどな」
「良かった。それにしてもヤマさんの精神力は凄いな」
「ん?なんでだ」
「餓鬼に憑りつかれると、ほとんどの人は暴れるんだけどね。意識を保てるなんて、よほど根性の座った人じゃないと出来ないよ」
ヤマさんはふっと笑い、
「まあな、これでも色々な修羅場は潜ってるしな。神経細くちゃ出来ない仕事だからな」
ヤマさんはゆっくりと立ち上がる。
「ところで木場さん、あんた何者なんだ?」
「ああ、彼女は吸血鬼なんだよ」
俺が説明するとヤマさんの顔が引きつる。
「えっ、大丈夫なのか?俺の血は美味くねぇと思うぞ」
俺と夕日さんはお互いの顔を見合わせ笑う。
「大丈夫だよ、ヤマさん。今の吸血鬼は人の血を吸わないから」
「なんだよ、大丈夫なのか。それならあの剣みたいなのはあんたが出したのか」
ええ、と夕日さんは答える。
「助けてくれて助かった、京士郎もな」
「いや、いいよ。ここまで着いて来て貰ったのは俺だしね」
俺は話しながらも一つの事を考えていた、最期の一体の事だ。
(今までの餓鬼は一撃で倒せていたのに、なんで最後の一体だけ駄目だったんだ? 何かの影響を受けていたのか? それとも……)
俺はひとつの仮説にたどり着いた。
「強くなっているのか?」
俺の独り事に、
「あ、何か言ったか?」
ヤマさんが反応したが、まだ予想でしかないし不安にさせてもいけないから出来る限り感ずかれない様に、
「いや、何でもないよ。そろそろ帰りますか」
と冷静に返した。
一瞬ヤマさんは不審そうな顔をしたが、
「そうだな、じゃあ帰るか」
と言い、俺と夕日さんはヤマさんの車に乗って元の場所まで送って貰った。