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お題で創作の会

真夜中の花火

作者: 秋原かざや
掲載日:2015/07/18

 音もなく、彼女から貰ったおまもりが揺れる。

 目の前に広がるのは、一面の青空。そして、白い雲。

 がたがたと、機体が揺れる。

 遠くに黒い煙が見える。それも一つだけじゃない。いくつもいくつも上がっている。

 敵の機体から出ているものもあれば、味方のものであったりする。

 ぱっと見、戦況がどうなっているのか、自分でもよく理解できていない。

 静かだ。

 ただただ、迫りくる敵機を撃ち落していくのみ。

 ヨシっ!!

 照準が定まったのを見て、手の中にあるボタンを強く押した。

 しかし、何も出てこない。

 ああと思った。

 そういえば、この機はいつもの半分の弾丸しか入っていなかった。

 がたがた音を立てるこの機体だって、だましだまし飛ばしているものだ。

 鉄製に見えるだけで、タダの木とわずかな金具とでつながってる棺桶みたいなものだ。

 それが飛んでいるのだから、本当に驚かされる。

 けれど、自分は戦わなくてはならなかった。

 お国の為に、天皇陛下の為に。

 いや違う。

 そっと胸元から取り出したのは、一枚のハガキ。

 綺麗な文字でこう書かれている。

『子供が出来たようです』

 もう一度、それを胸元に戻すと、自分は思わず笑みを浮かべた。

 そうだ、自分は国でも天皇のためでもない。

 大切な家族の為に、戦っているのだ。

 ゆっくりと操縦桿を傾けると、一気に相手の空母へと突っ込んでいった。



 瞼を閉じると、思い出すのはあのときのこと。

 月明かりが綺麗で、静かな夜だった。

 待ち合わせは、あの橋の傍。

 明かりは持たずに、誰にも言わずにこっそりと二人で抜け出した夜。

 最初に待ち合わせ場所にたどり着いたのは、自分だった。

 誰かの何かの気配を感じたら、すぐさま身を隠して、彼女を待つ。

 何分待っただろう?

 長く感じられたし、そうでなかったかもしれない。

 手元に時計なんて、高価なモノはなかったから、よくわからない。

 けれど、彼女は来てくれた。

「誰もいなかったら、どうしようかと思った」

 小さくけれど、可愛らしい声で彼女はそう言う。

「浴衣を……着てきてくれたんですね」

 その言葉に彼女はくすりと笑った。

「そういうあなたも甚兵衛を着てくださってるじゃない。それに……花火を見ましょうって言ったのは」

 あなたよ、そう笑う彼女の手を握り、自分は高鳴る胸をそのままに目的地へと向かった。

 何かの物音が聞こえたら、すぐさま身を顰める。

 何事もなかったら、そのまま進む。

 人気はいないはずなのに、たまに人に会うから驚かされる。

 けれど、今のご時勢、警戒しないことはない。

 今は他国と戦っているのだから。

「ここです」

 たどり着いたのは、人気のない小さな神社だった。

 遠くで虫の音が聞こえる。

 少し暑くじめっとしているが、時折吹く風が心地いい。

「そういえば、どんな花火を見せてくれるの?」

「大したものではないんですけど」

 そういって、懐から取り出したのは、3本の。

「線香花火」

 彼女の言葉に頷いた。

「これを手にいれるのにも、難儀しましたよ。たまたま部隊に花火職人の息子がいて、助かりました」

 それで分けてもらったと言えば、彼女もまあと驚きの声を聞かせてくれる。

「それじゃあ、一緒にやりましょうか」

 一本を手渡そうとすると。

「一つずつやりませんか? 大切なものですから」

 それに長く楽しめると思いますよと、彼女は花火を持つ手に、自分の手を重ねた。

 重ねられた場所が、熱く感じるのは気のせいだろうか?

「火を……つけますね」

 持ってきたマッチを使って、花火に火をつける。

 とたんにはじけ始める花火。

 花火の火の明かりで、互いの顔が良く見えた。

「綺麗ですね」

「ええ」

 花火も綺麗だったが、彼女の無防備なうなじに、思わず目を奪われる。

 いや、うなじだけじゃない。

 彼女の唇。

 すっと通る鼻筋。

 柔らかな視線。瞳。

 きちんと纏められた長い黒髪。

 と、彼女の紅を注した唇が動いた。

「あっ」

 一つ目が終わった。

「じゃあ、もう一つつけましょう」

 先ほどと同じように二人で花火を見つめる。

 ほんのりと頬が赤く染まっているのは、赤い花火の所為か?

 二つ目はあっという間に落ちてしまった。

 そして、最後。

「これで最後、ですね」

「長く見られるといいですね」

「ええ。では、つけますよ」

 火をつける。弾けはじめる花火。

 綺麗だった。

 花火も。

 もちろん、花火の向こうに見える、彼女も。

「これは長いですね」

 小さな声で囁くように彼女が言う。

「ええ」

 自分も彼女に倣うかのように小さな声で答える。

 二人で持つ二人だけの花火。

 ああ、この時間が永遠であればいいのに。

 このまま続けばいいのに。

 そうすれば、自分は何と幸せ者だろうか。

 国の為に戦わなくてはならぬというのに。

 けれど、願ってしまう。

 一秒でも二秒でも長く、長く彼女と共に居たいと。

 次第に目の前の火花が小さくなっていく。

 小さな火の滴となり、そして。

「「あっ」」

 自分と彼女の声が重なった。

 とたんに小さな笑い声が響く。

「終わってしまいましたね」

 名残惜しそうにそう呟くと。

「ええ。終わってしまいましたけれど、とても素敵な花火でした。もう滅多にみられない花火を、夏に見れたのですから、私達、幸せ者ですね」

 そう楽しげに微笑む彼女が、とても愛おしく感じる。

 思わず自分は、彼女の手を引き。

「えっ」

 その胸に抱いた。

 彼女のぬくもり。

 彼女の香り。

 そして、彼女の見上げる可愛らしい顔。

 どれも忘れないだろう。

「愛しています。……他の誰よりもずっと」

「……私も、お慕いしております」

 答えの代わりに唇を重ねて、遠くに虫の音を聞きながら、二人だけの時間を。

 激しく情熱的な時間を過ごした。

 まるで、夏の暑さに浮かれた様に。



 あれから、何日も何日も過ぎました。

 あの夏の夜は夢だったのかと、思うときもあります。

 けれど、それはありません。

 なぜなら、私の腕の中にはすやすやと眠る、愛らしい男の子がいるのですから。

 残念なのは、傍にあの人がいないということだけ。

 私は空を見上げます。

 はらはらと零れるように桜の花びらが舞っています。

 この花が枯れて、時が巡れば、またあの夏がやってきます。

 ねえ、聞こえていますか?

 あなたに会いたい。

 そう願ってはいけませんか。

「……さん……」

 声が聞こえたような気がした。

 はっと後ろを振り向くと、あの人がいるではありませんか。

 私はすぐさま駆け出しました。

 子供が泣いても構いません。

 これが今生の別れだとしても。

 私は彼の元に駆けつけるでしょう。

 あの人が、迎えに来てくれたのですから。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごくいい作品ですね…‼︎ ちょっぴり感動しました! 戦争ってやっぱり嫌だなぁと思いました。 家族や恋人がいると…辛いですよね。 よくこの様な小説を読むんですが、見ると悲しくなります。 あ…
[一言] こんにちは!私もお邪魔させて頂きました。 とても郷愁を感じるような切ない物語でした。 ラストはどうなのでしょう?どうともとれるような感じでしたね。 私の個人的な意見なので聞き流して頂いて…
[良い点] 線香花火を貧しい時代の象徴にしたのが良かったと思います。 [一言] 時代考証等が合っているのか、気になりました。また第二次世界大戦の日本が舞台という事で、ハッピーエンドがあわない素材だと思…
2015/07/24 00:17 退会済み
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