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セバル  作者: レスト
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第1部 序章 第1話「ゆうやの日常」

 西暦1990年。ここは日本のとある小さな町。とくになんということもない普通の町。そんな町のごく普通の家庭に、ごく普通の子供が一人。ゆうやという4歳の男の子だ。彼は一人っ子だったこともあり、あまり不自由なく手をかけて育てられた。そのせいで、少し甘ったれたところがあるが、小さな子供にふさわしい活発さと明るさをもった子だった。




 両親は共働きで、普段夕方は一人で過ごしていたが、隣近所の同年代の子供たちと遊んだり、テレビを見たりゲームをして時間をつぶしていれば退屈しなかった。いや、正直に言えば少しはさみしかったのだが、両親はゆうやのことを考えてなるべく残業せずに6時ごろには帰ってきてくれるのだ。両親はいつも帰りで待ち合わせをしており、いつもそろって帰宅する。そして、毎日毎日親の帰りを心待ちにしているゆうやにただいま! って声をかける。するとゆうやはうれしくなっておかえり! と大きな声で言ってお父さんとお母さんに飛びつくのだ。



 今日の夕食はゆうやの大好きなハンバーグ。と、嫌いな野菜炒めだった。いただきまーす、の声とともに勢いよく食べ始めたゆうやに、よく噛んで食べなさい、とお母さん。はーいという口の周りはもうソースで汚れていた。しばらくして、ごちそうさま! といったゆうやにお母さんが一言、あら、ピーマンはどうしたの?だってにがいんだもん。お父さんが、好き嫌いしてたら大きくなれないぞ、なんて言ってからかってみたが、でも、にがいほうがヤダ! と言ってきかない。もう、しょうがないわね、と笑いながらお母さんが皿を下げた。





 夕食後はお風呂の時間。甘えん坊の4歳というだけあって、ゆうやはお母さんと一緒にお風呂に入っていた。頭を洗ってあげながら、そのうち一人で入れるようにならなきゃね、とやさしく言ったが、ゆうやの方はというと、まだまだ一緒に入っていたい様子。風呂上がりに、お父さんが、おとうさんは、もう5歳のときには一人で入ってたよ、なんて言うものだから、おれだって、とゆうやはいきがった。ゆうやが自分のことをおれというのは、どこかのアニメの影響らしい。なんにせよ、自分のことをぼくというのがなにか恥ずかしかったらしく、そのままおれを使っている。そっちのほうがなんかかっこいい。



 夜の9時にはもう寝る時間。歯を磨いたらベッドでお母さんに寝かしつけてもらう。ゆうやは、暗いのが落ち着かず、寝つきはあまり良くない方だが、お母さんに抱きつくようにしていると安心できた。あったかい、そう感じているうちにいつの間にか眠りに落ちる。





 ゆうやが寝ると、母親はふとんをそっとかぶせて、微笑みながら部屋を後にした。



 ゆうやは幸せそうに眠っていた。きっといい夢を見ているのだろう。彼は、いつまでもこんな暮らしが続くのだと、続くものだと、子供心ながらに信じていたし、そう願っていた。







 同年9月のこと。ゆうやは楽しい朝を迎えていた。お母さんに連れられ、バス停に向かう。退屈そうに待っていると、あっ、バスがやってきた。出てきたのは大好きな先生、そして窓越しに見える友達の顔。ゆうやはいつものように大はしゃぎだ。そしてお母さんにバイバーイと手を振る。お母さんも笑いながら手を返す。おかあさんのすがたがちいさくなってって、ああ、みえなくなっちゃった。でも、次の瞬間には、きょうはなにしてあそぼうかな? と内心わくわくしていた。なにせ今日はたのしい遠足なんだ。おやつもいっぱいかってもらったし、あとは、そう、なにをしようかってかんがえるだけだ。そういうのケーカクをたてるっていうんだったっけ? まあいいや。そうだなあ、とってもひろいこうえんっていってたから、おにごっことかかくれんぼとかがいいかな。あっ、だるまさんがころんだでもいいかも。ねえ、なにしようか?




 そう言うと、友達の一人が、ぼくはかくれんぼがいいな、と言った。あ、それおれもやりたいとおもってたよ、と他の友達も言う。じゃあ、わたしも。ぼくも。あたしも。とクラスの人が続々と名乗り出た。よし、じゃあかくれんぼにしよ、とクラスのまとめ役の子が決めた。そっか、きょうはかくれんぼをみんなでやるんだ。よーし、ぜったいにみつからないようにがんばろう! ゆうやは気合を入れた。



 遠足が始まった。まずは決まったコースを先生たちについていく。丘のようになっている草っぱらのところで昼食となった。これいいでしょ、と母親に買ってもらったグミを友達に見せびらかすゆうや。1こちょうだい、と友達が言うと、いいよ、と言って彼はグミの袋を逆さに振って手のひらにやった。じゃあぼくもチョコあげるよ、と麦チョコを取り出してお返しにゆうやの手のひらにやった。ありがとう、とゆうやはお礼を言いつつなんだかうれしい気分になった。



 そうこうしているうちに、昼休みが終わり、お待ちかねの自由時間。どうやらかくれんぼをするというのは聞こえていたので、先生たちはあまり遠くにいかないように注意した後、邪魔にならないように、迷子が出ないように手分けして見張っていた。



 じゃんけんでとりあえず鬼が3人決まり、残りの20人くらいが一斉に逃げだした。ゆうやはというと、隠れる側だった。ことかくれんぼなどの遊びにおいて、小さな子供ほど真剣なものはいない。みんながみんな趣向を凝らしてその遊びに本気だった。不意打ちで鬼の近くに潜む者、何人かで一緒に隠れて連絡し合う者、ズルをしてトイレに行っちゃう者。




 その中で、ゆうやは、柵を越えて深い茂みの中に潜んでいた。この公園、山のところにあるのだが、そのために身を隠せるような木々が多く生えている。その木々を伝って隠れつつ、公園のはずれのほうの本当は立ち入り禁止の柵が立ってあるところを越えてしまったのだ。先生たちにも死角で見えていなかったらしく、また、立ち入り禁止の意味がよく分かっていないゆうやは単純に得意だった。普段なら一人で人気のないところにいくのが怖いゆうやであったが、かくれんぼ中ということもあって気にしなかった。それ以上行くと深い山中に入ってしまうような場所で、彼は息を殺してじっと隠れていた。



 しかし、そのうち誰も自分を捕まえに来ないことが分かると、なんだか張り合いがなくなって、急にさみしくなってきた。そろそろもどろうかな、なんて考えていたゆうやだったが、突如として山奥の方から変な、吸い込むような音が聞こえてきた。

 なんだろう、そう思ってゆうやは好奇心からか山奥に向けて歩きだしてしまった。なにか無意識に引き寄せられるような、そんな音だったのだ。音を辿っていくと、帰り道も分らぬ場所まで来てしまっていた。




 しかし、彼はそれにも気が付いていないようだ。ゆっくりと音のなる方へ歩いていく。どうかしていたのかもしれない。普段の彼からするとかなり大胆な行動であった。そしてしばらくすると何かが見えてきた。



 金属とも非金属ともつかぬ異様な物質でできた細い柱が少し離れて2本、そしてその間には、空間の裂け目があり、そこにはエメラルド色のトンネルのようなものが通じていた。どうやら吸い込むような音はここから聞こえているようだ。ゆうやはその目の前で立ち尽くす。あまり大きな音ではないのに、かなり遠くにいた自分になぜ聞こえたのかがよくわからない。エメラルドのトンネルはちょうど人が1人入れそうな大きさで、ゆうやは奥をのぞいてみたが、見通すことができなかった。気味の悪いほどに輝く深い濃緑色に、ゆうやは、なんだかこれが現実ではなく、夢みたいな気持ちになってきた。



 へんなの。そう思っていると、なんだか急に体の力が抜けてきた。直後、急に強烈な吸引が裂け目から起こった。目の前にいたゆうやはなすすべもなく、叫び声を上げた直後には裂け目に飲み込まれていた。そして、彼を飲み終わると裂け目は消え、2本の柱は跡形もなく崩れ去った。あとには静寂だけが残っていた。

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