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人間追い詰められると信じられないほど視野が狭まる

2話目です。1話を見返してみたのですが、誤字脱字。不自然な文章が多数見つかりました。お恥ずかしい。後ほど修正しようと思っています。

 予期しなかった桜子の襲来により一日のスケジュールに若干の遅れはあったが、朝の鍛錬は無事に済ますことが出来た。

 何より現在の慶一は機嫌が良かった。

 明治時代から名前の無かった機関に名前がついた事。

 その理由が思索段階とはいえ、霊子(れいし)を収束させるテクノロジーの誕生だった。これにより事実上霊魂の存在が証明され。政府が機関の事をひた隠しにする必要性が一段階下がったからだ。

 しかし、そんな事はどうでも良い。

「引越しぃ、引越しぃ、楽しい楽しい引越しぃ。今日でぼろい部屋からおさらばぁ」

 調子っぱずれな自作の歌を機嫌よさそうに歌っているのは無論慶一である。超自然事象研究協会という名前がついた事により。協会所属者達の労働環境が見直されることになったのだ。滞在時の住まいや給与まで全てが改善されると言う話を最後の最後まで黙っていた桜子はやはり人が悪い。

 朝のホームルーム前のひと時をこんなに良い気分で迎えるのは初めてのことだった。

「湿気で畳にキノコがぁ、生える事も無いぃ」

 そこで慶一は気付いた。

「キノコもう生えないの?じゃあ俺は雨の降り続く梅雨の時期には一体何を食べれば……」

 慶一は雨の降り続く梅雨の出来事を思い出した。野鳥はどこかへと姿を隠し川の水は増水し、思うように魚も取れなかった。苦しい時期だった。三日以上を野草で食いつないだこともあったのだ。おひたし、中華風野草炒め、イタリア風野草パスタ等幾重にも飽きないための工夫をしたが所詮は草。すぐに飽きた。単調な食事と偏った栄養によって荒みかけた慶一を救ったものこそが部屋の片隅に生えるキノコ達だった。とりあえずキノコを醤油で炒め、毒キノコだったらどうしよう、とビクビクしながら口に運んだものだ。結果そのキノコは食べる事ができる事が実証され、慶一は新たな食材の確保に成功した。

 あの時の感動は半年以上経った今でも鮮明に思い出せる。そのキノコが、無くなる。自分の命をつないだキノコが無くなってしまうのだ。

 死活問題である。

「ああああああああ」

 慶一の体ががたがたと震え出す。

「プリー―ーズ!!!キノコ・イン・カムバーーーーク!!!」

 思わず口から出た、慶一の絶叫は間違いだらけの英語だった。とても高校レベルとは思えない。

 そんな慶一にクラスメイトは生暖かい視線を向けるわけだが、本人はそれ所ではない。

「キノコがぁ、きのこがぁ。キノコおおおおおおおおおお」

 周囲の反対で無理やり仲を引き裂かれる恋人の名前を呼ぶかのような悲痛な叫びだった。

 来年の梅雨までに解決しなければならない問題に直面した慶一には周りの事を気にする余裕が無かった。普段だったら気付くであろう気配にもそのときの慶一には気が付くことは出来なかった。

「朝から面白い叫び声あげてるな。斗蔵」

「なんだ、佐久間か。何の用だ?俺は今重大な問題に直面してるんだ。」

 少なくとも本人には重大な問題であるキノコの代わりになる食材を頭の中で暗中模索している最中に話しかけてきた少年は何処までも温厚そうな目をして眼鏡をかけている。

 彼のフルネームは佐久間智樹(さくま ともき)、慶一とは学校内で一番仲の良い人物だ。桜子とは違い見た目の通り温厚な好青年であり、優しげに整った顔立ちと誰にでも平等に接する事も出来るため人望も厚く。女子からも人知れず人気の高い貴重な存在だ。

「重大な問題って?さっきのキノコが関係してるのか?」

「ああ、俺の生活から潤いと栄養を奪いかねない極めて重大な問題だ」

「良かったら俺に聞かせてくれないか。何か力になれるかもしれん」

 慶一は迷った。目の前のこの温厚そうな少年に自分の行いを洗いざらい話してしまっても何も問題は起こらないのだろうか。

 慶一とて始めから狩人のような生活をしていた訳ではない。当然この生活を始めるかどうかの状況に陥った時には葛藤があった。

 葛藤を乗り越え、躊躇いを振り切ったその先が今である。実に情けない。

 目の前のこの少年はこんな自分をどう見るだろうか。

「佐久間」

 慶一は真剣な目つきで智樹を見据え聞いた。

「お前自給自足をどう思う」

「え、それ今の話となんか関係あるのか?」

「いいから。どう思うかだけ聞かせてくれ」

 智樹は暫く考える素振りを見せた後言った。

「凄いと思うよ。生活の全てを自分で賄うなんて中々出来るものじゃない」

 その言葉を聞いたとき慶一の心は決まった。この好青年に全てを打ち明けよう、と。

「佐久間自給自足はお前が思ってるほど綺麗なものじゃない」

 その言葉を皮切りに慶一は話し続けた。親元を離れてこの学校へ入学したはいいが、与えられた部屋がとてつもなくぼろかった事。仕送り五万という予算内での食うや食わずの生活でやむおえなく始めた狩人生活。獲物が取れなかったときのひもじさ。

「そんな時俺はひっそりと部屋の片隅に生えているキノコの存在を思い出したんだ」

「ま、まさか」

 智樹の顔に緊張が走った。

「食ったのか?」

 若干引いているように見えるのは気のせいだろう。

「賭けだったよ。チップにしたのは俺の命だ」

 苦い思い出を語る慶一の顔も影が差したようになっていた。その顔を見た智樹が生唾を飲み込む。

「……それで?どうなった」

 先を促す智樹。

「掛けには勝った。俺は命をベットして命を手に入れたんだ」

 そこまで語り。慶一は力を全てを出し切ったかのように椅子の背もたれへ体重を預けた。

「そして近いうちに俺はもう少し条件の良いアパートに引っ越す事になる」

「よかったじゃないか」

 嬉しそうにいう智樹だったが、相変わらず慶一が思いつめた表情をしている事に気付く。

「どうした?」

「俺も始めはそう思ったさ。これであのオンボロアパートからもおさらばだ。トイレも水洗、風呂もある。何より雨漏りも隙間風も無い。快適ライフが約束された、俺だけのユートピア。そう思ってた」

 そこで一泊置く、二人の間の緊張感は最早最高潮に達していた。

「だが気付いたんだ。湿気が無い。よってキノコも生えない。俺は来年の梅雨をどう乗り切ればいいんだ!!」

 そこまで話して頭を抱え込む慶一の肩に手を置き智樹が言った。

「バイトすればいいんじゃないかな」















 慶一は智樹の一言を聞いたとき、かなりの時間固まっていた。カッと目を見開き、口をあんぐり開け、リアルムンクの叫びのような表情で智樹を見つめたまま固まっていたのだ。

「アルバイト、だと」

 それだけをやっとの思いで搾り出す。貧困生活で毎日を必死で生きる慶一にとってアルバイトという発想そのものが抜け落ちていた。

「うん俺等の歳じゃまだそんなにもらえないけど。それでも少しは足しになるんじゃないかな」

「そうか、その手があったか。佐久間、どこか深夜で雇ってくれそうな所はないか?」

 (未来への道は開いたさあ行け慶一)そんなナレーションが頭の中に響くくらいにハイになった慶一だが……

「深夜のバイトは年齢制限があって無理だって。バイトなら学校が終わってからでも出来るじゃないか」

 ようやく未来への希望が見えたと思った慶一だが、その希望は年齢制限と言う現実に蹂躙された。

「それは無理だ。実家の仕事があるから、就業から日付け変更時刻までは高確率で拘束される」

 そう言ってガックリと項垂れる慶一。

「そのバイト代が、仕送りの五万?」

「……そうだ」

 それだけを言うと慶一は動かなくなった。あまりにも不憫な友人を智樹は黙って見つめるしか出来ない。

「斗蔵。あんたバイト探してるなら家の店でやらない?」

 慶一は魂が口から出そうな顔で声のする主を見やる。

 声の主は慶一と佐久間のクラスメイトの朝倉薫(あさくら かおる)だった。セミショートの黒髪をしていて目のパッチリとした快活そうな少女である。

 薫と言う中性的な名前の通り性格も普通の女子よりやや男よりで、女子からは頼れる姉御的な存在として慕われている。普段は仲のいい友人と一緒にいるのだが、文化祭がきっかけで、慶一と智樹と一緒に居ることも多くなったのだ。智樹ほどではないが薫も慶一とは親しい友人の一人だ。

朝倉(あさくら)、お前今の話全部聞いてたのか?」

 額に手をやりながら言う智樹。

「全部って訳じゃないけど、大体の事情が飲み込めるくらいは聞いた。でっ?斗蔵、どうなの?家の小料理屋経営してるんだけど、そろそろ忘年会でさあ。正直猫の手も借りたいのよ」

「やりたいのは山々だが、俺は放課後以降は予定が……」

 無論『本業』の事だ。

「その手伝いが終わってからでいいからさあ。店も深夜の一時まで営業してるし、知り合いのところなら深夜でも関係ないわよ。あくまで手伝いって名目で、お願い!!」

 拝むように手を合わせる薫。

「いいのか?殆どいる意味無いんじゃないか?」

「言ったでしょ猫の手も借りたいって。労働時間は短いから給料はそんなに出せないけど、(まかな)い位なら出せるわよ。キノコよりは栄養あると思うけど」

「そうか、ありがとう、朝倉」

 慶一にだって分かる。かき入れ時を過ぎた時間帯に自分が来ても大して意味が無いだろうと言うことも。少しでも力になろうという彼女なりの彼女なりの優しさなのだという事も。

「礼なんかいいわよ。猫の手借りたいって言ったけど、本当に猫の手だったら徹底的に鍛えてやるからね」

 始業を告げるチャイムが鳴った。

「それじゃあまた後で」

 薫がそう言うと席に戻って行った。

「なんとか正月は越せそうだな」

 慶一の背中を一度軽く叩くと智樹も席へと戻っていった。

 始めは学校なんて興味が無かった。

 国の要請で偶々入る事になっただけの隠れ蓑だった。

 だが、やはり一年近くも通っていれば楽しい事もあった。出来ればもう少し、この優しい日常が続けばいい。この日常を脅かすのが妖魔であるならば、自分はそれと戦おう。

 誰のためでもなく、自分のために。

 そんな決意を胸に秘めながら慶一は一時間目の授業を睡眠に当てた。

やっと話の本筋に入れそうです。相変わらすテンポが悪く無駄に字数の多いこの話を読んでくださった方、有難うございます。次から。青春・バトル・ホラー的な要素を組み込んだ話を書いてゆくつもりです。

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