守護霊忍法! ブレーンバスター!
『夏のホラー2026』に作品を投稿したら、オカルト知識が無いと分かり難いと言われました。
なので、分かり易いホラー作品を書こうとしたら、コメディーでしかない何かが完成したので、コメディーとして投稿しておきます。
音が響いた。
爆音にも似た音だった。
またか。
そう、思った。
自慢ではないが、俺には霊感がある。
経験上、この音は霊障の類いだった。
空気が振動した感覚が無い。
それでも、ハッキリと音が聞こえた。
溜息が出る。
そんな俺の様子に気づきもせず、家族はテレビを見ていた。
もう一度溜息を吐いてリビングの席を立つ。
放っておきたいが、ヤバい奴だったら不味い。
仕方なく様子を見に行く事にした。
音のした部屋は、リビングの隣の部屋だ。
襖を開けば、どんな奴なのか分かるだろう。
渋々とだが襖を開く。
襖を開いた瞬間に状況は分かった。
しかし、理解に困る状況でもあった。
どう説明したものか……。
何というか……
鎧武者が、忍者にジャーマンスープレックスを決めていたのだ。
何を言っているのか分からないと思うが、俺も正確に分かってなどいない。
見たままを伝えただけだ。
正直、関わりたくなかった。
そもそも、幽霊自体、関わりたくないのだ。
その上、その幽霊が、俺の自宅でプロレス技をかましているのである。
………………
よし!
無視しよう!
そう決めて、襖を閉める。
関わったら駄目だ。
気にせずにテレビでも見ていよう。
そんな事を思って襖に背を向けた瞬間だった。
また、隣の部屋から音が響いた。
割と大きな音だった。
そう、何かが床に叩きつけられた様な音だ。
どうしようかと思った。
しかし、放っておいて、家族の誰かが憑りつかれでもしたら事である。
仕方ないので、恐る恐るとだが、襖をもう一度開く。
静かに部屋を覗く。
そして、覗いた先には……
……ラリアットを振りぬいた姿勢の鎧武者と、床に叩きつけられた忍者が居たのだった。
……本当に、どうしよう。
此奴らは、何で他人の家でプロレスをやっているのだろう?
本気でそう思った。
どうするべきか頭を悩ませる。
幽霊共を眺めてみるが、妙案は浮かばない。
拳を高く掲げる鎧武者。
畳に伏した忍者。
状況は好転しそうにない。
ただ、眺める事しかできなかった。
そして、そんな風に眺めていたのがいけなかった。
正直、油断していた。
そう、鎧武者と目が合ってしまったのだ。
その瞬間、鎧武者が刀を抜いた。
そして、獲物を見つけたと言わんばかりに笑い出す。
何で、俺には刀を抜くんだよ!
本気でそう思った。
幽霊忍者にはプロレス技だったのに、俺に対しては殺意が高すぎではなかろうか。
鎧武者に恨みを買った覚えはない。
覚えは無いのだが……
現在、鎧武者は此方に向かってきている。
対処に困る。
プロレス技で来られても困るのだが、刀を抜いて来られても困る。
どうしたものか?
そう思っていたら、目の前で鎧武者が吹き飛んだ。
かなり勢いよく吹き飛んでいった。
何が起きたのか?
そんな疑問は湧かなかった。
俺は何が起きたのか知っている。
そう、犯人は忍者だった。
俺は目撃した。
目撃してしまったのだ……。
忍者が、鎧武者にドロップキックをお見舞いするところを。
……此奴らは、何で、同じ幽霊相手には頑なにプロレス技なのだろう?
そう思ったが、気にしたら負けだとも思った。
なので……
忍者が鎧武者にキャメルクラッチを仕掛けているのを確認して襖を閉めた。
………………
……もう、襖を開きたくない。
だが、そうもいかないのだろうと思う。
放っておいて良い者でもないだろうからなぁ……。
そんな事を考えていたら声を掛けられた。
「どうした?」
父が、訝し気に俺を見ていた。
父の声に、母も此方に視線を向けてきた。
「もしかして……、見えた?」
母が言う。
家族は、俺に霊感がある事を知っている。
だからこその言葉だった。
「ああ……。まあな……」
曖昧に返事をしておく。
正直、隣の部屋で起こっている事を正確に説明する自信が無かった。
だから、適当に話題が変わる事を祈る。
だが、そうは問屋が卸さない。
「おっ! 今度は、どんなのが見えたんだ?」
父が、興味津々といった風に聞いて来る。
母も、目を輝かせていた。
「………………」
この両親、オカルト話が好きなのである。
子供の頃から、俺が見たものを根掘り葉掘り聞いて来るのが定番だった。
そして、適当に誤魔化せる相手でもない。
観念するしかなかった。
「何というか……」
言葉に詰まる。
見たままを説明して良いものなのだろうか?
そう思うが、見たままを説明するしか方法が見つからない。
眼を輝かせて俺を見つめる両親には悪いが、一緒に困惑してくれ。
「……鎧武者が忍者にジャーマンスープレックスを決めてた」
言ってみて、やはり意味が分からなかった。
こんな話、いかにオカルト好きの両親といえども困惑するだろう。
そう思っていた。
なのに……
「マジで⁉」
「キャー! 斬新な霊現象だわ!」
めっちゃ、燥ぎ始めた。
正直、両親の事も怖くなってくる。
何で、こんな意味不明な状況を受け入れられるんだよ……。
「それで⁉ その後は⁉」
「……鎧武者が、忍者にラリアットを決めてた」
「プロレスゥ~!」
「仏間がプロレスのリングになっているのね!」
そういえば、隣の部屋は仏間だったな……。
忍者が先祖とかだったら嫌だな……。
………………
……一応、聞いてみるか。
「……その後、鎧武者が刀を抜いて俺に迫ってきたところを、忍者がドロップキックで助けてくれたんだけど、先祖に忍者とか居ないよな?」
先祖がプロレス忍者と嫌すぎる。
まかり間違って、あれが守護霊とかだったら泣くかもしれん。
「あっ。俺の先祖が、伊賀だか、甲賀だかの出身だったらしいから、居るかも知れんぞ」
父が酷くあっさりと言う。
その言葉に、膝から崩れ落ちそうになった。
それでも堪えて叫ぶ。
「嘘だろ⁉ あの忍者、襖を閉める直前、キャメルクラッチ決めてたぞ!」
忍法キャメルクラッチとか聞いた事が無い。
「忍者もプロレスをやる時代なんだろ」
「どんな時代だよ⁉ プロレスブームはとうに過ぎ去ったぞ!」
「良いじゃない。それより、今、どうなってるの?」
いや、知らねぇよ。
見たくもない。
だが、まあ、確認しないといけないんだろうなぁ……。
そう思い、もう一度、襖を開く。
当然だが、仏間の様子がすぐに見て取れた。
そして、そこでは……
……忍者が、鎧武者にコブラツイストを決められていた。
頭痛がする。
どうしたものか……。
まあ、両親に見たままを伝えるしかないのだが……。
「あぁ~……。今、忍者が、鎧武者にコブラツイストを決められてる」
「何ですって⁉」
「頑張れ! ご先祖様!」
俺の説明に、両親が騒ぎだす。
両親の中で、忍者はご先祖様に認定されたようだった。
「状況! 状況を説明してくれ!」
父が言う。
まあ、そうなるよな。
俺が説明するしかない。
「あっ! 今、忍者がコブラツイストから抜け出した!」
「やったわ!」
「反撃だ! ご先祖様!」
両親の言葉に、奮起した様に忍者が鎧武者に飛び掛かる。
そして、鎧武者に向かって手に持った何かで連打を加え始める。
……あれは⁉
「忍者が、栓抜きで攻撃を始めた!」
「流石忍者!」
「栓抜きだなんて、理解が深いわ!」
そうだろうか?
忍者なのだから、手裏剣とか、苦無とか使えよ。
そう思う。
思うが、ツッコむだけ無駄なので、口にはしない。
とりあえず、両親が満足するまで実況に専念する事にする。
「あっ! ボディスラムで忍者が叩きつけられた!」
「頑張って!」
「負けるな! ご先祖様!」
「忍者のフランケンシュタイナーが決まった!」
「やったぜ!」
「流石ね! 身軽だわ!」
「なんだか分からんけど、忍者がバックブリーカーを決められてる!」
「抜け出せぇぇ!」
「……抜け出した! 忍者のシャイニングウィザードォ!」
「やったわ!」
「忍者が、何処からかパイプ椅子を持ち出した!」
「パイプ椅子にも霊体があるのね⁉」
「今度から、仏壇にパイプ椅子を供えようぜ!」
両親がひたすらに盛り上がる。
適当に実況していたら、俺も、ちょっとノッてきてしまった。
だが、そろそろ潮時だろう。
頑張って実況しているが、プロレスに詳しくないので、そろそろ限界だ。
拙い実況だけで、これだけ盛り上がっている両親には悪いが、この辺で終わりにさせてもらおう。
「両者、大分疲弊してる」
幽霊が疲弊するのかと思うが、実際、両者共に肩で息をしているので仕方ない。
まあ、この幽霊プロレスも、二十分は続いているしな。
とりあえず、ヤバそうな鎧武者が勝つと困るので、ここらで介入しようと思う。
「そろそろ、終わりにするよ」
「そうね……」
「仕方ないかぁ……」
両親が残念そうに言う。
だが、このままだと、俺の喉が枯れるので諦めてくれ。
「じゃあ、行く!」
「気をつけてな」
「行ってらっしゃい」
両親の言葉を背に、一気に仏間に乗り込む。
その瞬間、俺の意図を察した様に忍者が動いた。
敵意は感じない。
忍者のご先祖様疑惑が深まった。
忍者と共に鎧武者に組み付く。
次の瞬間には、鎧武者を二人で持ち上げていた。
そして……
そして、俺と幽霊忍者のツープラトン・ブレーンバスターが幽霊鎧武者に決まり、きっかりテンカウント後、試合終了のゴングの様に仏壇のお鈴がひとりでに鳴り響いたのだった。
自分で書いておいてなんですが、普通、守護霊と忍法とブレーンバスターは一緒に並べるべきではないと思います。
分かり易い作品を書こうとしていたのに、十分に理解不能な作品が出来上がった気がしてなりません。




