第四章 お菓子コンテスト
王女の提案で、王都初の「お菓子コンテスト」が開催されることになった。
「ココとアラン、二人の才能を正当に評価したいの。そして、お菓子文化をもっと広めたい」
審査員は、王女を含む王族と貴族、そして一般市民の代表。優勝者には、王室御用達の称号が与えられる。
「これは絶好のチャンスね」
エリザベート嬢が興奮している。
「御用達になれば、店の信用度が跳ね上がるわ」
しかし、プレッシャーも大きい。負ければ、店の評判に傷がつく。
「大丈夫です。私たちの最高のお菓子を作ればいい」
弟子たちと作戦会議を開く。
「テーマは『思い出』です」
私が宣言する。
「お菓子は、ただ美味しいだけじゃない。人の心に残り、大切な思い出になる。そういうお菓子を作りましょう」
三日間の準備期間。私たちは寝る間も惜しんで試作を繰り返した。
コンテスト当日。会場は王城の大広間。豪華な装飾、大勢の観客。緊張で手が震える。
「落ち着いて、ココ」
リリアが励ましてくれる。
アランの作品は、まさに芸術品だった。七層のウェディングケーキを模した巨大な作品。細かい装飾、完璧なバランス、見る者を圧倒する美しさ。
「これが、伝統の技術です」
アランが誇らしげに言う。
観客からため息が漏れる。
「すごい……」
「あんなの、勝てるわけない……」
弟子たちの顔が曇る。
「待って。私たちには私たちの良さがある」
私たちの作品を披露する。
それは、小さなカップケーキの詰め合わせだった。一つ一つに違う味、違うデコレーション。シンプルだが、温かみのあるデザイン。
「これは……子どもの頃、母が作ってくれたお菓子をイメージしました」
私が説明する。
「一つ一つに、家族への愛が込められています。技術より、心。それが私たちのお菓子です」
審査が始まる。
審査員たちは、まずアランの作品を試食する。
「素晴らしい技術だ」
「完璧なバランス」
「これぞプロの仕事」
賞賛の声が続く。
次に、私たちの作品。
王女が最初のカップケーキを口に運ぶ。
その瞬間、彼女の表情が変わった。
「これ……」
目に涙が浮かぶ。
「亡くなった母を思い出したわ。小さい頃、母がよく作ってくれたお菓子の味」
他の審査員も、次々と感想を述べる。
「温かい……」
「懐かしい気持ちになる」
「技術は劣るかもしれないが、心に響く」
最終審査の結果が発表される。
「優勝は……もふもふカフェ、ココ!」
会場が歓声に包まれる。
信じられなかった。アランの完璧な技術に勝てるとは。
「ココ、おめでとう」
王女が微笑む。
「あなたのお菓子は、人の心に届く。それが何より大切なことよ」
アランは、苦々しい表情で私を見ていた。
「認めません。こんな結果」
「アランさん……」
「次は必ず勝ちます」
彼は会場を去っていった。
その夜、私たちは祝勝会を開いた。
「やったね、師匠!」
「御用達ですよ!」
弟子たちがはしゃいでいる。
しかし、私の心は複雑だった。
アランの悔しそうな顔が、頭から離れない。
「彼も、お菓子を愛しているんだ」
ただ、表現の仕方が違うだけ。
いつか、彼と本当の意味で分かり合えたらいいな、と思った。




