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64.それから始まる物語
女の子はただその場に立ち尽くしていた。
何かを待つように、この場から動けなかった。
日が暮れようとしている。
どれだけの時間が経ったか分からない。自分は誰なのだろう?
「そこで何をしている?」
龕灯の灯りが女の子に向けられた。
不思議そうな顔で明かりの先にいる中年の男を彼女は見た。
「……分からない……」
「名前は?」
「名前?」
「わしは弦蔵だ。お前は?」
彼は風上の地の名主の一人だった。
「……あまね……」
「どこから来た?」
服はボロボロだったが、見たことも無い生地だった。
「どこかの偉い人の娘か?」
「……分からない。わたしひとり……」
「賊にでも襲われて、逃げて来たか?」
女の子は理解できているのか分からないが、ただ首を振るばかりだった。
「困ったな……しかし、こんなところにおいても行けない」
弦蔵は手を差し出すと天音の手を握る。
「とりあえず家さこい」
天音の歩調に合わせて進みだす。
歴史が始まった瞬間だった。
第二章 完 第三章「魔法陣都市編」に続く




