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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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58.闇を抜けた先に

 ほんの数秒で一刀達は闇を抜けた。

 一瞬であっけなかったが、今度は想像を絶するものがそこにあった。

「おい!」

 目の前には高さ百メートルはある黄金のピラミッドが立っていたのである。

「ここは地下でいいのかな?」

 恵は唖然としながらピラミッドを見上げている。

 そこは巨大な空洞で足元も壁も天井も岩盤が露出していた。

「崩れてこないよね?」恐る恐る訊ねる。

「七百年にわたって現状を維持しているのですから、崩れることはないと思いますよ」

 光源はピラミッド自体なのだろう。微妙に周囲は薄暗い。

「何でこんなところにピラミッドなんて立てているんだよ。バカなのか?」

「私もこれを見た時には驚きました」早田健三は耳障りな笑い声をあげていた。「しかし、あの時代にこれらの建築物を作り、残したのは凄いことですよ」

「無駄なことに時間をかけているようにしか思えねぇよ」

「彼は数日で作り上げていますよ」

「はあ!?」

「信じられませんよね。私も天の巻にそう書かれていたのを見て驚きましたもの。こんなの作っている暇があったら研究を続けていた方がいいはずだと思いますからね」

 一刀は早田健三の上から目線にムカついていたが、黙って話を聞くことにする。

「冗談みてぇな話だし、こんなのが鎌倉時代にあったなんて言われても誰も信じねぇぞ」

「そうだよね」恵は一刀の言葉に何度も頷く。「私たちは天地仁左さんが残してきたものを見ているから、分かるだけで宇宙人が残したと言われた方が信じてしまうもの」

「なんでこんなでっかいものばかり作る必要があるんだよ? 意味が分からない」

「圧倒するため?」恵は言ってみた。

「こけおどしかよ」

「大は小を兼ねるというでしょう。小さくコンパクトにする方が効率的にはいいでしょうが、器として収まり切れなかったらそれは失敗となる。天地仁左は余裕を持たせながら作ったのでしょうね」

「それにしたって分散させすぎだろう」

「もっと集中させてもいいんじゃないのかな」

「資源や材料の調達とかあったのでしょう。彼は自分の都合のいい場所として岩鋼山や瀬羅湖を選んでいたのです」

「意味があったんだ……」

「まあ、ここで眺めていても仕方がありませんので、行きましょうか」

 早田健三は胡散臭い笑みを向けたあと、ピラミッドへと歩きだした。


 ビラミットには扉があった。

「またどこかの空間と繋がっていて、中に入るのかと思った」

「ピラミッドの中が繊細な空間なので、異物の侵入は避けたかったのでしょう」

「オレ達はいいのかよ?」

「天と彼女の最終調整は済んでいるのでしょう。そこは厳重に隔離されているでしょうし、今は我々くらいなら問題ないはず」

 その声とともに扉が開く。

 中に踏み込んで、一刀と恵は固まった……。

「なんだ、これ?」

「龍玄寺の石段よりも長いね……どこまで続いているの?」

「これを上るんですか?」先が見えないので彩も不安そうだ。

 幅十メートルはある石段の先は闇に飲まれて見えない。

 高さ百メートはある天辺まで続いているのだろうが、それ以上に長く見えてしまう。もしかすると空間がねじ曲がっていてその先があるのかも知れない。

「ここ、本当にピラミッドの中なんですか?」恵は訊ねずにはいられなかった。

「エスカレーターになっているとか?」

 石段を指差しながら一刀も訊ねる。

「ピラミッドの中ですし、そんなものここにはありませんよ」早田健三はそう言って石段を上り始めるのだった。「余計なことにエネルギーを使いたくないのでしょう。天へ至る道は一筋縄ではいかないようです」

「こんな試練なんていらねぇ」

 くそゲーの微妙なシナリオを延々読ませられるよりもきつい。

 それでもここまで来て諦めるわけにもいかず一刀は早田健三に続くのだった。


 十分以上登って来ても先が見通せない。

 振り返ると出口は見えなかった。彼ら四人の周辺だけが明るいのが不思議に思えてくる。

 音もない世界を進んで行く。

 足音さえかき消されている。真空というわけではないだろう。

 自分の息遣いは感じられるし会話も出来た。

「あなたは天地仁左様ですか?」

 先頭を行く早田健三の背に彩は質問を投げかける。

「なぜ、そう思うのです?」

「あなたが詳しすぎるからです」

「七百年前の人物ですよ?」

「天音様の身体が根府屋の地下に安置されていました。仁左様なら今の時代まで生きていてもおかしくありません」

「貴女のように?」

「方法など分かりません。でも生きている可能性はあります。仁左様の亡骸を見たものは当時居りませんでした」

「消息不明でしたか。いつ亡くなっていたかも不明な人ですものね」呆れたような口調だった。「残念ながら私は早田健三です。戸籍もありますし、何ならへその緒もお見せしてDNA鑑定とかしてもらってもいいですよ」

 それで疑念が晴れた訳ではないが、彩は引き下がった。

「私はかの天才とは違う。天地仁左は生まれる時代を間違えた。いや間違えてはいないか? 龍はあの時代に存在していた。あの力があったからこそ、ここまでの偉業を成しえたといえる」

「どういうことだよ?」

「この超越した建築物も六柱のからくり人形たちも龍の力、超強力なエネルギーが無ければ設計図があったとしても創造することも動かすことも出来なかった。絵空事で終わったという事です。考えても見て下さい。人力では掘削すること手すらできない岩盤を溶かし掘り進めることや、鍛冶職人でさえままならない鋼や部品を高エネルギーがあれば楽に作ることが出来るのです。その意味では恵まれていたのですよ。天地仁左は」

「一人でやるには無理があるだろう」

「だからこそのからくり人形なんですよ。彼らが手足となり労働力となった。きっと天地仁左はコンピューターすら作っていたはずです」

「信じらんねぇが」

「信じるしかないよねぇ」恵は一刀に言う。

 二人は超越した力を目の当たりにしすぎていた。

「それでも天地仁左も私も生まれる時代を間違えている。協力者も理解者もいない時代よりも今から百年後に生まれるべきだったのだ」

「倫理的に無理だろう。百年経とうがあんたは犯罪者だよ」

「そんな訳はない。私もだし天地の理論は正しい。だからこそ天地仁左のこのやり方に私も共鳴しているのだからね」陶酔したような声にも聞こえてくる。

「死者を生き返らすだの、神様気取りかよ」呆れてしまう。

「新しい創造だよ。先進的思考と技術は異端視されることは世の常だ。悲しいことに一般人には理解されない。天地仁左は新しい生命を創造している。これはかつてない偉業だ」

「怪物を生み出しているのにかよ」

 天才の考えることは常軌を逸している。

 その行動が犯罪であることを理解していない。どんなに科学が発展しようとしてもだ。

「フランケンシュタインは怪物ではない。新しい創造だ」

「もっといい方向に使って下さい」恵は言う。懇願だ。

「人類の未来のためになる。延命。宇宙に進出する新しい身体。強い生命を生み出す糧となるのだよ」

「あんたの話を聞いていると、それはデストピアにしか見えてこねぇぞ」

 一刀の言葉に恵も頷いている。

「それは残念だ。天地仁左の考えと思考は私よりもはるか先を行っている。悔しいがね」

「だから天地仁左の技術とやらを吸収し我がものとしようとしている」

 彩は訊ねる。

「彼の成果がどのような結末を迎えるのかは気になるよ」

「零という方は本当に天音様なのですか?」

「その器というべきだろうね。彼女は死んだ天音という女性の代わりとして生み出されているといってもいい」

「零ちゃんは零ちゃんだよ」

「姿形がそっくりであっても、それだけでは天音様ではありません」

「彼女が天音の記憶を受け継いだとしたら、そう言えるだろうか?」

「どういうことですか?」

「『天』とは天音の記憶の集合体だ。天音の記憶を受け継いだ存在だと言ってもいい。天音の記憶を天地仁左は『天』に移し替えることに成功していた。『天』は人としての身体を持ちながらもこのピラミッドの内部全てを使って記憶を蓄積しているのだよ」

「記憶? そんなことが出来るのかよ」

「記憶もエネルギーの一種だと考えれば可能だろう。それを成しえたのはやはり龍の力だ」

「それでも記憶を移し替えたとして、それは天音様なのでしょうか?」

「確かに生まれや環境から性格は出来上がるが、そんなこと分かる訳ないじゃないか。あとは天地仁左が納得できるかだろう。生命はそれほど神秘に満ちている」

「科学者とは思えねぇ発言だな」

「科学とはあくまでも探求心だ。我々は新しい生命の誕生に立ち会うことになるのだ」

 表情は見えないが、早田健三は光臨とした中で陶酔知っていたのではないかと思えてくる。そんな声だった。

 彼の声とともに光は輝き行き着く先が開けてきたのであった。



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