50.新たな情報は
「それ、罠じゃねぇの?」
一刀は思ったことを素直に口にしていた。
今更、早田健三の借りていた別荘の情報が出てくる方がおかしかった。
出雲も大場も同意していた。
恵だけが不思議そうにその様子を見ているのだった。
支部襲撃から三日後のことである。
一刀の読み通り、早田健三によって歌鳥は盗み出されたあとだった。
厳重な保管室は分厚い鋼鉄の扉がいとも簡単に切られている。
ロビーや二階部分の消火作業が続けられる中、緊急で派遣されていた隣県の突撃レスキュー隊の協力を得ながら番場は地下基地へと突入する。
早田健三は一直線に十二階層にある保管庫へと向かっていた。基地の基幹となる部分が破壊されていなかったのは幸いだったが、それでも指令施設とセキュリティ、それからエネルギー供給網を寸断されている。
基地は機能不全に陥っていた。
無駄な殺生はしていなかったため迎撃した職員には重症者も出ていたが、非戦闘員は各階に設けられていたシェルターに避難していて無事だった。
彼らもまたレスキュー隊員たちによって地上へと非難することが出来ている。
これからどうするのだろうと、恵や一刀が見守っていると、大場と出雲は怪我人を隣接する病院へと運ぶように指示しながら、地上出た職員とともに病院へと移動する。
「全員で?」
「平田さんが準備していた」番場はニヤリと笑う。「こんなことがあった時にのために予備の施設は準備してあるんだよ」
「うそだろう……」
「本当に?」
恵も一刀も呆れている。
病院の地下にはもしものために緊急時の指令本部となる施設が作られていたのだった。
死や奥の地下にあった指令指揮所と同じ部屋がそこにはあるのだった。茫然としながら慌ただしく動いているJES職員を二人は見つめる。
平田は職員に指示を飛ばしながら、自らも早田健三の行方を追っていた。
彼らの必死の捜査をあざ笑うかのように早田健三は闇へと姿を消している。
学園へ通いながら放課後には恵も一刀も気になるのだろう。毎日、状況を確認している。
彩も同様だった。
そんな彼らの元に早田健三の情報がもたらされる。
FBトリガーのメインシステムにわざとらしく残されているのだから、誰もが罠を疑うだろう。
「それでも手掛かりがない以上、行ってみるしかないな」
「場所はどこなんですか?」
「瀬羅湖の湖岸にある別荘地の一角だよ」
「瀬羅湖ですか」彩が呟く。
「何かあるのか?」一刀は訊ねてくる。
「瀬羅湖にも天地仁左様の伝承があるのですよ」
「湖の湖面を割ったって話だったよね?」大場は言う。
天地仁左を調べると出てくる伝承のひとつだった。
当初は眉唾ものだと誰もが思っていたが、今までの出来事を振り返ると、信じない訳に行かない逸話でもある。
「誰が行きます?」出雲は番場に訊ねる。
「一刀は必ずだな」番場は言う。
「行くなって言われても行くつもりですよ」
珍しく一刀は積極的だった。
天地仁左のことだけでなく無双霞の由来を知りたいからだろう。
「私も行きたいです」恵が手を上げる。「零ちゃんのことが気になります。会ってもう一度話が聞きたいです」
「私もです」彩も手を上げていた。
理由は語らなかったが。
彩は天地仁左のことだけでなく、天音のことも気に掛かっていたのだった。
「それに歌鳥の囀りにもありました」
囀り真似するように歌う彩だった。
『目覚めるは新たなる無限
瀬に流るは天なるものへ道導
羅を知るは彼のもの
月うつし出される水面に
影と交われば 道は開く』
そのあとで彩は懇願し、番場に頭を下げる。
「『瀬』と『羅』で瀬羅湖かよ」一刀は唸り声を上げる。「『月』と名が付く奴が瀬羅湖にいるのか?」
「その可能性は高いかも」彩は頷いている。
「天もいるかな」恵は礼のことを思い浮かべながらいう。
恵は零が天だと思っていた。
「分かりました」番場は答える。「出雲に現場指揮は任せる」
「了解!」
大場は悔しそうだった。
「一刀、彩さん、恵君は出雲の指示に従って動くように。それから捜査に時間がかかるだろうから、週末に掛かるとはいえ親御さんには了承を取ってくるように」
「分かりました」恵は頷く。「天文部の臨時の合宿だとお爺ちゃんには言います」
「それがいいな。一刀はどうする?」
「行きますよ。でもどうしようかな」理由が浮かばない。
「一刀クンも天文部に入ったことにすれば?」
「すぐばれそうな気がする」一刀は恵の脳天気に呆れていた。「バイトが泊りがけになっていった方がいいだろうな」
「残念」
「恵は部員を増やしたいだけだろう」
「バレた」恵は苦笑してしまうのだった。
明日から週末であることが幸いしている。
恵たちはそれぞれに準備をして瀬羅湖へ出雲の運転する一般車両に偽装した特殊車両で早朝から向かうことになるのだった。




