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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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45.恵の放課後

「う~ん。久しぶり~♪」

 放課後に友達とショッピングモールにやって来るのはいつ以来だろうか。

 フードコートは家族連れや学生などで賑わっている。

 恵は伸びをしながら周囲を見回す。


「いや~本当だよ。恵さん」と岸野沙織は同意する。

「剣道部は良かったの?」サボらせてしまったという罪悪感がある。

「よいよい。恵のお誘いだからね」

「声を掛けたのは春奈になんだけど」

「あたしだけのけ者っていうのもどうなんですかね恵さん?」

 恵ににこやかに詰め寄る沙織だった。

「恵ちゃんから誘ってくれるのも珍しいものね」

 二人のやり取りをにこやかに笹木春奈は見ている。

「試験期間中以来じゃない?」

「本当にごめんなさい」恵は手を合わせ二人に謝る。

「恵こそ部活は? 今日はバイト良いの?」

「部長には当分休むって言ってあるから大丈夫。バイトは今私が手伝えることは少ないから休みにしてもらったの」

「結構シフト、フリーダムなのね」

 JESでは必ず行く日が決められていない。タイムカードがある訳でもなく常駐スタッフ以外は呼び出しがあればそれに応じて顔を出している人もいるという。

「それにバイト代入ったし」

「なおさらあたし抜きなんてあり得ないでしょうが、当然恵のおごりよね」

「まかせて」

 鼻息荒く胸を張る恵だった。そう、彼女の先月のバイト代は驚く程の額になっていた。

 憧れのハンドコントローラー付きのスマホでも撮影できる口径の大きいモデルでさえ簡単に買えてしまうのである。

 いや、このまま貯め続ければ、在学中に自宅の庭に個人的な天体施設すら作れるかもしれないと夢想してしまう。

 支給額しか書かれていないので、明細や内訳を大場に訊ねたら、貢献度合いによって額は決められるのだと言われた。もっとも平和を守ったことへの対価を金額で決められるものではないが、そう言って大場は苦笑していたが。

 普段から危険に飛び込んでいく番場達はどれだけの年収があるのだろうかと考えてしまう。

「いいの? 望遠鏡買うためのバイトでしょう?」

「沙織や春奈と最近ご無沙汰だったから」放課後や休みの日に誘われても断る日が続いていて心苦しかったのもある。

「恵がいないから寂しかったよ~」

 オーバーアクション気味に沙織は恵に抱きつく。

「恵ちゃんはバイト先でどんなことやっているの?」春奈が訊ねてくる。

「う~ん。基本的には撮影(戦闘)の補助なのかな? あとは資料集め(訓練)や色々な雑用もこなしているよ」

「一刀って子も?」

「一刀クンは(戦闘の)メインクルーに入っているかな。普段は機材準備(披検体)だけど、頼りにされているからどっちも身体を張って頑張っているよ」

「クレジットされたりするの? 映像制作会社なんでしょう?」

「う~ん、どうだろう。私たちはバイトだから……」

「どうしたの恵?」

 恵の目は別なものに向けられていた。

 視線の先にはタブレットらしきものの画面と周囲を見比べながらウロウロしている同い年くらいの女の子がいた。

 彼女はどうしても画面に目が行きがちになり目の前がおろそかになってしまっている。人とぶつかりその反動でフラフラとよろめいてあらぬ方向に流されていった。足元にも目が行っていなかったのだろう。そのままつまずいてしまう。

 反射的に動いていた恵は床に顔から叩きつけられそうになっていた女の子をスライディングしながらキャッチする。

 タイミングよく女の子を抱え込むように抱きしめることが出来た。

 壁と床に激突するのを防ぎ恵はホッとする。

「わぉ!」

「恵ちゃん、凄い」

 沙織が女の子を立たせ、春奈が転がっていたタブレットを拾い持ってきてくれた。

 女の子も大丈夫なようだ。

「流石一番司、翔月のヒーロー恵様」拝む沙織だった。「あたしだったら惚れちゃう。よっ、女殺し」

「私殺しちゃうの? 沙織を?」

「違うって」慌てて否定する。「恵ってば本当に比喩や冗談が通じないからなぁ……」

 つまらなそうに言う沙織に春奈も頷く。

「恵ちゃんらしいよね」

「最近、一刀クンにもそれ言われる。空気読まないって」

「恵ちゃん、素直だから」

 春奈は微笑むが、一刀の名が出たからか沙織は少し顔をしかめる。

「あ、あの。ありがとうございます」

「ああ、ごめんなさい。大丈夫だった?」

 痛くないと頷く女の子をよく見ると、腰まで伸びた長い黒髪はまとめてすらいないし、前髪で目まで隠れてしまっている。服装も男性物なのでサイズがあっていなかった。

「恵ちゃんの方は?」

「擦りむいてもいないようだから……」

「ストッキング、伝線しちゃっているね」

「ストッキングは身代わりになってくれたのだ」

「ごめんなさい。わたしのせいですよね……」

 シュンとする女の子だった。

「ああ、これくらいだったら問題ないです。本当に」慌てて否定する恵だった。「それよりも何か探しているようだったけれど、大丈夫?」

「服を買ってきなさいと言われたの」

「誰に?」

「兄? わたしの服が無くて、それでここに行きなさいと言われたのだけど」

 女の子はタブレットの画面を見せてくれる。

「ここは地下のフードコートで、目的地のファッションフロアは二階になるよ」

 恵は指摘するが、女の子は良く分かっていないようだ。頭の上に疑問符が浮いているように見えた。

「どこかのお嬢様? それとも引きこもりだったとか?」

 小声で沙織が呟きながら恵と春奈を見る。

「私、一緒に行こうか?」

 いいよね? と沙織と春奈を見る。

「恵ちゃん面倒見がいいから」

「あたしもかまわないわよ。素材が良さそうだから選び買いがありそう」

「でた。沙織ちゃんのコーディネート病」

 目を輝かせ女の子を見つめる沙織に春奈は突っ込む。

「服とか良く分からなくて、助かります」

 恵の誘いに女の子は礼を言う。

「私は宇月恵です」

「沙織で~す、よろしくっ♪」

「笹木春奈です。春奈って呼んでね」

「零です」

 自己紹介を済ませると張り切る沙織を先頭に二階へとエスカレーターを上っていくのだった。


「楽しかった~♪」

 春奈はドーナツを口にしながら笑みを漏らす。

 服の買い物は一時間以上に及んだ。

 沙織のこだわりが随所に現れた結果だった。

 それが終わって恵は零も誘い、四人でフードコートやって来た。

「そうだね」沙織も満足げだった。「これ一度やってみたかったのよね~♪」

 沙織はおごりだからとチーズバーガーとダブルビーフバーガーをチョイスしてきた。

「晩御飯食べられなくなるよ?」

 太りそうだと突っ込む春奈だった。

「本当にありがとうございます」

 レイは買った服に着替えさせられていた。

「可愛いわ♪」春奈も嬉しそうだった。

「でもね~」大口を開けてダブルビーフバーガーを頬張る。「服装は何とかなったけれど、今度はその髪が気になるのよね~」

「変ですか?」

「綺麗な髪なのにもったいない。やっぱりあたしがその髪、まとめてあげるわ」

 席を移動し零の隣に座ると通学鞄からポーチを取り出す。

「沙織ちゃん、オジサン化しているよ」

 櫛を取り出し、手を怪しげに動かしながら目を怪しく光らせる沙織に春奈は言う。

「うるさいなぁ。あんたも一緒にやったげようか?」

「変なことしなければいいよ」

 きれいに髪を整えてくれるのは良いのだが、時折前衛的になるのが玉に瑕だった。

 沙織は気にせず嬉々としてレイの髪の毛をまとめ上げて行く。

 対面からぼんやりと恵はそれを眺めながらストロベリーシェイクをストローで吸っていた。

 長い髪で隠れていた部分が見えてくる。

 鼻筋がスッと通り、瞳の色がきれいだった。

 恵の表情は驚愕に変わっていく。

「この子すっぴんじゃない。ファンデーションくらいつけなさいよ」

「よくわからない」と零。

「私の貸そうか?」

「じゃあ、春奈は前をお願い」沙織は後ろに回る。

「了解しました沙織先生」春奈はポーチから化粧水を取り出す。「リップもぬってあげるね」

 零は二人のお人形さん状態だった。

「やっぱり素材が良い。睨んだとおりだわ」会心の出来栄えに沙織はやり遂げたような顔をしている。

「どうしたの、恵ちゃん?」

 ぽかんと口を開けて恵は零を見ていた。

「えっ、ああ、そうね」思いっきり気が動転していた。「……一緒に写真撮ろう」

 恵はスマホを取り出すと席を移動しレイの隣に座ると、よく分からないという顔をしている零とともに写真を撮った。

 その自撮り画像を恵はすぐに送信する。

 各方面に確認してもらうためだった。零の顔は地下の天地邸で見た天音を幼くした姿に見えたからだ。

「なになに? SNSにあげたの?」

 一斉に着信音が鳴り始める。

「凄い反応ね」

 レスポンスの速さに沙織が呆れる。


 スマホの着信音とともに、通信機の呼び出し音が鳴る。

 恵はスマホを手に慌てて席を立つと化粧室に向かいながら通信機を取り出す。動転していたせいか同時に両方に応えてしまう。

 両耳に指示と問い掛けが一斉に聞こえてきた。

 スマホは彩からで、通信機は番場から直接だった。

 彩も動揺しているのか珍しいほど慌てている。番場は矢継ぎ早に指示を口にするので、恵の混乱に拍車をかけるのであった。

 落ち着いて話が出来るまで時間が掛かってしまう。

 彩には居場所と状況を話し、番場からの指示を確認すると、ようやく恵は席に戻ることが出来たのだが……。

「あれ?」そこに零の姿はなかった。「零ちゃんは?」

「恵がいない間に彼女のお兄さんが来て、二人で帰ったわよ」

「恵ちゃんによろしくって」

「え~、どうしよう」

「お兄さん、良い男だったよ」

「そ、それってもしかして」恵はスマホの中から画像を検索する。「この人?」

 沙織と春奈に見せたのは早田健三の写真だった。

「雰囲気変わっているけれど、この人だわ」

 間違いないと春奈も同意する。

「え~っ!」恵は頭を抱える。「そんなぁ……どうしよう」

「恵ちゃんの知り合い?」

「……バイト先に人探しの依頼が来ていたの」

「あんたん所、探偵の仕事でもしているの?」

「もしかして、指名手配犯?」

「違う、違うの。そんなに物騒なものじゃなくて、本当に見かけたら知らせて欲しいって依頼があったの……」

「なんか迷子の犬猫探しみたいね」

「どっちに行ったの?」

「さあ」

 事情を知らない沙織と春奈の反応は素っ気ない。

 恵は椅子にへたり込んでしまうのだった。


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