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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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41.屏風ヶ岩の内側へ

「そっちに何かあったか?」

 一刀は恵と彩に声を掛けてみる。

 屏風ヶ岩へとたどり着いた三人は、入口を求めて手分けして捜索していたが、他の二人も一刀と同様手掛かりすら見つけられずにいる。

 岩鋼山の山肌はその名の通り岩肌が露出している場所が多い。登山道もそうだった巨岩が至ることろにあり歩き辛かった。

 山頂へと向かう登山道を一時間ほど歩くと、屏風ヶ岩への分岐標識が現れる。それぞれに目的地までの距離が書いてあったが、それ以上あるように感じてしまう勾配だった。

 屏風にたとえられているように、大きな一枚岩で切り立った崖が幅百メートル以上にわたって続く。自然に出来た物とされているが、垂直に伸びる絶壁は見る者を圧倒する。

 ロッククライマーの聖地とも言われ幾多のクライマーがここに挑んでいた。

「そう簡単に見つかるなら、誰かが先に見つけていてもおかしくないよね」

「そうですね。何らかの仕掛けがあるのでしょうか?」

「合言葉があるとか?」恵は言う。「ノックしてみようか?」

「そんなんで開くかよ。っていうか、この岩全体が扉かって!」

 一刀は呆れ突っ込まずにいられなかった。恵の妙に律儀な性格や独特の発想は何とかならないものかと思えてくる。

「ノックで反応するのであれば、岩登りをされている方の立てる音にも反応してしまいますよ」

「そうだよね」彩の指摘に恵は照れ笑いを浮かべる。「誰か向こう側にいるかと思ったんだよね。声を掛けてみれば応えてくれるかなって」

「そうなりゃ苦労はしない」

 一刀に突っ込まれ、お手上げといった感じで恵は岩場に座り込む。

「登ってみるにしたってなぁ……」

 見上げれば垂直な崖がまるで迫ってくるようにそそり立つ。

 本当に自然の崖なのかと思えるほど岩肌がコーティングされているようにすら思える。

「手掛かりとなる歌でもあればいいのですが、符合するような詩も見当たりません」

「彩さんは全部覚えているの?」

「念のために、全て記憶しました」

「スマホに記録するとかじゃないんだ?」

「まだ機械には慣れていませんので。それに暗記は得意です」

「七百年分憶えているのかよ」

「忘れたいこともありますが、私の生きてきた証でもあるので」

「試験で満点取れそうですね」

「どうでしょう? 本気で試験を受けたことはございませんので」

 彩は目を細めた。

「ここまで来て大場さん達待ちか?」盛大なため息を漏らす一刀だった。

「霧双霞を抜いてみましょう」

 彩が提案する。

「またかよ……」

 三行神社に張られた結界を斬ってみろと出雲に言われた時のことを思い出し、頭を抱える一刀だった。

「これは便利アイテムじゃねぇぞ」

「井戸の奥へも、天地様の館にも入れたではありませんか」

「本当にあれで入れたのかよ」

 一刀は胡散臭いものを見る目で彩を見る。

「でも『地』さんも言っていたし、ありなんじゃないかな? 一刀クン」

 恵は彩の案に賛成する。

「まあ、いいか」今やれることも限られていた。一刀は担いできたケースから刀を取り出す。「なんかやってることがバカみたいに思えてくるが……」

 山の中で刀を抜くのも滑稽な気がするのである。

「じゃあ歌舞伎役者さんみたいにポーズをとって立ってみようよ」

 台座のような岩場の上を指さし、スマホを構える恵だった。

「阿保か」

 一刀は呆れながら鞘から霧双霞を抜いた。

 その瞬間、足元で漆黒の闇が広がり彼らを呑み込んでいく。一刀たちの姿は一瞬でその場から消えた。

 平田や大場が屏風ヶ岩に着くと三人の姿はなく、彼らが背負っていたザックだけがその場に残されているのだった。


 三人は自分たちがゆっくりと落下しているのだと気付くのにしばらく時間が掛かった。

 暗闇の中、足元に感覚が戻ってきたのである。

「ここはどこだ?」

 一刀は呟く。どこかにたどり着いたようだが周囲は暗く何も見えない。

 ひとりここに飛ばされたような気がしてくる。

「一刀クン見つけた」

 ライトの明かりが一刀の顔に向けられる。眩しかった。

 恵は闇のカーテンの向こう側から急に現れたようだ。

「ご無事だったようですね」恵の後ろには彩もいた。

「何が起きたんだ?」

「入口を抜けたのでしょう。ここは屏風ヶ岩の内側になります」

「さも当然だっていう風に言ってくれるよな」

「本当に、それが鍵だったんだね」

「刀じゃなくて小道具の大きな鍵を振り回しているように聞こえてくるからやめろ」

「突然のことなのに、お二人とも驚かれていませんね」

「びっくりはしているかもしれないけれど」

「まあパニックになるほどじゃあないな」

 一刀と恵は龍に関する儀式など、超常現象的なことを何度も体験してきたのである。

 多少嫌な感覚はあるは気になるほどではない。

「パニックを引き起こすには少々インパクトに欠けるということでしょうか」

「感覚がマヒしてきてるってことかよ」

「そのようなものかと」彩は答える。

「もっと普通に入りたいよね。先のことなんか気にしなくてもいいように」

「ビックリハウスじゃないだけマシだろうな」

「あれはひどかったものねぇ」恵は同意する。「結局あの宝箱は何だったんだろうね?」

「ゲームじゃねぇんだ。トラップに決まってんだろう」

 暗闇にも目が馴染んできたのか少しだけ周りが見通せるようになってくる。

 すると唐突に光が灯る。

「あれが目印かな? 行ってみる?」

 彼らを誘っているようだった。

「何があるか分からないが、行ってみるしかないか」

 罠であっても噛み切るつもりだった。

 光に誘われるように進んで行くと、さらに周囲が徐々に見えてくる。

 最初は人の頭部のような輪郭が見え、またからくり人形が控えているのかと思った。

 身構えたが、どうやらそうではないようだ。

「京都の仏閣とかにこんなの無かったか?」

「千手観音立像が千一体あるとされている、三十三間堂のことでしょうか? 時代的に模していてもおかしくはないですが」

「その比じゃねぇくらいあるぞ。しかも両側に」

 観音像の顔付きは、どこかしら当屋地区の像に似ていると彩は思った。

「石像かな? それとも木彫り? 怖いくらいいっぱいあるよね」

「何かこいつら全部に探りを入れられているような感覚があるんだが」

「同感。私たち千手観音に見られているのかな?」

 彩も同意する。皆同じような感覚であるらしい。

 衆人環視にさらされているような感覚だった。

「やっぱり動き出すのかな?」

「どうだろうな。恵、棍で突いてみろよ」

「罰当たりだよ」

「逆にご利益があるかもしれないぞ」一刀は言ってみた。「しかしどれだけ彫ったんだよ」

「天地様かそれに関わる方々が安置していったのでしょうか」

「何のために?」

「供養?」

 恵はフラッシュをたいて撮影を試みるが、両側ともに奥行きが分からず、全てが写っているとは思えなかった。ゆえに像の数は分かりそうにもない。

「暇つぶしかよ。これだけの数を彫るのにどれだけ時間が掛かるのかね」

「型があって、それで作っているとか?」

「たい焼きやたこ焼きじゃねぇんだぞ」

「歌にある双子でしょうか?」

「そいつらがここの守り人だとしたら、やっぱり人間じゃねぇよなぁ」

 そう言いながら一刀は周囲を見回す。

「どうしたの?」

「今、なんか動いたような……気のせいか?」

「誰かいますか~?」

 恵は両側に向かって声を掛けてみる。

「そんなことしたって出て来るわけがないだろう」

「分かりませんよ。私たちは招かれたのでしょうから」

「やあやあ、千客万来だね」

 彩が言ったその時、突然奥から声がする。

 光が一気に広がり彼らを包むと周りの景色が変わった。

 三人は巨大なドーム状のホールに立っていた。


「これ……根府屋の地下よりも広くないか?」

「光源がないのに明るいですね」

 天井は岩がむき出しだったが、なぜかホール全体が明るい。しかも影は三人の真下にしか出来ていなかった。

 百メートル四方はあるだろう闘技場のよう見える場所は、畳であれば柔道や剣道の試合場でもあった。三人はその中ほどに立っていた。

 足元は一枚の平らで硬い岩盤で出来ている。

「あの屏風ヶ岩もこれと同じだったりして……」

「あれが人工物だって言うのかよ」

「ロープが張られていたら巨大なリングにいるような気がしてくるね」

「それ、フラグになるから止めろって言ってるだろう」

「やっぱり……そう思う?」恵は照れ笑いする。

『汝らは試練に打ち勝った。継承する資格があるということだ』

 唐突に頭上から声がした。低い重厚な声だった。

「試練?」

「誰だ? どこにいる?」

『我はここにいる』

 声はやはり上の方から聞こえてくるようだ。

『お主らが居た千手観音立像のあった場所は継承者であるか否かを我らが試す場所である。恐怖心や敵意を抱けば像がお主らを排除する』

「棍で突かなくてよかった~」

 恵は棍棒を握りしめ吐息を漏らすと一刀をジト目で見つめるのだった。

「警戒はしていましたが、パニックにはなりませんでしたし、平常心であったとは思います」

 彩の言葉が正解のようにも聞こえるが、一刀や恵が語っていた通り、驚くに値しなかっただけなのかもしれない。

『汝ら何故いかなる手段でここに参った?』

「こいつかな」一刀は霧双霞を声のする方へと示す。

「歌鳥の導きにより」彩が付け加えた。

『相分かった』

「なあ、お前さん一人なのか?」一刀は上に向かって問いかける。

「へえ、お見通しか。面白いね」

 即座に声が返ってきた。

 舞台の袖から影が現れる。その姿は小柄で子供のように見える。

「声が違えば分かるだろう。さっきあそこにいたのはお前だよな」

 それに歌鳥は双子と歌っていた。一人ではないはずだ。

「なかなか楽しめそうな人達だね」

『勝手に動くなと言っておるだろう』

「いいじゃないか、今までが退屈だったんだから、楽しませてよ」

『全くお前と言う奴は』

「双子じゃないのかな?」と恵。まるで親子のやり取りを聞いているようだった。

「千客万来とか言っていたが、オレ達の他にも誰か来たのか?」

「ねえ一刀クン、自己紹介しようよ」

「ああそういえばお互い名乗ってなかったし、用件とかも話していなかったな」一刀は頭を掻く。「オレは朧一刀、天地仁左の秘宝とやらとこの霧双霞の由来を知りたい」

「私は宇月恵です。えっと……」巻き込まれてはいたが、恵には一刀のような明確な理由がないことに今更だが気付く。

「彼女は龍の継承者です」彩は言う。「そして私は三行神社の巫女、破羅家の彩です」

『成る程。我が父に縁ある者達という事か。我は山なり。父天地仁左により生み出され、ここを任されたもの。そして、そこに居るものは炎雷』

「よろしくね」

 炎雷は無邪気に挨拶する。

「山って……地の次はそう来たか」一刀は呟く。

『汝らは継承者と認』

「二人目だよ。いいのかな?」

『数は関係ない。試練を乗り越えたのだ』

「さっきも訊いたが、オレ達の他にもここに誰か来たのか?」

 まさかトーヤか?

『天を含めれば三度目の来訪者である』

「天? なんだそりゃ?」

『順を追って話そう、継承者』

「でも、すでに継承は済ませているよ」

『そうであったとしても、この者達にも知る権利がある』

「だったら試させておくれよ」

『何故そうなる』

「良いじゃないか、もう役目は終えているのだから」

『確かに役目は終えた』

「それに前回は不完全燃焼だったからね」

 炎雷はまるで駄々っ子のようだ。

「終わったって何がだよ?」

「それに前回何があったの?」

「いつ誰がここに来たのでしょう?」

「それに全部答えるよ」炎雷は笑う。「この炎雷を倒したらね」

「おい! 何でそうなる?」

『すまぬ。我は動けぬゆえ止められぬ』

「せっかく守り人として任されたのに、この力を振るわずに終わるなんてつまらないよね。それに朧一刀、君は持っているのだろう、刀をさ」

「またかよ。何でそうなる?」

 一刀は嫌な顔をする。あからさまにやりたくない様子だった。

「霧双霞だよね。萍との違いを見せておくれよ」

 炎雷の眼は今や獲物を狙う狩人のようだった。

「ねえ、山さん。この場所ってそのために作られたの?」

『否。断じて違う。ここは本来儀式の場である』

「七百年も待ったのだから、もうどうでもいいよ。全力で手合わせさせてよね」

「地と同じことを言ってんじゃねぇか!」

「へえ、あいつがね。だったら遊ぼうよ。炎雷は地より強いよ。生き残れるといいね、三人ともさ」

「お前ら全員、そろいもそろってバトルジャンキーかよ」

「「じゃあ、始めようか」」

 二つの声がかぶって聞こえてくる。

 炎雷の姿がぼやけたと思うと、二つに分かれた。少年と少女の姿になり刀を構える。

「双子ってお前のことなのかよ!」

「この炎と」「この雷が」

「「参る!」」



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