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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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40.週末のヒーロー

 なんでこうなった?

 一刀は頭を抱えたくなる。

 目の前にはFBトリガーの改造人間らしき中年男とその指揮官。さらに戦闘員のようなからくり人形が十数体、一刀や恵、彩、大場を取り囲んでいた。

 岩鋼山の登山道に到着した四人を敵が待ち構えていたのだった。


「我らはFBトリガー」

「またお前らかよ。こんな所で一体、何やってんだよ?」

「決まっておろう」指揮官らしき男は一刀に向かって人差し指を突き付ける。「我らFBトリガーは天地の秘宝を貰い受ける。そして貴様の刀を奪うのだ」

「勝手に決めんな。それにしつこいぞ、これはオレのだ! 前回といい今回といい何でお前らがこんな所にいるんだよ!」

「我らは天地仁左を追っているだけだ。貴様らこそ、邪魔するな手を引け」

「ご苦労様です」

 恵は頭を下げていた。

「なんでこいつらに挨拶する!」

「試合前の礼節は大切だよ。それにわざわざここで待っていてくれたんだよ。私たちがいつ来るかなんて分からないし、移動途中とか人ごみで狙われないだけよかったと思うの」

「待っていたわけじゃねぇだろう……」

「恵さんはお優しいですね。迷惑がかかるのは私たちだけですからね」

 彩は苦笑する。

「伝承を調べていたら、お互いここでぶち当たってしまったということなんだろうと思いたいが、もしも、一刀がつけられていたとしたら、ぼくらも巻き込まれた方なのかもな」

 霧双霞の伝承者を大場は見る。

「オレのせいかよ!」

「頑張って、一刀クン」

「何を頑張れってんだよ。オレに丸投げするな! お前らも何事も無くすんなりと行かせてくれよ!」

「難しそうですね」彩は真剣な顔付きで言う。「一刀さんはこの手の厄介ごとを引き込むのでしょうか」

「やっぱり、ぼくらは巻き込まれたんでしょうかね。一刀に」

 大場は彩に訊ねる。それでもしっかりとファイティングポーズはとっていた。

「私には何とも」

 彩は自然体で彼らを見ている。

「向こうから勝手にやって来るんだろうが! 巻き込まれているのはオレの方だぞ!」

 そう言いながらも一刀は肩にかけたカバンから刀を取り出す。

「ファイト」

 恵も棍棒を取り出すとかまえた。

「ゆるくしてね」指揮官は中年男に命ずる。「行け、オンツァ!」

 その掛け声に腰が砕けそうになる一刀だった。

「お前らまともなネーミングセンスや掛け声がねぇのかよ」

 それまで微動だにせず立っていた中年男がゆっくりとした動作で動き出す。

 顔色は良くない。見た目は四十代くらいで、小柄な狐顔の男だった。

 生気のない目に半開きの口が不気味だった。対してからくり人形は素早い動きで迫って来る。

 からくり人形は一メートル半ほどの身長で木製のマネキン人形に近い。抜け穴で見たからくり人形とは造りが違っているようだ。

 恵は彩の前に立ち棍棒でからくり人形を薙ぎ払い粉砕する。

 一刀も霧双霞で応戦した。

 巻き藁でも斬るようにからくり人形が真っ二つになる。

「こいつ切れ味よくなってないか?」

 一刀自身が驚いていた。

 大場がファイティングポーズを取りながらオンツァに突っ込んでいく。

 半開きの口から泥の中から泡が沸き立ってくるような音が聞こえてくる。

 ゲポッ。耳障りで不快感を抱かされる音だ。

 ゴポッ。鼻につく異臭が漂ってくる。

 無表情な中年男はコンドーとは違う雰囲気を纏っていた。

「こいつは、ぼくがやる」

 大場は素早くオンツァの懐に入り込むと、強力なボディブローを叩き込んだ。

 オンツァは身体を九の字に曲げるが、倒れ込まなかったし、吹き飛ばされもしなかった。その口から洩れたものはオンツァの周囲を茶色く染める。

 大場はその臭気に一瞬目の前が真っ暗になる。

 咳き込みながらその場から距離を取る。

 ゲポッ。

 腹を殴りつけられたことで腹の中が活性化されたのか、さらに臭気が濃くなる。

 指揮官はいつの間にかガスマスクを装着している。

「有毒ガスだ。近づくな」

 大場は咽ながら言う。ようやく普通に呼吸ができるようになってくる。

 ゴポッ。

 その口から何かがあふれ出す。足元の土が変色し、石が溶けだしていた。

「ふふふ、オンッアは体内でヘドロを精製し吐き出すのだ。貴様らもヘドロで溶かされてしまえ」

「ご免だね」

 動きがゆっくりな分、距離はとりやすかった。

 一刀と恵は先にからくり人形を片付けていく。雷撃は使うことなく人形を粉砕し、霧双霞が真っ二つにするのだった。

 動く度にオンツァの口から放たれる異臭が濃くなっていく。

 近づくことがはばかられる。

 吐き出される飛沫で周囲が毒され、変色、溶けていった。

「お前をやればこいつは動かなくなるんじゃないか? コンドーのように」

 一刀は指揮官に近づこうとする。

 それを見た指揮官は、オンツァへと近づいていき、その背後にまわると中年男を盾替わりにするのだった。

「私が、息を止めて突っ込めば」

「ダメだ。あいつの分泌物に触れたら、その棍棒でも解けてしまうかもしれない」

「だったらとうするよ、大場さん?」

「恵ちゃん、棍棒をぼくに貸して」

「危険だって言ったじゃないですか」恵は渡そうとしなかった。

 その時、彩が進み出る。

「彩さん何を?」

「大丈夫ですよ。それにあの人は自己崩壊しかけているのかもしれません」

 ゲポッ、ゴポッと音のする間隔が短くなってきている。

 顔が歪み自ら発する異臭に顔の色も変色していた。

「だったら、ほっとけばいいだけだろうが」

「人気のある所まで出られると厄介ですし、誰もいないだけここの方がまだ安全です。皆さんはもっと離れていてください」

「武器も持たないで何をやる気だよ?」

「素手でやるなんて無茶だよ」彩を止めようする恵。「大場さんみたいになっちゃう」

「大丈夫ですよ。見ていて下さい」

 彩は一刀と恵に微笑む。

 ジャケットの内側に右手を入れると三本の棒手裏剣を取り出し、下から振り上げるように素早く投じる。

 三本とも十メートルは離れているオンツァの胸から腹にかけて突き刺さった。

 灰色の体液がそこからあふれ出し棒手裏剣を溶かしていく。

 前進速度は変わらない。

「ならば」

 クナイを取り出し投げつけると、狙い違わずオンツァの喉元にそれは突き刺さる。

「ゆるくしてね」指揮官は平然としていた。「オンツァを止められはしない」

 彩は笑みを漏らすと後退し恵たちのもとに駆けていく。

 その背後で小さな爆発が起きる。

 オンツァの首が吹き飛び、体内で生成されていたヘドロが一メートルほどの範囲で飛び散った。体内からあふれ出した体液によってオンツァの身体も溶けていく。

 それを浴びた指揮官の身体も同様溶けていったのである。

 どうやら指揮官も改造人間のようだ。彼の血もまた赤くはなかった。もしかすると彼もまたヘドロを内蔵していたのかもしれない。

「えげつねぇな」一刀は呆れる。

「みんな、無事か?」

「大場さんこそ大丈夫ですか?」

「いまのところなんともない」顔色にも変化がないようで恵は安心する。

「彩さん、忍者ですか?」

「そんなことはありませんよ」恵に訊かれ微笑む彩だった。「昔、練習しましたから」

「凄いですね」

「三行神社を狙う賊や不埒者も多くいましたので」

 躊躇すれば自分の身が危うくなる。龍の力だけではなく自分自身を護るため、彼女はその小さな手で一人戦ってきたのである。

「FBトリガーか。今回もとんでもない改造人間だったな」と大場。

「あの風貌とネーミングセンスや掛け声もそうだけど、とにかくヤバすぎる」

 一刀は呆れながら、溶けてしまった後を見つめるのだった。

「君たちは先に行っていてくれ」

「大場さんは?」どこか悪いのかと恵は心配する。

「JESに連絡して、規制線を張る」

 怪人やからくり人形の残骸を監視するために残ることにした。

「平田さんならすぐに来てくれるだろう。到着したらぼくも後からすぐに追いかける」

「分かった」

 一刀と恵、彩は登山ザックを背負うと登山道を歩きだすのだった。

「無茶はするなよ」

「それは、この先にいる奴に言ってくれ」

 一刀はため息をつくのだった。


 最初はなだらかだった登山道も途中から起伏が激しくなっていく。

 岩肌が剥き出しになっている険しい坂を設置されている鎖を頼りに登っていくのだった。

 一時間ほど登っていくと分かれ道に出る。

 三人は屏風ヶ岩と書かれた札の指し示す方へと進んで行く。

「彩さん大丈夫ですか?」

 恵は水筒の水を口に含みながら彩に訊く。

 あれだけの斜面を登ってきても彼女はほとんど息が乱れていない。

「恵さんはお元気ですね」

「こいつ昔から体力だけはあり余っていたからな」

 瞬発力も持久力も大人顔負けだった。

「一刀クンにはかなわないよ。いまは運動部でもないし」

「嘘つけ。大祭でのあの走りは異常だぞ」

「圧倒的な脚力でしたものね」

「頑張りました。負けたくなかったので。お父さんと一緒の一番司になるんだって思っていましたから」恵はガッツボーズをとり笑みを漏らす。「それにしても大場さん遅いね」

「時間がかかっているんだろう」

 JESのヘリが到着するのは見えていた。

「この先にFBトリガーはいないといいね」

「六柱なんてのもいらねぇぞ」

「いろんな人に好かれていますね、一刀さんは」

「あんな連中に好かれても、嬉しくねぇよ」

 一刀は不満を漏らしつつも、歩みを進めていくのだった。


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