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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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36.剣山虎月

 山間の森の中にぽっかりと開けた里はどこまでも静かでのどかだった。

 海から渡ってくる風に木々がざわめく。

 集落のはずれにあった社から出て、三人は再び霊山に案内され、古い屋敷へとやって来た。

 築二、三百年は経っていそうな古い屋敷しかない。里全体が時間に取り残されているような気さえしてくる。

 それぞれの屋敷が工房も兼ねていたのだろうか、どの家も大きかった。

 老人は剣山虎月を見せることを渋ったが、それでも彩からの頼みは断れなかったようだ。

「寂れすぎていて、それが逆に何か起きそうな感じがしてくる里だよな」

 一刀の感想だった。

 たまに老人の姿を見るだけで、自然が発する音以外聞こえてこない。のどかを通り越して寂れすぎていた。

「古い探偵映画とかサスペンスドラマに出てきそうな風景に見えてくるよね」

「そんな事件には巻き込まれたくないな」

「それならもう巻き込まれているような気がするな」恵は笑う。「私たちって天地仁左のことを調べに来たルポライターか探偵みたいな立ち位置だよね」

「謎が謎を呼んでいるのは確かだが……」

 彩の胡散臭さが、それに拍車をかけているような気がしてくる一刀だった。

 老人は寂れた家の戸口に立つと、中に声を掛けることなく、扉を開く。

 不用心にも鍵はかかっていなかった。

「人の家だよね」

「誰も住んでいないのか?」

 埃っぽい臭いがする。

「ここは当屋の家ですよね?」

 彩は霊山に訊ねる。

「そうでございます。ここに剣山虎月はございます」

「当屋って、途絶えたっていう家? 彩さんはどこにあるか知らなかったんですか?」

「私だってすべてを知っているわけではありませんよ。この里に剣山虎月があるという事だけ聞き及んでいたにすぎません」

「天地が秘密にしていたのか?」

「三振りの名刀は秘宝ではありませんよ」

「剣山虎月は里の守り刀にございます」

「それにしちゃ、誰もいないところで保管しているなんて不用心すぎやしないか」

「この場で守り、動かすなということですので」

「天地仁左がそう言ったのか?」

「ご先祖様の命です。天地様が唯一里に残してくれたもの。里の宝です」

「天地様の作りしもので里に残されたのはあの社と剣山虎月だけです。それ故に里の者はそう解釈していたのではないでしょうか」

「天地仁左はここで何をやろうとしていたんだ?」

 それが一番の疑問だった。

「何も残されていません」

 彩は首を横に振る。

「記録とか何もないのかよ?」

「里の者たちに災いが降りかからぬようにしたのではないでしょうか?」

「天地仁左の名が知れ渡っていたとしたら、そんなこと時の権力者が信じるわけがないだろう」

「天地様が存命中は迷い里ともされていて、人が立ち入ることが難しかったそうです」

「今はそうじゃないんだろう?」

「天地様亡きあとは往来が可能になりました。里への道も出来ております。私は天地様が里を継続させようとは思っていなかったと考えています」

「わしらはご先祖様の代から里を守ってきたのですぞ」

 老人は気色ばむ。

「あくまでも私見ですよ。霊山殿」

「秘宝でも何でもないんなら、後生大事に抱え込むようなものでもないだろう」一刀は呟く。「ご先祖様だか何だか知らないが、そんなの糞くらえだ」

 老人には聞こえていないようだったが、恵はハラハラしてしまう。

「家を相続する人は誰もいなかったんですか?」

「里を出ていった当屋もいます。もっともつながりを絶ってしまった者どもです。里のことなど知る由もないでしょうな」

「そんなものなのかねぇ」

「当屋は里のまとめ役でございました。ですが、その役を放棄して出ていった輩です」

「面倒くせえなぁ」一刀は言う。「継ぎたくないなら、それでいいだろうが」

「名を捨てたものに、里の遺産も不要でありましょうな」

 老人は辛らつだった。

「それで、その刀はどこにあるんだ。床の間にでも飾ってあるのか?」

 一刀は霧双霞がさっきから反応していないのが気になった。

 トーヤの持っていた刀とは顔を合わせる前から共鳴し合っていたはずだったからである。

 それとも、よっぽど厳重なところに仕舞い込まれているのか?

「こちらでございます」

 霊山は明かりを灯しながら屋敷の中を進んで行く。

 奥の広い部屋の襖を開け中に入ると、勝手知ったる場所なのだろう。柱のところへ行き、何かに触れると出てきたひもを引く。

 壁が石臼を引くような音をたてて開いていった。

 その奥は真っ暗だった。

 老人はそのまま中へと進んで行く。

 彩もそれに従った。恵も一刀もついていくしかなかった。

 目が慣れてくると、少し周囲が見えてくる。それでも二人は手持ちのライトを点けた。

「ここは?」

「秘密の工房にございます。天地様が使われていたとされています」

「本当かよ」

「根府屋の地下とは全然違う感じがするね」

「雰囲気だけはあるがな」

「何も出てこないよね」

 周囲をライトで照らしながら恵は言う

「たぶんな」

「ここにございます」

 霊山は行き止まりまで来ると、さらに隠し扉を開くのだった。

 恵は何が出てきても大丈夫なように三節棍を取り出して、一歩、彩の前に出る。

 一刀もだが、何事も無く済むわけがないと感じていたのだ。

「あれが剣山虎月にございます」

 ライトの照らし出される光の先に一振りの刀が、むきだしのまま飾り台の上に置かれていた。

 柄もない。

 刀身に光が当たり鈍く輝いている。

「どうですか?」

 彩が一刀に訊ねてくる。

「何がだよ?」

「真偽を確かめるには、一刀さんの霧双霞に訊くしかありませんから」

「そういう事か」

 一刀は肩に掛けていたケースから霧双霞を取り出すと、鞘から抜いた。

「彩様、あの者は何をするつもりですか?」

「確かめるのですよ。本物か」

「は?」

 彩は一刀を見守り、彼の動きを追う。

 一刀は上段に構えると刀を振り下ろすが、鋼同士がぶつかり合う音すらしなかった。

「偽もんだな」

 霧双霞を鞘に納め振り返った一刀は言う。

 飾り台の刀は真っ二つになって床に落ちている。老人は腰を抜かすのだった。


「何で斬っちゃったの?」

 恵は一刀に訊ねる。

 太陽は天空から少し西に傾き始めている。

「腹が立った」

「あれが偽物だったから?」

 一刀は無言だった。

「お爺ちゃん落ち込んでいたよね」

「放っとけ」

「指摘するだけじゃダメだったのかな」

「信じなかったでしょうね」彩が代わりに答えてくる。「それにそのような物を後生大事に守っていても仕方がないと、一刀さんは思っていらしたのでしょう」

「本物だったら回収されていたから?」

「伝統や格式、家柄とかそのような因習はお嫌いのようですものね」

 彩は目を細め、一刀を見ていた。

「悪かったな。そんなの面倒なだけなんだよ」一刀はぶっきらぼうに答える。「あれが正真正銘の虎月だとしても、守る意味なんてない」

「たぶん天地様もそのようなことは言っていなかったと思いますよ。必要ならきっと守り人がここにもいたでしょうから」

「そうだよね」

「里なんて守らず、出て行った奴らのように、自由にやればよかったんだ。過去の言葉に縛られる意味なんてねぇ。しかもそれが代々続くなんてよ。おかしいだろうが」

「そうですね。私も移住を勧めたことがありました」

「でも里は続いてきた」

「天地様の言葉は、天地様亡きあと自分たちの手で生きろ、神社を頼れば元の生活に戻れるという意味ではなかったかと考えるのです」

「じゃあ、なんで刀を残していったのかな?」

「里の者たちへの感謝であり、それを元手にすれば、当面の生活費くらいにはなると考えたのではないかと」

「勘違い。言葉の行き違い?」

「天地様の隠居先にまで押しかけていったお弟子様達ですが、あのお方は拒絶することなく迎え入れたのです。信頼していたのでしょう。彼らのご先祖はもしかすると天地様が戻ってくると信じていたのかもしれませんね」

「居なくなった奴を待っていたって仕方がないだろうが」

「そうですね。あの時、彼らを諭す方がいればよかったのかもしれません」

 彩は彼方を見ているようだった。

「彩さんは? それとも殿様とか」

「私は当時若輩者でしたし、殿様の言葉でも仕事は請け負いましたが、あの場からは梃子でも動かなかった方々です」

「ばあさんと同じで、よく続いたもんだよな」

「確かに」彩は一刀の言葉にも笑っているようだった。「里からの使者が来た時には驚いたものでした。私が初めてここを訪れたのは乱世と呼ばれた時代の前くらいです。その後も何度か訪れていますが、両手で数えられるほどでしかありません。このように短いサイクルで訪れたのは今回が初めてです」

「十年経っているのにか?」

「ええ、私は人見知りですので」彩は白々しく笑いかけてくる。

「どの口がそんなこと言うのかね」

「それに一刀さんは私の過去も断ち切ってくれたのでしょうから、感謝いたします」

 彩は一刀にだけ聞こえるよう恵からは離れて話すのだった。

「そんなつもりはねぇよ。勝手に決めんな。オレはこの里の雰囲気もあのじじいの言い方も好きじゃない。あんな刀を後生大事に守っているなんてのも嫌いだ。いつまでも偶像崇拝して人生を無駄に過ごすなってんだ。それに自分の子供たちの未来まで縛り付けるんじゃねぇよ。どこかでけじめをつけりゃあいいはずなのに、腹が立つ」

「生きているとどうしてもしがらみは増えていきますよ」

「関係ないね。そうやって自分も子供も縛り付けるなってんだ」

「そうですね。ありがとうございます。肝に銘じます」

 彩の素直な言葉に一刀は困惑する。

 そして、彼だけに聞こえるようにさらに付け加える。

「私だけではありません。一刀さんは恵さんも呪縛から解き放っていますよ」

「そんなわけねぇだろう。あいつは龍と出会って勝手に自分で立ち直っただけだ」

 そうやって両親の死とけじめをつけたのだ。

「あなたが断ち切るきっかけを作ったのです。私と同じように」

「勝手に決め目付けるな」

「恵さんの表情は、儀式の前と後では全然違いますから」

 彩は微笑む。

「やめやめ、この話は止め」

「では、少し遅くなりましたが、お昼にしましょう。良い場所があるのです」



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