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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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34.隠れ里へ

「磯の香りだぁ」

 バスを降りると海鳥の鳴き声が聞こえてくる。

 薄雲がかかっていたが、秋晴れの良い天気だった。恵は伸びをしながら嬉しそうに声を上げる。

 キュロットスカートにカジュアルなトレナーを彼女は着ていた。

 目の前には小さな漁港の防波堤がある。

 路線バスの終点、村役場のある海嶺村本地区は海のすぐそばで、後ろには半島を構成する山が迫っていた。

「何にもないのな」

 狭い土地に古い家並みが並んでいる。

 ここまでは地下鉄で若葉市まで出て、そこからJR貝岸線で浜崎駅まで行く。浜崎駅前で大潮町までの路線バスに乗ると、さらにバスを乗り継ぎ、ようやく海嶺村にたどり着くのだった。

 待ち時間も含め所要時間は三時間を超えた。

「直通もないなんて不便すぎるだろう」

 一刀の率直な感想だった。

 始発の地下鉄で南風市を出発しても、海嶺村着は十時半過ぎだった。

 一刀はクーラーを持っていれば釣りに来たように見えるいで立ちだ。肩に下げた刀を入れたケースが釣竿を入れているようだった。

「すいません。私は免許も車もありませんから」

「彩さんは悪くありません。私たちだって原付がやっとですし」

「自動二輪免許くらいほしい」

「JESにいたら、免許証くらい作ってくれそうだよね。私も乗りたいかも。移動手段があると便利だし」

 今までは自転車だったが、天体観測の時にも使えそうだ。

「だな。銃器の所持が可能なら移動手段の免許くらいなら簡単に作ってくれるはず」一刀の言葉に恵も同意する。「それにわざわざ公共交通機関使わなくたって、出雲さんや大場さんに頼めば車くらい出してくれただろうに」

「ヘリで送ってくれたかもよ。報道番組作成とかの名目で」

「申し訳ありません。今回は心苦しいのですが、JESの方々には内密にしたいのです」

「通信機は置いて来いっていうのは、そのためか」

「確証のない事案でしたし、大人数で押しかけるわけにもいかない場所でしたので」

「オレ達はいいのかよ?」

「知りたいでしょう?」

「当然だ」一刀は腕を組み胸を張る。「だが、以前のようにオレたちが監視されていたらどうするつもりだったんだよ」

「その時は仕方ありませんが」そう言いながら彩は尾行があれば、誰であろうとまこうと考えていた。「専用の通信機がなければ、位置の把握は難しいと知りましたから」

 あとはスマホのGPS機能さえ探られなければ大丈夫だろうと考えていた。

「まあ、なんかあっても連絡は取れるからいいか」

「何もあってほしくないけれどね」

「天地関連だと、そうそう簡単には行かないかもしれねぇがな」

 霧双霞を持参している一刀は腹をくくっていた。

「覚悟しています」

 恵は苦笑いする。

「改人とやらも出ましたしね」

「改造人間だろう。略すな」一刀は彩に突っ込む。「FBトリガーの動きなんてオレ達には分かるわけがない」

「それにしても、バスの中にお客さんいなかったね」

「釣り客がいなければ、紅葉シーズンでもないかぎり観光客もめったに来ないんじゃないか。眺めがいいだけの田舎だしな」

 晴れていれば若葉湾を一望することが出来、遠く大鳥島まで見ることが出来るらしい。

「お店もなさそうだね」

 あってもよさそうな釣具屋も食堂も見当たらない。

 恵が堤防に上がると若葉市の工業地帯が遠くに見える。

 子供の姿はなかった。若い三人連れが珍しいのか、時折見かける人々に観察されているようにも感じられた。車通りもほとんどなく信号機が見当たらない。自然の音しか聞こえてこなかった。

 海嶺村の人口は五千にも満たない。アクセスも不便で県内でも有数の過疎地帯だ。

 海に面していたが、養殖業の盛んな大潮町や浜崎町と比べると漁港にも恵まれず、開発からも取り残されている。唯一、昔から盛んな工芸の里として知られているのみである。

 現在、村は大潮町、天霧町との合併協議が進められているが、天霧と大潮の主導権争いが続いており、将来的には合併するのだろうが交渉は難航していた。

「お弁当は作っていますよ」

 彩は肩から下げたショルダーバックを軽くたたく。

 彼女はジーンズ姿で洋装が新鮮だった。

 お弁当という言葉に恵は目を輝かす。

「ちょうど集落に着く頃にはお昼になると思いますし」

「まだここから移動するのかよ……」

「ここからバスに乗って、それから少し歩きます」彩は平然とした口調で言う。「隠れ里のような場所ですから」

 バックのポケットから地図を取り出し彩は位置を示す。

 今いる本地区とは反対側、外洋に面した戸氷地区の手前にある場所のようだった。スマホで検索すると確かに集落がある。

「不便すぎだろう」

「限界集落?」

「そうですね。当時から秘境、たどり着くことが困難な場所とされていました。天地の隠里となどと噂されていたこともございました」

「そんな場所があったんだ」

「海嶺村が工芸の里といわれる所以であります。天地様の隠居先がそこでありました」

「あんたは何度もここに来ているのか?」

「初めて来たのは天地様がお亡くなりになられた後、しばらくしてからです。回数は多くはありません」

 彩自身、様々な要因から百年以上、ここに来ることは叶わなかったという。

「そういえば和住宮司も海嶺村の出身だって言ってましたよね」

「三行神社のルーツがここいらにあるとかって、龍玄寺のじじいも言ってたな」

「よくご存じで、完江は里の出です。和住の家は今の当屋の里のまとめ役を担っています」

「とうや? ……もしかしてあいつと関係あるのか?」

「どうなのでしょう。確かに里にも当屋家はございましたが、今は絶えてしまっています。ですが、それも確かめたいと思っています」

「あいつがいる可能性は?」

「里はランネルドとは関係しておりませんよ。ただ、一刀さんたちのお会いしたトーヤは縁者である可能性も否定できません。当屋の里には一振りの刀が伝えられているはずですから」

「ウキクサか?」

「よくその名をご存じですね」

「『地』が話していたからな」

「本来、『萍』と、このように書きます」

 ペンを手に地図の脇に書いてみせる。

「読めねぇよ。それにウキクサって刀に付けるような名じゃないだろう」

 根無し草とか軽いものに聞こえてくる。

「天地様が命名していましたので、私には理由までは分かりません。それに里にあるのは剣山虎月です」

「剣山虎月? じゃあ、ウキクサはどこにあるんだよ?」

「天地様の死後、行方知れずにございます」

「結局、謎だらけかよ」

「まあまあ、行ってみようよ一刀クン。せっかくの彩さんのお誘いなんだから」

 恵は彩と並んで歩きだす。

「お前はお気楽でいいな」

「なんか言った?」

 恵が振り返る。一刀は首を横に振るだけで何も返さない。

 バス停で並んで楽しく会話を続ける彩と恵の後ろで、彼はだるそうにバスを待つのだった。



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