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龍は私を守護してくれる ~神秘のお守りと、幼馴染との再会から始まる冒険譚  作者: 無海シロー
第二章 伝説 ~天地仁左編

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31.新たな結社|?

 彩は怖かった。

 天地仁左から天地邸への鍵を渡されていたが、彼女自身にも思い出が深く刻まれていた。

 幼くして神社へと預けられたため破羅家との関係は薄く。幼少の頃よりかわいがってもらった天音に彩はなついていた。天音が助かるのなら白き珠を差し出してもいいとさえ思ったほどである。

「天地様の秘宝。それを探し出し解き明かすことになろうとは思いもしませんでした」

「三行神社に資料とかが残されているのだとしたら、それはいつか誰かが求めることになるのではないでしょうか」

「時が来たということでしょうね」吐息を漏らす彩。

「ランネルドが出てきているのであれば、確実に」

「龍に続き秘宝。何が狙いなのでしょう?」

「ぼくに分かるわけがない。ヤツらは世界中で陰謀を巡らせ、人類を、この世界を破滅に導こうとしている。天地仁左の秘宝がどのようなものであれ実在するのであるというのであれば、ランネルドの手に渡るのだけは阻止しなければなりません。流れに抗い、断ち切るのも我々の務めです」

「頼もしいですね」彩は眩しそうに大場を見る。「私自身は抜け穴について触れてはならないもののように思えています」

「神聖な場所であればそうとも言えるでしょうが、秘宝を求める奴らにそんなことは通用しません。それに我々の手で弔うことも必要なのでは?」

「そうですね」目を背けてはいられない。求めるものがあるのなら確かめる必要がある。

 魂が老いてしまっては、再び生を授けてくれた龍に申し訳が立たない。遥かに年下の彼らに励まされてしまっていることに、彩は心の中で苦笑いするのであった。

「暴いてはならない聖なる場所かもしれませんが、それでも我々にとっては大きな手掛かりになるのです」

「天地様の願いは天音様とともにあることでした」彩は囁くように言う。「これは私の推測でしかありません。天音様がお亡くなりになられた後、天地様は天音様の復活を願ったのではないかと……思うのです」

「確かに復活を願ってミイラは棺に入れられたとされていますが」

「生命への挑戦とでも申しましょうか……」

 うつむき自分の胸に手を当てる。

 初めてではないだろうか、彩の歯切れの悪い言葉は。

「命ですか? 蘇生、不老不死、人造の人間を作るとか、そんな感じですか?」

「そう……、そのようなことでしょうね……」

「にわかには信じがたいです。しかし龍が実在していたように、天地仁左が本気でそれらのことを考えていたのであれば、絶対あり得ないとは言い切れないでしょう」大場は言う。「それが秘宝の正体でしょうか?」

「他は何も私の元には残されてはいません。私は人々が触れることがないようにあの場所を封印しただけです」

 そのために立札をたて、井戸には重い石蓋を置き鎖と錠前を掛けて封印していた。

「そこに一刀と恵ちゃんは入っていった……。入口はそこだけなんですか?」

「城側の井戸はすでに壊され、井戸のあった場所も埋め立てられてしまっています。残ったのは龍玄寺側の井戸と、抜け穴の伝説だけです」

「だとすると、ぼくたちもそこから追いかけるしかないですね」そこで大場はふと気になることを思い付き彩に訊ねる。「龍の力で地下の施設は作られたのですよね? それはもしかしなくても龍の力で維持されてきたものではないのでしょうか?」

「そうですね。私にはどのようにして龍の力を天地様が利用したのか理解しかねますが、館を維持していくためには何らかのエネルギーが必要になりますね」

「ぼくらが周知の既存のエネルギーが鎌倉の頃にある訳がないですよね。だとすると維持するためには龍の力が使われ続けてきたと考えるのが必然であるような気がします」

「その龍は宇宙へと帰還し失われてしまっています……」

「維持する力が失われた地下はどうなるでしょう?」

「分かりません。ただ単に照明や空調などの維持機能が失われただけなのか……あれから二週間以上経ちます。状況に変化はありませんが……」

「最悪崩落という可能性はあるでしょうか?」

 大場は生唾を飲み込む。

「私は失念していたのかもしれません」

「そんな予測なんて誰にもできませんよ」

 大場は番場に再び通信を送る。最悪の事態に備えてだった。

 可能な限りジムニーのスピードを上げ現場へと向かう。


 刀身が伸びている?

 一刀はからくり人形から距離を取ろうとする。

 闘う意味がない。一刀は逃げ切ろうとさえ思っていた。

 それなのに切先が何度も迫って来た。

 本当に刀身が伸びているのか、明かりのせいなのか、見切ったつもりでも距離感が合わない。

 からくり人形は時折人とは全く違う動きも見せる。

 避けようのない距離から、腕が伸びてくる。

 右の腕が真上から、もう一方が腹を薙ぐように同時に斬りつけてきた。

 横からの刀を先に強くはじくように振るう。斬撃から感じていたが、からくり人形自体は軽かった。バランスを崩し真上からの軌道が逸れ、一撃を一刀はかろうじてかわす。

 再度距離を取ろうにも間合いを作らせてはくれなかった。

 刀を振るうにしても踏み込みが甘くなる。

 人形に恐怖心はない。多少の事ではひるまなかった。

「なめるなよ」一刀にとって、これぐらいの速さなら体験済みだった。

 片方の刀身をはじきながら踏み込むと速度を上げた。

「軽いんだよ」

 相手の剣戟の隙をつき斬り込んだ。

 上段からの一撃に相手の刀身は折れた。「なまくらか」

 それでも突っ込んでくる相手に突きを入れる。

 手応えはあった。

 素早く刀を引き、袈裟懸けに斬る。

 からくり人形の右腕が飛んだ。

 そこで人形の動きが止まった。一刀は振り下ろそうとしていた切先を止めた。

「一分でございます。良き太刀筋でございました。これならば他の六柱も満足出来ることでございましょう」

「おい、六柱ってなんだよ!」

 また謎な名称が出てきた……。

「父が天音のために生み出しし子らでございます」

「ちゃんと説明しろや!」

「きっとこれからお会いできますよ。秘宝を追いかけるのであれば」まるで楽しんでいるような声だった。「わたくしはここまででございますが、ことは第二段階に移行しております」

「だから含みを持たせた言い方はやめろ!」

 一刀はムカついてきた。

「ここはあと十時間ほどで終わりを告げます。あとのことはよろしくお願いします」

「何がよろしくだ! 自己完結するんじゃねぇよ」

 一刀は怒鳴り声を上げるが、それに対する返答はなかった。

「お戻りください。あなた方の時間へ。ここは時の止まった場所にございます」

 うっすらと灯っていた明かりも消えた。からくり人形は闇に還る。

 声のみが研究室に響き渡る。

「竹林の警備は解除しております」『地』は告げる。「それと侵入者が他にもございます」

「オレたち以外にもここに来る奴がいるのか?」

「登録されていた以外の者です」

「誰なのか分かるか?」

「ひとりではございますが、それ以外分かりません。引き返すようにお伝えください」

「一刀クン、行こう」

 足元が沈み込んでいるような感覚に襲われ、恵は一刀のシャツの袖を引く。

「まったく融通がきかねぇな」舌打ちする。「分かったよ。これで勘弁してやる」

 スマホの明かりを頼りに研究施設の外、竹林に出る。

「私たちが来なければ、もう少し長く維持できたのかな」

 締まる扉を見ながら恵は一刀に言う。

「そんなこと神のみぞ知るだ。あんまりいい気分じゃないがな」

「墓を暴いたような感覚?」

「なんとなくだ。それにまた分かんねぇことが増えた」

「六柱とか? ここ柱がないもんね」

「その柱じゃないだろう。他にもあいつの仲間がいるってことだろう。面倒くせぇな。それに第二段階って、なんだよ。言いたいことだけ言いやがって」腹が立った。

「分からないことだらけだよね。彩さん、知っているといいね」

「洗いざらい吐かせる」

「お手柔らかに」

 恵は苦笑いするのだった。

 屋敷の入り口側に回ると、竹林で音がする。

 見ると竹が次々と倒れていく。

 竹林に穴が開いたように道が出来るのだった。

 その中をゆっくりと歩いてくる男の姿があった。

 頭のてっぺんが禿げ上がり少し猫背のような歩き方だった。まるで散歩しているようにマイペースでにやけた笑みを浮かべている。

 敵意は感じられなかったが、一刀にはそれがなおさら胡散臭く思えてくるのだった。

「ここは危険ですよ~」

 恵が手を振り、声を掛けるが反応はない。

 二人は立ち止まり、様子を見ていると、近くまで来て中年男は立ち止まる。ズボンのポケットに右手を入れる。

 一瞬身構えるが、中年男の取り出したのは財布だった。

 財布の中から五百円玉を取り出すと、

「ジュース買ってきて」

 ガラスのこすれ合うような耳障りな音がして、見えない何かが二人の間を通り過ぎていく。

 後ろを振り向くと、屋敷に、それまで無かった穴が開いていた。

「アメなめる?」

 再び甲高い声がする。

 手のひらには飴玉が二つある。

 中年男が口を開く前に二人は危険を感じ左右に別れた。

 屋敷の柱がきれいに切られていた。

「自販機はここにはありません! それにアメって、なんですか?」

「そんな突っ込み入れてる場合かよ。何もんだ!」

『我らFBトリガー』

 その声は中年男とは別のものだった。その証拠に中年男は口を開いていない。

「FBトリガー? また新手かよ」

 一刀は答えが返ってくるとは思わず、目を見張る。

『その刀を返せ。それは我らの物だ』

「何と勘違いしているか知らないが、これはオレのだ!」

『秘宝を置いて行け、命だけは助けてやろう』

 声だけの主は勝ち誇ったように言い放つのだった。

「そんなのがあったらオレが欲しいよ」

「ここにはそんな物はありません」

 恵は中年男にそう言いながら自分の左耳を指さし、一刀に目配せする。

 中年男をよく見ると右耳に小型の機器が付いている。

 さらに小型機器から伸びた有線が入ってきたところまで続いているのだった。

 あやつり人形か?

『改造人間コンドーの威力は見ての通りだ。大人しく従え。さもなくば』

「どうだってんだ」

『死ぬがいい』

「誰が従うかよ」

『行け、コンドー!』

「アメなめる?」「ジュース買ってきて」

 首が異様な動きで左右に振られ、意味不明な言葉を連呼していく。

 一瞬、恵の反応が遅れる。

 小さな悲鳴を彼女は上げる。

「私のブレザー!」

 棍棒は切断されていなかったが、制服の脇がきれいに裂かれている。

「かまいたち? おい大丈夫か!」

「アンダーウェア着ていたから身体は何ともないけど、制服とブラウスが……、クリーニングから戻って来たばかりなのにぃ」

「汚れるかもしれないんだから、着てくんなよ」

「そんなこと分かるわけないじゃない」恵の声は怒りに震えていた。「何てことしてくれたのよ!」

 左右にステップを踏みながら、彼女は一気に間合いを詰める。

 中年男の腹に棍棒を思いっきり突き立てる。くの字になったところに恵は躊躇なくボタンを押した。

 雷撃が走る。

「やりすぎだろう」

 一刀は派手な閃光を見てそう思ったが、それでもコンドーはまだ立っていた。

 服が焼け焦げ肌から煙が出ている。

 目はうつろになり、虚空を見上げているのだった。

「人じゃないな……」

 耳に付けていた機器が破壊されたせいだろうか、コントロールを失ったコンドーは天井に向かって口を開く。

 発音が怪しくさらに聞き取ることが不可能な言葉を口走っていくのだった。

 天井から何かが降って来る。

 どうしたものかと考えていると、一刀の脇を何かが疾風のごとく駆け抜けていく。

 実験室から飛び出してきたからくり人形が残った方の腕を刀にかえて、コンドーの胸板を突いていた。

 次の瞬間、爆発が起きる。

「おい、無事か?」

 爆煙にむせながら一刀はからくり人形に声を掛ける。

「問題ございません」

「どこがだよ」

 頭部が半分無くなっているし、身に着けていた着物もボロボロだった。

「害なす侵入者は排除いたしました。お二方は早くここより避難してください」

「……分かったよ」

 一刀は吐息を漏らす。

 恵は一礼して感謝の言葉を伝えると、一刀とともに抜け穴を引き返すのだった。


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