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アタシについて

アタシについて


第一章

 

アタシの日記


第1話


アタシはどこにいこうとしているのだろうか。天国か地獄かと問われれば、おそらく地獄の方だろう。


本格的な冬になろうとしている。

アタシのこころも冷えている。人恋しく思う。

アタシは進んでいるのか、とどまっているのか、それとも後退しているのか。少なくとも進んでいないことは確からしい。


アタシはコンビニにいる。とくにこの季節はコンビニで引きこもっている。

クリスマスが近い。店ではケーキやオードブルの予約などで忙しい。忙しいことはアタシにとっていいことで、なにも考えずにすむ。シフトも増えるので、引きこもるにはちょうどいい。

イブ当日になって、ケーキなんかのキャンセルが出て、店から貰った時の配達先は2つある。

ノボルとコウイチだ。1つなら、たぶんノボル。2つ貰えたなら、コウイチにもあげよう。ふたりともアタシのステディだ。イブにどちらに会うのかは、そのときの気分次第だ。行かなかったほうには、ホントらしく仕事だと言う。でも、ふたりとも、うすうすアタシには別の相手がいることに気づいている。



「メリークリスマスゥ♪ノボル」


「おす!連絡ないから来ないかと思ってた」


「忙しくてね。ゴメン。はい。余り物、失敬。キャンセルのケーキだよ」


「センキュー!で、プレゼントは?」


「えー!プレセントまで欲しいわけ(笑)」


「しょうがないわね。はい」


ペックキスしておいた。


「それで、アンタからのプレセントは?」


「ん・・・なにも用意してない」


「なによひとこのこと言えないじゃない(笑)」


彼はライトキスを返してきた。


「ね、クリスマスっても特別なにもやることなんかある?」


「さあ、どっか行く?」


「そうだね~海!」


「海、好きだな」


「さ、行こ。海、ひといるかなぁ」


「この寒いのに海なんて馬鹿だ♪」


着いたのは、午後6時を過ぎていた。クリスマスを迎えたのだから、冬至を過ぎているものの流石に外は暗い、その上陸風がひどく、あたりには誰もいないようだ。そんな馬鹿はノボルの言うとおりアタシたちくらいだ。


「冬の海ってこんなんなんだ」


「そうだよ。でも今日は波が穏やかだよ」


「強い風も冷たくて厳しいね。こうしているだけで修行中みたい」


「来てよかった?」


「うん」


禊でもしようか・・・・・


「アタシ、泳ぐ!」


「はぁ!?」


着ているもの、全部脱ぎ捨てた。


そろりそろりと、極寒の中波打ち際まで進むと、つま先を海水に浸けてみて、その冷たさを実感した。


「冷たーい!!」


「当たり前だ。戻ってこい。風邪ひくぞ」


「えい!」


潜った。そして泳いだ。案外海水の中は温かった。


翌日、アタシはピンピンとしていた。




第2話


コンビニは元旦も忙しい。おせちとかお菓子とか年賀状、ポチ袋も用意してある。今日はイブと違って晴れている。空が蒼いし、風も穏やかだ。

凧揚げしたいな。そういえば、ここにあるなぁ。


「店長、この凧くれません?」


「駄目にきまってる!売り物じゃあないから」


そりゃあそうだ。



「ハッピィニューイヤー!」


「お、待ってたよ。あけましておめでとう!」


「はい。売れ残り、失敬。キャンセルのおせちです」


「ありがたく」


コウイチ宅は今どき珍しくこたつを使っている。

こたつと電気ストーブだ。


「ね、みかんないの」


「あぁ、テーブルの上」


「サンキュー。テレビ、相変わらずつまんないなー」


「だって、正月なんだから仕方ない」


「だったら、初詣にでも行く?」


「人混みか・・・あんま、近寄りたくないけど。行きますか」


「どうせなら、一番人の多い神社行こう」


アタシたちは一時間かけて歩き、その神社に着いた。


「疲れたね・・・その分ご利益あるよねっ」


「どうだろ。日ごろの行いじゃない」


「自信ない!」


そして30分並んで拝殿に着いた。

くたくただ。冷え切ったので参道の鯛焼きで温まりたかった。

そういえば、屋台のひとはいわゆる極道の方だと誰かから聞いたことがある。そのときは、「そんな馬鹿な・・・」と思っていたけれども、何年か前に初詣に行ったとき、焼きとうもろこしのおじさんの右手の薬指が第何関節かはわからないけど、その先がなかったのを垣間見て、「あれは本当だったんだー!」と思った経験がある。それ以来アタシは屋台のおじさんになぜか敬意を払うことのしている。


そして、アタシの番がやって来た。となりにはコウイチがいる。

からん、からん、賽銭は五円(ご縁がありますように)。

礼、パンパン。

願い事は・・・・・とくべつ思いつかなかったので、「健康第一」にしといた。

そして、メインのおみくじだ。長い列が着いている。アタシの順番が着て、100円玉を入れてどれにすすかまじまじと選んでいたら、コウイチが「早く、早く、つっかえてる!」と言う。


「・・・・・えい!」と叫んで、とっておきの2000円札をみくじ箱にぶち込んだ。


「おい!!!」


アタシはおみくじを手のひら一杯に鷲掴みして。拝殿を後にした。

コウイチが言うにはまわりは「そんなのあり?!」という目でアタシを見ていたという。


結局、百円のおみくじを26枚引いて(掴んで)大吉が一枚の凶が5枚だった。何が書かれてあるかは見なかった。残りのくじが何だったかも覚えてない。

凶が5枚ということなので、アタシはやはり地獄行きらしい。




第3話


節分がやってきた。これはこれで店は忙しい。豆が売れる売れる、鬼のお面も売れる。きっと家族で楽しむのだろう。第一安いもんね。ほぼ等身大の鬼さんが店にいるので、これはぜひ!と思い。


「店長!この鬼くれませんか!」


「駄目!売り物じゃない」とのことだった。


「じゃあ、節分が終わったら」


「来年も使う」


今日は、鬼のお面が似合いそうなノボルのところに流れ着いた。


「おっす。元気にしとる?最近ラインが来ないけど」


「だめー。インフルエンザ・・・・・伝染るから帰えれ」


「マイ・ステディがふせっているのにほっとけますか。熱は?」


「38.6℃」やっぱり帰ろうか・・・


「食欲は?」


「ないな」


「洗濯物は?」


「たくさん・・・」


「よし。看護士さんにおまかせあれ。まずおかゆだね」


アタシが台所に立つなんてことは、年に数回だ。ラッキーノボル!おかゆの作り方ぐらい知っているつもりね。


「どう?」


「いちおう、おかゆだわ。これ」


「よし。つぎ。食後のお薬だね。お薬あんの?」


「病院でもらったのなくなった。解熱剤なら」


「それでよいでしょう、飲んで」


「洗濯か。よし。全部こっち。うわぁ~なんちゅう匂い」


全部まるめて洗濯機へポイ。


「よし。なにか欲しいものは?」


「みかん。栄養ドリンク」



みかんは適当にかごに入れたが、栄養ドリンクで迷った。どれだ・・・値段も種類もいろいろとある。どれだ?うーーーーーーーーーん、一番高いので間違いないだろう。かなり高かった。解熱剤よりも効果がありそうだよ。これ飲んで、ノボルが元気出すぎて襲われたらどうしよう♪そしたら100%アタシもインフルエンザだよ。



「ノボル、節分しよ」


「できるわけないだろ」


「そだね。おし、鬼なしでやる」


「どうやって」


「ここのベランダから思いっきり投げる!」


「やめとけ。迷惑だ」


ノボルの部屋は7階にあって、沿道沿いにある。これは、投げつけ甲斐があるに違いない。


「そ〜れ。鬼はそと。おーら!」


「福はうち。おーら!」


たぶん外界はびっくりしているに違いない。あたったひと、ごめん。


「鬼はそとっ。おーーーら」


「福はうちっ。おらおらおら!」


「おい。福はうちだろ。そとにまいてどうする」


「え、そうなの・・・」


鬼に叱られそうなまき方をして、福を外に投げつけたアタシは、また地獄に一歩近づいたかもしれない。

結局インフルエンザは伝染らなかった。




第4話


2月14日(土)バレンタインデー


巷の男女が年で一番盛り上がる日、それがバレンタインデー。わが店でも本命から義理、友チョコ、自分用とありとあらゆる種類が並んでいる。「こんだけさばけるのか?」といつもながらに思ってしまうが、心配はいらない。


アタシはノボルとコウイチにしかあげない。このふたりは本命だ。義理はなし。友チョコは友人がいないのでなし。自分用はいらない。


「店長!このチョコお金払うから、貰っていいですか」


「ダメ、売れ残ったらいいよ」


ケチ・・・


そうしたら、どこで調達しようかしら。


しょうがない。200メートル先の商売敵で買うか。


いろいろありすぎて困ったので、目をつぶって取ったのを本命ふたりにあげよう。値段は少し高い・・・プレミア度があってよい。


まずは、コウイチのところへ行った。


「コウイチ、はい、本命 バレンタインチョコだよ〜」


「あー♪ありがと。」


「ちょうどいま、チョコができたんだ。ねえさんには本命をあげる!」


「へぇ、男でもバレンタインチョコ渡すの?」


「いや、これは完全なボクの趣味さ」


「はい、ねえさん、本命チョコだよ。とくべつに「I LOVE YOU」って書いてあるんだ」


「うわぁ~すっごい。あんた起用だもんね。なにやらせてもそつなくこなすし。うらやましい」


「ボクから貰ったって、誤解するしひといるけどね(笑)でも極親しいひとにだけあげるし」


「ちなみに、どれくらの数配るの?」


「本命はねえさんだけ、義理は会社の人20、友チョコは50くらい。自分用が1だね。あわせて72かな。明日は勤務日だから配ろうかなって。友チョコはいつでもいいし」


すごい。アタシとはまるで別の世界に住んでいる。義理20に友50だってさ・・・・・そんなかで、アタシを本命でくれるなんて、なんてかわいいやつなんだ!もっとかわいがろう。



そして、ノボルのところへチョコを渡しに行った。


「はい、バレンタインです!本命だよ」


「はい、ありがと」


「どうしたの?元気ないね」


「会社で義理チョコが禁止されたんだ。でも何人かの女の子が内緒で配ってた。でもオレのところは皆素通りしていった。かなしい・・・・・」


「なんだ、そういうことか。意外と繊細だよね。ノボルくんは。よし!チョコの無念はチョコではらすのみ!!」


そして、アタシは閉店間際のスーパーに駆け込んで、ありとあらゆるチョコを買い漁り、帰ってきた。


「よし。ノボルくん。これから今買ってきたチョコを限界まで食うぞ!全部アタシからの本命チョコだと思いなさい!アタシのことを想いながら食べなさい!」


「まじ!?」




第5話


ホワイトデーのコンビニは、クッキーとかマカロンの焼菓子中心に世の中の男たちは買ってゆく。バレンタインデーほどは盛り上がらないので、アタシがほしがる展示物がないので寂しい。

それにしても考えるのは、なんでホワイトデー

と呼ばれるのかだ。たぶん、バレンタインデーのチョコの色が黒いので、白いものをお返しとして贈ろうというお菓子会社の陰謀から’、ホワイトデーと呼ぶようにしといたと、学歴のないアタシは推測している。どう?あながち間違っていないはずだ。アタシにとっては面白くないイベントだ。アタシのコンビニもいまいち活気がない.


「ハロー。コウイチ元気?」


「ハロー。姉さん」


コウイチは年下なので、アタシのことをときどき姉さんと呼ぶ。ノボルは同い年だよ。だから、基本コウイチはアタシに甘えてくる。


「はい、ホワイトデー」


「ありがとーなにこれ?」


「入浴剤50個の詰合せ」


「どストライクー☆ありがと!」


「と、いうわけでホワイトデー終わり。なぜか盛り上がんないね」


「そだね。どっか行く?」


「んーホワイトデーにふさわしいところ?バレンタインデーはロマンチックなところだろうけど、ホワイトデーはバレンタインの繰り返し?というか・・・」


思い浮かばないな。


検索!


「高級レストラン」「ホテル」金なし。

「水族館やテーマパーク」遠い

「夜景」人混み避けたい気分

「お家デート」掃除パス

「手料理」これか?


「ねえ、ホワイトデーの贈物は、コウイチの手料理がいいなー」


「お、いいね。まかせておいて。なにが食べたい?」


「そだね、ひさしぶりにコウイチのオムライスが食べたいデス」


「よし。姉さんにとびっきりのオムライスを作ってあげよう」


年数会しかキッチンに立たないアタシと違い、コウイチは基本は自炊している。センスも抜群’だ。なんでも器用にこなす。

まずチキンライスを作り、ワインも入れてる、ケチャップはなにを入れたのか、わかんない色に変身した。

よい匂いだ。

そして卵、基本白見も一緒に混ぜているけど、一つだけ白見を入れないで、黄身だけをボウルに入れた。そして一生懸命混ぜ混ぜ、これでもか!というくらいだ。それから強火で熱くしたフライパンにたっぷりのバターと卵を投入して、いつもこのタイミングでアタシに聞いてくる。


「巻くやつ?それとも花咲くやつ?」


「きょうは巻くやつがいいな」


うわー手際がいい、そして器用だ。


「さどうぞ。冷めないうちに」



そして、アタシはコウイチんちの帰り道にノボルのところへ行き、ホワイトデーのお返しをもらってお泊りした。




第6話


お花見の時期になった。この時期はビールなんかのアルコールとか、おつまみ関係、おにぎりがよく売れていく。きっとこの肌寒さにも負けないで外で桜を愛でながら飲むんだろうな。大きな花見宴会に行ったことのないアタシにとっては、夢の舞台だ。

店内に段ボールの大きな桜の花弁があったので、店長に「あの大きい桜の花もらっていいですか?」

と聞いたところ「駄目。つったくなんでもほしがるね。これは使ったら本部に返すんだ」


いくつもあるのに、なぜくれない・・


「ね、コウイチ。お花見行こうよ」


「あーゴメン、きょうは仕事です」


「ノボル、お花見いきませんか?」


「ごめん。最近めちゃくちゃ忙しい」


「はぁい」


どうするおひとりさまだ。あきらめるか。このぶんじゃあ、コウイチもノボルも当分ムリっぽいし・・・

おひとりさまのお花見をしよう。しかたなく商売敵のコンビニでビール350を6缶と柿ピーを購入して、肝心の場所について悩む。

悩んだ末、大川の堤防の上の桜並木にした。ひとりきりでビールと柿ピーで桜を愛でる。今日が満開だ。だから誘ったのに、ふたりとも忙しいなんてさ。ついてないの。いくつかの桜の木からは花弁が落ち始めている。ひらひら。

やっぱりスーパードライが一番うまい。柿ピーがすすむ、すすむ。

そういえば、むかし「桜の一番の見頃は満開に咲いているときではなくて、満開に咲き誇っているときの花弁が舞落ちるその瞬間なんだ」と教わったな。いまは理解できる。


よい気分で4本目のスーパードライを飲んでいると。


「おねえさん、ひとり?」とサラリーマン風の男に話しかけられた。


「はい。そうです」


「となりいいです?」


「どうぞ」


「なんでひとりなんですか?」


そんなこと聞くな。


「あなたは?」


「会社の宴会にいたんだけど、トイレ行ったら帰り道がわからなくなってさ、この辺の桜も綺麗だし、まあいいかって」


「ふーん。アタシは一緒に行こうとしたひとが行けなくて、それで」


「きみ、仕事は?」


「コンビニの店員」


「ぼくは、銀行員。なにかお金関係で悩んだときとか、さびしいときに連絡ください。と名刺を差し出した」


「ありがとう。さっそくだけど、いまさみしいの」


「OK!つきあうよ」


サトシとはそれからしこたま飲んで、最後には大川に入って、水の掛け合いをしてしまった。警察官がやってきて叱られたが、愉快でたまらなかった。


「ねえ、さみしいとき連絡してもいい?」


「あたりまえ!」



アタシはまた地獄へ一歩進んだらしい。




第7話


7月になった。梅雨が開けて日焼け止めがよく売れる。アイスも飲み物も。飲み物は補充がきかないくらいの勢いだ。みんな冷え切らないうちに買ってゆく。

外はさぞかし暑いのだろう。今年は猛暑だと天気予報が言っていた。でも店にこもっているアタシにはあんまり関係ない。太陽が出ている時間帯は店内にいるし、帰るのは涼しくなってからがほとんどだから。

店内にはいま、七夕飾りが置いてある。ものすごくほしくなったが、どうせ店長に「ダメ」といわれるのがいい加減わかってきたんであきらめた。かたづけるときに聞いてみよう。


「ね、なんか日焼け止め塗りたいのですが」


「日焼け止めを塗ってどこかに行きたいって?」


「いえす、あい、どー」


「ならば、海だな」


「わい。海好き」


で、このあたりで一番広い海水浴場に着いた。


「サトシ、行こ。早く行こ」


サトシは元水泳選手だっだので、そのスタイルは文句なしに格好良かった。横にいるアタシは勝ち誇った気分だ。そしてアタシは平凡な体型を青と黒のビキニでごまかしていた。


さすがにサトシの泳ぎははやい。平泳ぎのアタシにはとてもとても追いつくはずがない。


「ごめん、つい」


「いいよ。気にしないで。なんかライフセイバーを見てるようで、すごく得した気分よだよ」


アタシたちは思いっきり浜辺で遊んだ。ビーチボール、ウォーターマット、砂山、遠泳、焼きとうもろこし、かき氷。


そして夕暮れになり、アタシたちは手を繋いだまま夕陽へとゆっくり泳いでいった。


海水浴場隣りにある浴場施設で、焼け止めをしてもできた日焼けの跡を見て、ものすごく満足した。




第8話


8月7日(土)花火大会


「最後のスターマイン、すごくよかったなぁ、ね、ノボル」


恐ろしいほどの人混みの中、アタシはフランクフルトを両手に持って、呑気に余韻に浸っていた。


「フランクフルトを両手に持ったいい年した女に語られてもなぁ」


「あら、ひと口食べる?あーん」


「ほら、迷子になるぞ」


「花火って真下から見ると大きくて音もすごくて、迫力が違うのよね。びっくりした!」


「来年も見に来たいな。つぎは浴衣着て来いよ」


「うん、用意しとく。そんなにアタシの浴衣姿が見たいんだ?(笑)」



お盆過ぎまでは、花火がとにかく売れる。手持ちタイプ、打ち上げタイプ、でかい袋にこれでもか!と詰めたものまで、いろいろ。でも、あんなに売れていた花火達は、お盆がすぎるとクワガタのごとく売れ残ってゆく。

さすがのアタシも旬を失った花火には興味がなかった。

そして秋風が吹くようになる。




第9話


10月初旬。


「うん!これでよし」


きょうはコウイチと秋桜畑を見にゆくのだ。


衣装はバッチリ。モノクロの花柄ワンピースに麦わら帽子だ。コウイチも喜ぶに違いない♪


さすがの我が店には生花はない。一度ドライブで田舎のお墓近くのコンビニに入ったら、菊が売られていたことがある。なるほどと思った。


「お、どちらさま(笑)」


「どう?似合っているでしょう!」


コウイチは拍手で応えてくれた。はははは、どーだ♪


「アンタもそれらしい格好で来てくれないと、ダメ!でしょ。そんな、Tシャツに半ズボンなんてさ。せめてパンツでしょうに」


「いやいや、今日のオレはカメラマンです。オレ、カメラもくわしいんだよ。知ってた?」


「知ってたよ。部屋に綺麗なの飾ってあるよね」


見渡すと畑5,6枚分の広さに秋桜が咲き誇っている。

赤、青、黄色・・・どの花見ても綺麗だな。


「うわぁ~すっごい!」


コウイチがいっぱい、アタシを撮ってくれた。こんなに撮られたのは、はじめてだ。


「いいやつ、オレの部屋に飾ってもいいかな」


「もちろんよ」



何日か後、コウイチの部屋に行くとアタシの写真があった。アタシが秋桜に囲まれながら、右から左へと歩いているやつだ。めちゃくちゃ嬉しそうに笑顔をこちらに向けている。




第10話


食欲の秋、読書の秋エトセトラ、エトセトラ、アタシに関係するのは、食欲の秋でしょ。店には紅葉弁当がならんで、さつまいものスイーツが脇を固める。きのこの炊き込みごはんや秋野菜の炊きわせがアタシを誘ってくる。さつまいものスーツは種類で圧倒する。そして、店のそとには「秋のフェア実施中」ののぼりが立ててある。しかしこれにはそそられない。


やっぱり、紅葉の秋だろう。おしとやかに赤や黄色に色づいた木々に酔いしれるアタシに酔いしれるのだ!

誰と一緒にどこにいこうかなぁ、誰ね?ホントはね、マイステディみんなで行きたいんだけど、さすがにそれはムリだね。みんな同じに好きなんだけど・・・ここはノボルかな?と思っていると、あら、ノボルの方からラインが来たよ。


「紅葉狩りに行かないか」


「行きたーい。どこいくの?」


「すこし遠くなるけど、紅葉寺」


「そのまんまじゃない(笑)」


ノボルのクルマはSUVでどこでも逞しく走るので安心だ。

「いつも思うけど、このクルマいいねぇ」


「まあね。砂浜でも雪道でもなんでも来い」


「じゃあ、冬になって雪道にとき乗せてよ」


「ok」


駐車場で20分ばかり時間をくったけれど、それでも順調にお寺の中に入ることができた。お寺の中に入る前から色づいた紅葉が燃えている。

ところどころにある、紅葉しない木の緑がそれがまた紅葉を映えさせている。


「あーいいね。ここに立ち止まっていたいよ。紅葉が燃えてるよ!アタシも萌えてるよ!」


「人がたくさんいて、後ろが待っているからムリ。大人しく進め」


「いいな。アタシもこんな庭がほしい!」


「宝くじでも当てろ」


庭園を1周するのに50分かかったけれども、来た甲斐があったと思った。写真もスマホで、コウイチには及ばないけれど、たくさんと撮れたし満足だ。アタシの濁ったこころも洗われてすっきりとした。

駐車場に戻って茶屋でおしるこを紅葉を愛でながらながら食べた。


「来てよかった♪ありがと。ノボル」



アタシはどうしても紅葉した葉がついている枝が欲しくてたまらなくなっていた。

紅葉寺から帰り道、紅葉で両脇の紅くなっているのを眺めながら、前後にクルマの来ないことを確かめて・・・・

「待った!止めて」


「どうした?」


「あの紅葉の枝を貰ってくるから、待ってて」


「おい、おい。そんなことするな」


・・・・・ばきっ!


ようし、いい感じで折れた♪


「ノボルのも折ってくる?」


「いらん。まったく・・・」



その紅葉の紅い葉は12月初旬まで保った。そして、はかなく枝から散った。

残った枝はどうにかならないか考えてみたけれども、捨てるしかなかった。


また一歩地獄へ近づいたみたいだ。


またクリスマスがやって来る。






第二章


アタシと結婚


第1話


結婚なんて考えてもいなかった。

アタシが結婚?ありえないよ。アタシはこれからもずっと結婚しないで死んでゆくと思っていた。

こんなガサツで料理も掃除もしないアタシをもらってくれるなんてひといないよね?勝手な想いだけど、いつまでもマイステディとなかよく、楽しく生きてゆくもんだと。

でもね、そうはいかないんだよ。それは十分にわかっているつもり。ノボルだってコウイチだって、サトシだって、それぞれの人生ってものがあるんだ。

いつまでもこの三人を、アタシが縛りつける訳にはいかないもんね。わかっている、わかってるって。


「なぁ、結婚しないか」


「突然、なによ」


「オレとじゃ、嫌か。もう長いつきあいだろ」


「でも、結婚なんて考えてもないよ」


「じゃあ、しばらく考えてくれよ」


「わかった・・・でもアタシ、ノボルが知っているとおり、なにもできない女だよ。それでもいいの?」


「そのまんまのキミでいい」


「アンタ、アタシのことは半分遊びでなかったの?」


「考えが変わった。キミと結婚したい」


嬉しくて涙がでてきた。




第2話


「ねえさん、よかったらボクと結婚してくれない?」


「ねえ、コウイチ。アンタはもっといいひと見つけなさいよ。アタシなんかじゃあ、釣り合いとれないって。アンタにはアタシより他のいいひとが現れるからねっ」


「ねえさんがいい。一緒にいて楽しいのはねえさんしかいない」


「アタシ、結婚する気はないの」


「ごめんね。アタシが悪いの。ずるずる引っ張ってきた、アンタを放してあげなかったんだよ」


「ボクは、さ、最初は遊びごっこだと思っていたけど、最近はそうじゃなくなっていきた。ねえさんを独占したくなちゃった」


「それは・・・アンタ知ってたの。アタシには・・・」


「うすうすは気づいていたよ。ボクもそのひとりに過ぎないって。でもそれでよかったんだ、でも、最近はそうじゃなくなった。ボクとずっとふたりでいてほしい」


「アンタ、アタシはそんな女なのよ。それでもいいの?」


「それでいい、そのままで。だから、しばらく考えてみて」


涙がでてきた。




第3話


「結婚しない?」


「え、なんで?」


「キミとならうまくいきそうな気がするから」


「アタシは銀行マンの奥様っていう柄でないわよ。アナタなら、もっといいひとがいるわよ。いつまでもアタシなんかと遊んでいても、プラスにならないって」


「プラスにならなくてもいい。キミとならそれでいい」


「知ってるとおりにアタシはなにもできない女よ。ガサツで家事もろくにできないんだよ」


「ありのままのキミで十分」


このままでは逃がしてくれないと思った。


「しばらく考えさせて」



第4話


アタシは、ノボルもコウイチもサトシもおなじくらいに、いや比較できない。愛していると言ってもいいくらいだ。

できるならこの身体を三つにわけたいくらいに大好きなんだ。

誰も選べない。選びたくはない。


アタシはどうすればいいのだろうか。これまでの生き方のツケが回って来て、アタシを押しつぶそうとしているような気がする。



第5話


12月になり、アタシのコンビニも忙しくなってきた。ケーキ、オードブル、ワイン・・・皆、誰とクリスマスを楽しく過ごそうとしているのか。師走だから店のなかが慌ただしい。その雰囲気のなかに埋もれて、気を紛らわせている。何も考えないと言えば、嘘になる。ノボル、コウイチ、サトシ、みんな

の顔が浮かんでは、消える。「返事は?」と三人がアタシに言ってくる。

ノボルと過ごしてきた時間。コウイチと笑っていた時間、サトシと楽しくおしゃべりしてた時間。どれも愛おしい思い出だ。



第6話


帰り道、表通りはクリスマス一色だ。プレゼントがショーウィンドウに飾ってある。このまま行けば皆、アタシにプレゼントをくれるだろう。そして何も言わないで、抱きしめてくるはずだ。皆、やさしい。やさしいからステディになった。こんなアタシでも「そのままでいい」と言ってくれる


ふと思ったことがある。

アタシは贅沢なんだと、アタシは三人から求婚される価値はない女であると。


あきらめるのは、アタシのほうでないの?



第7話


12月24日(水)


アタシは、3人に同じ時間で違う待ち合わせ場所を指定した。

ラインもスマホも電源を切っておいた。

彼らはアタシの住処を知らない。



そして、あたしはイブのその日、誰の場所へも行かなかった。

アタシは、逃げた。



第8話


「今日もあっついねぇ!」


「しょうがないだろ、夏なんだし」


「かき氷が食べたいな」


「ん、そしたらいつものとこに行く?」


「うん。アタシは抹茶金時!」


アタシ達は、春にコンビニ開催の飲み会で出会った。ちなみに彼の一目惚れです♪


「ここのかき氷が好きなんだ。氷がふわふわでさ、抹茶の蜜がかき氷を溶かしてやってくるのね。それを崩さないように慎重に慎重に食べる!抹茶がこれがまたおいしいのよ。渋みがあってさ」


「そう、かき氷なんてどれも一緒じゃないか」


「そう言っているうちはかき氷を語れないね、キミは」


アタシたちは違う店で働いているし、変則勤務なんで、お互いに休みを合わせて会っている。知る人は知る関係だ。ちょっと、このまわりの同じコンビニ店員には噂になっている。

185の彼に155のアタシは目立つようで、「あそこにいたでしょ」と言われることがある。

店長には「やっと春が来たか」と言われた。

もうコンビニに引きこもることがなくなってしまって、こんなに太陽がサンサンと輝くこの季節になっても、外に出たくて出たくてしょうがない。アタシは仕事もプライベートも充実している。


「こんどさ、海に行かないか」


「海・・・か。あんましいい思い出ないしなぁ」


「なにがあッたの?」


「ん、クラゲに刺された(笑)」


「山は?ダムとか」


「いえす あい どう♪」


「じゃあ、1週間後ね。水曜日」



山は涼しい。空気も綺麗だ。アタシまで清められた気分だ。ここに来るまでのドライブも、なかなかスリルがあった(笑)セイジの運転が・・・危なっかしくて、アタシは怖がりながら笑っていた。


「ねえ、ここから叫んだらこだまするかな?」


「しないんじゃないか」


「じゃあ、やってみる!」


「やめろー!ひとが沢山いて恥ずかしいだろ」


「おーい!聞いてるか?今アタシは幸せだーーーーーーーーーーー!!セイジが好きよーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


アタシの声はこだまにならかった。その代わりに聞こえたのは、人々の笑い声とひそひそ話だった。


「はっはっは!気持ちいいぃかった。せいじも、ほら」


「しないよ!恥ずかしい。すぐ帰ろう」


「気にしない、気にしない」




第9話


アタシは幸せだった。幸せだったに違いにない。

彼はアタシのぽっかり空いたなにかを埋めてくれた、ように思っていた。錯覚していた。

アタシは彼が埋めてくれたものを掘り返していた。すごいスピードで冷たい汗をかきながら・・・・・


「どうした?」


「ううん、なんでもない」


「最近、なんか元気ないね。笑うけど笑ってない」


「そんなことないよ。ねぇ、セイジはアタシのどんなとこが好き?アタシは家事も掃除もしないダメな女よ」


「よく笑うこと?家事なんかはこれからできるように、努力すればいい。そうすれば、ボクの理想の妻になれるよ」


アタシの前に置かれているかき氷が崩れ去った。


「アタシ・・・・・セイジのよい奥さんになれないよ。アタシの中には努力の文字はないの。アタシはガサツな女です」


「そんなの、これからいくらでも変われるさ」


「ありのままのアタシを受け入れてくれないの?」


彼の目つきが変わった。


「なに言ってる。結婚したらお互いに譲り合うものだろう。一方的に自分だけ変われないとかありえないよ」


「そうね」



今年は台風がたくさん日本にやってきた。「大東京でなにもない、空っぽの女」のところにも遠慮なくやってきては、雨風をもたらした。店も大損害だった。水は店内に侵入してくるし、強風でのぼりは折れるわ、商品は配達されないわ、当然客は来ないわ。もう最悪。復旧までたくさんの時間がかかった。

アタシのなかの空っぽのところも台風で汚れてしまった。

台風の時期が終了しても、木々が紅い葉をひらひら落とそうとも、アタシの気持ちは夏のままだ。やっぱりアタシには結婚という文字は、どんなペンを使っても書けないのだ。「大東京でなにもない、空っぽの女」のこころを埋めてくれる、綺麗な水をだれか注いでほしい。そしたら、アタシは涙を流すはずだ。




第10話


今年もまたクリスマスが近づいてきた。大通りのスクランブル交差点を人混みに紛れて歩いてる。

ショーウィンドウを眺め、つらつらと進む。今年はプレゼントは買わなくてもよいし、もらうこともない。

またアタシのコンビニはひきこもりの場所になった。毎日毎日、もくもくと仕事をしている。ずっとエアコンが効いていると、季節がわからなくなるときがある。店に並ぶ商品を見て、あぁそうなんだと思い出す。


この先でショーウィンドウが終わる。賑やかなエリアが終わる。終わったのだ。あの日アタシは終わらせたのだ。逃げた。逃げるしかなかった。アタシたちのために終わらせてよかったのだ。そう思う。



後ろで誰かがアタシの名前を呼んでいる。その声がだんだんと大きくなってゆく。



「響子!」


「響子、逃げないで!もう逃げないでくれ」


アタシの瞳から涙がせきを切って流れてゆく。 


「ノボル・・・」











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