第24湯 俺は湯上り牛乳を堪能する
そして再び、猫とともにミーナがぷかぷかと漂っていく。
「いいお湯なんですけど、長湯するとミーナちゃんには良くないかもですねぇ」
ふと美月が湯船の縁にもたれながら呟く。
「ミーナちゃぁん、少しお湯から出て涼んだら上がりましょうか?」
「えぇぇ~、ミーナ達もっとはいってるぅぅ」
「達」……たぶん猫たちのことだろう。微笑ましい、と美月は思う。
しかし、猫たちはすでに湯船から出て岩場の上で「へそ天」状態。
「ミーナちゃん、湯上がりにおいしい飲み物があると思うから、そろそろあがろぉぉ~よぉ。お姉さんのど乾いちゃったなぁぁ」
「んんん~、わかったぁぁ、じゃあミーナも上がるねぇェ。ねこさんたち~も終わりだよぉぉぉ」
「いやいや、ねこ達はとっくにダウンしてますけど(笑)」
──風呂上がり──
「おぉぉ、先に上がってたぞ!!」
ルークが脱衣所のベンチにぐったりと腰掛け、タオルで顔を拭いている。
「温泉なんて慣れてないだろうに、欲張って浸かっているから(笑)」
亮が水分補給しながら笑う。
「こっちも猫たちはへそ天でしたよ(笑)」
「てか、ねこ温泉は入れんのかよ!?」
「器用に体も洗っていましたよ」
「すげーな異世界猫!!」
「おねーちゃぁん、飲み物は?」
ミーナがきょろきょろとしながら尋ねたその時、ぬるっと女将が登場。
「今日の牛乳、お持ちいたしました」
びくっとするミーナ。猫たちはもう反応する余裕もなく床でぐったり。
「女将さん、今日は幼い子がいますんで程々で(笑)」
「あらあら、これは失礼いたしました。では、こちらがフルーツとコーヒー、そして“とまと牛乳”でございます」
「うわぁぁ、トマトと牛乳やっちゃったんですか」
「でも、あのトマトだとしたら……」
「だがしかし、あたしはフルーツ牛乳で。先輩はもち、トマトですよね♡」
「おぉぉおぅ!! だな」
亮を見つめるミーナ。
「あたしも、あたしも~とまと牛乳ぅぅにするぅ」
ごそごそと起き出すルーク。
「コーヒーだとぉ!!」
彼は転生前、カフェイン中毒と言っても過言ではないほどコーヒーを愛していた。今はそれ以上にミーナを愛しているが(笑)
「こいつ、コーヒーに反応したぞ」
「お、俺はコーヒーを所望する」
「牛乳ですけど、ね(笑)」
それぞれが牛乳を飲み始める。
「んんーん、鉄板ですね」
「あぁぁぁコーヒー!! 甘いけどかすかに……コーヒー(涙)」
ちびりと飲んだ後、ゴキュゴキュと飲み干す亮。
「とまとさん、おいしぃぃぃ」
猫たちは普通の牛乳を飲んでいる。
(猫って人が飲む牛乳って良かったったけ? まあ異世界猫だし今更だよね)
「おかわりぃぃぃ!!」
ミーナが叫び、ルークも「コーヒー~!」と続く。
「これはどうかと思ったが、トマトすげーな」
そんなやりとりの中、ふたたび女将がぬるっと登場。手には黒塗りの木箱。細やかな金模様が施され、やたらと厳重そうな“いつものやつ”。
「お土産来ましたねぇ」
「あぁぁ」
「湯玉でございます」
「ゆだまぁ??」
なんだろぉって感じでミーナが言う。
「玉手箱だろ(笑)」
と、ルークも返す。
「ご安心くださいな。これは“湯の実”と申しまして、旅の記憶を少しだけ持ち帰るためのもの。お風呂に入れると、ほんのひととき、この地の香りと癒しが広がるのです」
「久しぶりに説明聞きましたね」
「それな(笑)」
木箱を受け取る亮。それを見て欲しそうに見つめるミーナ。
ルークは心の中で「偉いぞミーナ。我慢が出来るんだな、うん天使だ」と呟いた。
そんなミーナに女将がそっと近づき——
「可愛いお嬢さんにはこちらを……」
猫たちが箱に入れられたトマト牛乳とコーヒー牛乳を担いで持ってくる。
目をキラキラさせるミーナ。
うれしいのだが、ちょっと残念なルーク。
「それではまたのお越しをお待ちしております」
女将の声とともに、温泉の外まで送られていくと、再び靄がうっすらと森に漂っていた。




