第23湯 俺は温泉にとけてゆく
──男湯──
湯けむりがやわらかく立ちのぼる中、亮とルークは静かに温泉に身を沈めていた。
「……っはぁ~~……やっと、やっと見つけたぁぁ……」
湯面から顔だけ出して、亮が心の底からの脱力の声を漏らす。
「うっわぁぁ、すごいよこれ……! ……あっつい……のに、気持ちいい……!!」
ルークは目をうるうるさせながら、ほとんどとろけたように岩にもたれていた。
「お前、転生してから風呂すら入ってなかったんじゃねぇか?」
「川の水浴びはあったけど……こんな自然の奇跡、久々すぎてもう……っ!」
ルークは湯を両手ですくい上げて、頬にぱしゃぱしゃとかけながら、心底嬉しそうだった。
亮は「この泉質はな……」と語りかけようとしたが、ふと横を見ると、すでにルークは完全に温泉に身も心も溶け込み中。
(……まあ、いっか)
亮も静かに湯に体を沈めて、二人して至福のときに包まれていった。
──女湯──
「わぁぁぁぁぁ! おふろーーー!! おっきいーー!!」
ミーナが湯気の中をぱたぱたと駆け回る。湯船をのぞきこんでは「うわぁ~」と感嘆し、壁に描かれた異国の絵に目を丸くしていた。
その様子に、美月はもう、にやにやが止まらない。
「やばい……今日のミーナちゃん、天使度マシマシ……!!」
さらに彼女の足元では、なぜか猫たちが二匹ずつ背中を洗いあっている。
「……自立してる!? ていうか背中洗いあってる!? え、なにそれ!?(笑)」
ぽかんと見つめる美月。
「ミーナちゃん、私たちも洗いっこしよっか♪」
「うんっ♪ ミーナ、おねえちゃんの背中、がんばるよぉぉ」
二人は湯桶とタオルを持って、座り込む。そしてぴしゃぴしゃと水をかけながら、くすぐったそうに笑い合った。
そして気づけば、猫たちも混ざって背中に乗っていたり、泡まみれになっていたり……。
「カオスだ……猫混入型洗いあい空間……」
美月が半笑いでタオルを持ち直す。
ようやく洗い終えて湯船へ。
「ふわぁぁ~~……」
ミーナがゆっくりと肩まで浸かり、湯けむりの中でとろけるように息を漏らした。
その隣で、猫たちも「にゃぁ……」と声をあげながら、器用にタオルを額に乗せて浮いている。
「猫の額ほどのスペースなのに……器用な奴らですね(笑)」
美月が笑いながら、滑りやすい岩に注意を促す。
「ミーナちゃん、足元気をつけてね。滑ると危ないよ」
「うん……あっ、あーーっ!」
その言葉と同時に、猫の一匹がぬめってツルンッと滑り、派手に湯船にぽちゃん!
「にゃわぁぁあ!!」
「わははは! ぬこが飛んだぁ~!」
ミーナがケラケラと楽しそうに笑い出す。その笑顔は、湯けむりに溶けてなお輝いていた。
「ミーナも浮かぶのぉぉ……」
ぷくっと体を丸めて、猫と並んでぷかぷか浮かぶミーナ。
その様子に美月は微笑み、目を細めた。
「……はしゃぐのもいいけど、ゆっくりつかるんだすよぉぉ~……」
「はぁーい♪」
そして再び、猫とともにミーナがぷかぷかと漂っていく。
──異世界温泉、まさに極楽。
誰もがそう思った瞬間だった。




