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「温泉地で異世界転移-ジムニーに謎の力が宿っていた」  作者: やまちゃぁん


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22/25

第22湯 俺はやっとたどり着く

「……見つけた、か?」


 誰かがそう呟いたような気がしたが、それすらも霧に溶けて、森の奥へと消えていった。


 靄が少しずつ晴れていく。それに伴って、鼻をくすぐるような硫黄の香りが漂い始めた。風がそよぐたび、森の空気がわずかに温かみを帯び、しっとりとした湿気が肌に触れる。


 やがて、霧が完全に晴れると、そこにはどこか懐かしさを感じさせる木造の建物が姿を現した。丸太を組んだような構造に、手彫りの看板──そして、湯けむりがゆらゆらと立ちのぼっていた。


「やっとですよ!!」


 美月が歓声をあげ、両手を天に広げる。キラキラと朝の光を反射した霧の粒が、彼女のまわりで舞い上がる。


「ああ、今回は少し変わっていたが、やっと来れたな温泉」


 亮も深く息を吐き、胸のつかえが下りたように目を細めた。


「すげー、ほんとにあったよ。温泉は本当にあったんだ。……ミーナは嘘つきじゃなかった」


 ルークが思わず感極まったように言い、ミーナの頭をぽんぽんと撫でる。


「なにこの子、パズーみたいなセリフ言ってるんでしょうね!?」


 美月が吹き出しながら突っ込み、亮も思わず肩をすくめた。


「お前が言うのか(笑)」


「ねえねえ、おにぃい……ここなぁに?」


 ミーナが少しおびえたように、ルークの袖をきゅっと掴む。猫たちも彼女の足元にぴったりと寄り添い、イカ耳で周囲を見回している。


「ああ、この奥に……亮たちが探していた温泉があるんだよ。たぶん……」


 ルークは優しく語りかけながらも、慎重に目を細める。


「あれ、あのばあさんどこ行ったんだ?」


 亮が辺りを見回す。だが、あの神秘的な老婆の姿は、どこにも見当たらなかった。


 ──そのとき。


 再び湯けむりがふわぁっと立ちこめ、その向こうから、音もなくぬるりと現れた人影。


「お待ちしておりました。『ユメツヅリの湯』の温泉の女将でございます」


 艶やかな黒髪を高く結い上げ、異国風の和装に身を包んだ女将が、にっこりと微笑んだ。


「出たよ、出た出た(笑)」


 亮が軽く肩をすくめる。


「ぬるっときましたねぇ、今回も」


 美月も茶化しながら、女将に頭を下げる。


「うわぁぁぁ……」


 ルークが目を丸くし、思わず後ずさった。


「ひゃっ!!」


 ミーナは固まってしまい、その場でぴたりと動かなくなる。猫たちは一斉に背中の毛を逆立て、尻尾がぼんっ!と膨らんでいた。


「驚かせてしまったようで、申し訳ありません」


 女将は静かにお辞儀をした。その所作は、まるで風の流れのように滑らかだった。


「本日は……あら、可愛いお子様がおりますようで?」


 ミーナに目をとめ、やさしく微笑む。


「ああ、今回はこの二人に色々お世話になったんだ」


 亮が女将に説明する。


「でしたら、ご一緒にどうですか? どうぞこちらへ」


 女将は音もなくすうぅぅっと歩き始めた。その足元には草も音を立てず、ただ温かな湯けむりが流れていくばかりだった。


「さあ──」


 その先に広がる異世界の温泉体験が、静かに幕を開けようとしていた。




------




 女将に案内されて、四人は建物の奥へと足を踏み入れた。


 扉をくぐった瞬間、ふわりと漂う木の香りと、柔らかな湯けむりが肌を包み込む。中は広々としていて、床は磨き上げられた木材。壁には湯宿らしい趣のある絵が飾られ、天井からは淡い灯りが吊るされていた。


「すごぉぉぉぉい!!」


 ミーナが目を輝かせながら、あっちこっちをきょろきょろと見渡す。


 ルークも、懐かしそうに辺りを見回していた。


「なんか懐かしいなぁ……温泉なんてそんなに行ったことなかったけど。こんなに立派な建物があるんだなぁ……。ブラックな会社で連勤競ってたくらいだからなぁ……。あのころ、こんなところ行ってみたかったなぁ……」


 ぽつりと漏れる独り言。彼の表情には、過去の疲れと、今の静かな癒しが入り混じっていた。


「ミーナちゃんはお姉さんと一緒に入りましょう!!」


 美月がパッと顔を輝かせて提案する。


「んーとねー……ミーナ、おにぃちゃんとはいるぅぅ」


 ぷいっと顔を背けるミーナに、ルークが少し戸惑いながらも微笑んだ。


「うんうん、ありがと……だがしかし!! お姉さんと一緒に行くんだ。兄ちゃんと一緒だと、けだものがいるからね」


「ぷっーーー、けだものらしいですよ、先輩」


 美月が吹き出し、亮も苦笑する。


「いやなんというか……ミーナちゃん、お兄さんと一緒が良いとは思うが、今日はお姉さんと一緒に行ってくれるかな?」


「うーーーん、わかったぁぁぁ、そうする……」


 少し残念そうにしながらも、ミーナは頷いた。


「さあ、ミーナちゃん、行きましょ!」


 美月が手を引くと、ミーナはちょこんとそれに従って歩き出す。


「じゃあ、俺たちも行こうか」


「あぁ、ルーク」


 亮が肩を並べるように声をかける。


 そして二人は、それぞれの温泉へと向かって歩き出した。


 しかし、すげーな……



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