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第11湯 俺達は昭和好きだった。

──ごうんごうんごうん!!!


「うわああああっ!? なんだこの道!? 崖か!? いや、道じゃねぇだろこれ!?」


ジムニーの足元で、地面がガタガタと唸りをあげている。

タイヤは跳ね、ボディは揺れ、運転席の俺──風間亮は、ステアリングを握る手に全神経を集中していた。


「先輩! もっとスピード出してください! 追いつかれちゃいますよっ!」


「無理言うな美月! これ以上出したらタイヤもげる!!」


ルームミラーに映るのは、得体のしれない“何か”たち。

尻尾が蛇みたいにうねってたり、カバのくせに跳躍力がカンガルーだったり、明らかに動物園で飼育されてない系の連中が、ものすごい勢いでこっちを追いかけてきている。


「わぁ〜! あのぬめぬめしてるやつ、ちょっと可愛いかも〜!」


「ふざけてる場合か!!!!!」


ガードレールなんて当然ない。右は崖、左は森。

いや、森というよりはジャングル? いや、なんだあの木!? 目が光ってないか!?


「先輩先輩先輩〜〜〜!」


「だからなんだよ!?」


「“あれ”やってください、“あれ”!」


「だから“あれ”ってなんだよ!!???」


「神岡ターンですっ!!」


「出たなそのワード!?!?!?!?」


俺の脳裏に、子供のころに古本屋で読んだあるマンガが思い出される。

それをなぜ知ってる、美月。君は総務部だよな!?


「つか、あれはマンガの中のテクだろ、多角形コーナーリングとか! このジムニーはショートホイールベース! しかもオフロードタイヤだぞ!? 空回りするわ跳ねるわ地面えぐるわでロクなことにならんわ!!もしやったらミッションぶっ壊れるぞ!!」


「いけますって! ジムニーは裏切らない車なんですから!」


「宗教かよ!!」


ハンドルが跳ねる。サスが悲鳴を上げる。左リアが一瞬浮いた!


──ヤバい、斜めに落ちるぞこれ!


「くそっ……ガッデム!!!!!!」


咄嗟にクラッチを蹴り、ハンドルを逆へ切り返す!

車体が横滑りしながら、傾斜した道に踏みとどまった。


その瞬間──


「先輩ぃぃ!! 神岡ターンっぽかったですよ今の!!」


「っぽい、じゃねぇぇぇぇええええ!!」


背後では、ぬめぬめ獣がついに一匹、ジャンプで車に追いつきかけていた。


「わっ、窓に! 窓に張りついてきましたよ!? 目が三つあります!」


「言わなくていい情報だよ!! 気が散るわ!!」


ぐわん、と道が分岐する。右は吊り橋、左は──崖下の川。


「吊り橋行くぞ! ワイヤー細っ!?!?!?」


ジムニーが、車幅ギリギリの吊り橋に突入。


ぐらぐら揺れる足元。ミシミシ鳴る板。飛び乗ろうとする怪物ども。


「無理無理無理無理無理!!」


「先輩、ファイトですっ!!」


「もうね、お前の“楽しんでます”感がすごいんだよ!!」


あと少し、あと少しで──渡りきる。


その時!


「先輩、いま! タイプXなタイヤだったらもっとグリップしましたねっ!」


「凍ってねーけど…言うと思ったあああああああ!!」


吊り橋を抜け、俺たちはなんとか“あの群れ”を振り切った。

ぜぇぜぇと肩で息をする俺の横で、美月はというと──


「は〜、楽しかったですぅ……先輩って、本気出すとマンガの主人公みたいですね!」


「言ってる内容が、まんま“ヒロイン”なのよ……」


その瞬間、パチンと何かが弾けたような音がして、ジムニーの前に道が拓く。


「おいおい……また、違うエリアか?」


「おお〜〜〜! 水晶のトンネルです〜〜!!」


「……ガチで、まだ終わらねぇんだな、これ……」


そして再び、俺たちはジムニーで“次の世界”へ突入していく──


ガッタン、バコン、ヒュンッ……!!


「ガッデム!!!!!!」


終わらない、ジムニー旅。

異世界でのサスペンスとバカ騒ぎの真っ只中、アクセルを踏む俺の叫びは、今日も絶叫系。




------




「……なにこれ」


ジムニーのフロントライトが照らす先、

目の前に広がっていたのは、まばゆい光を放つ“水晶のトンネル”。


壁という壁が七色に煌き、光が反射して宙に舞う。幻想的? 神秘的?

進んでいくと段々暗くなり壁にはツタのような物が這いまわっている。

──いや違う。これはもう、完全に エンタメ方向に振り切れてる。


「これ、ヤバいやつだろ絶対……」


「すご〜い! 先輩、ここディズ……じゃなくて、どこかで見たことありますよ!」


「そりゃあるよ! 東京シーのアレな! 完全にアレだよ! ていうかむしろ“それ”に訴えられるレベルだよ!!」


ジムニーがトンネル内に進入すると、突然、左右の壁から「ゴゴゴゴ……」と重厚な音が響く。

トンネルの奥から、何かが、転がってくる──


ドン! ドドドドドドッ……!


「先輩っ! 大きな玉が転がってきましたっ!!」


「見りゃわかるわ!!!」


反射的にシフトダウン、アクセルを踏み込む。

爆音と共にジムニーがインディなトンネルを爆走し始めた!


背後では、もはや「玉」なんて可愛い呼び方じゃ済まされない

直径3メートル超級の岩石球がこちらを全力で追いかけてきていた。


「美月っ! シートベルト確認しろ!!」


「もちろんですっ☆シートベルト、ヨシ!!」


なぜか笑顔で指差し呼称!

しかも助手席でスマホを構えて動画撮ってる!!


「撮ってんじゃねぇえええええええええ!!」


トンネル内はもはや遊園地じゃない。

左右の壁からは吹き矢のようなものがピュンピュンと飛び交い、

天井からは水晶のつららがドリルのように落ちてくる!


「先輩っ、あの火の輪くぐれますかっ!?」


「何でそんなもんがあんだよ!! トラップがアグレッシブすぎるだろこの世界!!」


ゴンッ!!


「うわっ!? なんかジムニーに刺さった!? 弓矢だコレ!! ガチのヤツだ!!」


助手席側のボンネットにグッサリ突き刺さった矢が、カタカタと震えている。


「さすがジムニー、多少の攻撃にもビクともしませんね〜♪」


「評価してるポイントが違うだろ!?!?」


バウンド、横滑り、激突、ギリギリのドリフト。

タイヤはすでに悲鳴を上げてるし、俺の精神も限界寸前!


──そして。


「わぁ! 先輩っ、見てくださいっ!!」


「だから動画止めろって……っ!?」


前方に、巨大な水晶のゲートが出現。

くぐればこのトンネルから出られる、そんな予感がする!


「頼む、間に合ってくれ……!!」


アクセル全開。エンジンが叫ぶ。


ドドドドドッ!!!!


巨大な岩玉は目前!

だがジムニーは、それすらも振り切って──


シュパァァァァン!!!!


水晶ゲートを抜けた!!


直後、後ろで大爆発が起きたような轟音が響き、五色のカラフルな爆炎が空中を舞った。ニチアサか!!


「──ふぅぅぅぅぅぅ…………!!」


「イエーイッ!! 大成功ですっ先輩!!」


「何がだよ……!! 俺、考古学者じゃねーんだよ……(涙)」


ハンドルから手を離した瞬間、俺はシートにぐったりと倒れこむ。


ジムニーの天井には、矢が2本。ドアに刺さった1本。フロントには羽根つきの吹き矢。

完全に見た目が**“世紀末モンスターマシン”**になっていた。


「先輩〜♪ これ、記念に矢持って帰ってもいいですか?」


「むしろ持って帰ってくれ。俺の心の矢を抜いてくれ……」


「えっ、それって私のせいってことですか?」


「言わねぇけど否定もしねぇよ!!」


そしてまた道が拓く。


──先に見えるのは、砂漠のような荒野と、遥か彼方で唸る竜巻。


「……なぁ、美月」


「はい?」


「俺、帰れるのか?」


「えー、まだ全然序盤っぽいですよ?」


「ガッデぇム……!!」




------




カラカラに乾いた風が、砂を巻き上げる。

地平線の彼方まで続く、黄金色の砂丘──


そのど真ん中を、古ぼけたジムニーがゆっくりと進んでいた。

サスペンションがギシギシ鳴り、エアコンはとうに諦めたように沈黙している。


「……暑い」


「わぁ、先輩っ、見てくださいっ! あれ、ピラミッドですよ〜っ!」


「ほんとだ……テレビでしか見たことなかったけど、めっちゃ綺麗な四角錐だな……」


遠くにそびえるピラミッド。

空の青と砂の金、そして石造りの灰色のコントラストが、異世界の風景に妙なリアリティを与えてくる。


「……このパターン、なぞなぞとかトラップとか、あるやつじゃねーか……」


「ピラミッドっていえば〜、王家の○章……あれって、いつ終わるんでしょうねぇぇぇ?」


「……いや、俺も気になってたけど! なんで今それ!? 砂漠で命懸けの時に!?!?」


助手席の美月は、今日もマイペースでニッコニコ。

しかもさっきからやたらテンション高い。


「だったら俺は“仮面”のほうが気になるけどな。ガラスの……あ、ライダーじゃねぇぞ?」


「えっ、そっちも知りたいかも……」


「知りたいのかよ!?美月!恐ろしい子(笑)」


砂漠の日差しに照らされながら、ジムニーのエンジンは低く唸っていた。

いつの間にか、俺の顔は汗でビッショリ。いや、それとも泣いてるのかもしれない。


──そもそも、なんでこんなことになったのか。


 


――― [回想シーン:異世界転移のきっかけ] ―――


あれは、数日前の昼休みだった。


「おぅ亮、知ってるか? 三ケ日の竜ヶ岩洞の近くで、新しい温泉が見つかったらしいぞ」


そう言ってきたのは、社内のうわさ好き、郷田。


「……なんだと。聞いてないぞ?」


その言葉に反応して、俺はすぐスマホで検索を始めた。


──が、何も出てこない。


「いや、あっちの方に親戚がいてな。そっからの情報だ。観光業者がまだ公開してないっぽいって」


「マジか……?」


その場では信じられなかったが──

しばらく無言でスマホを眺めていると、後ろからひょっこり現れる影。


「せ〜んぱい♪ 今度はうなぎですね♡」


「うおっ!? ……またお前か、美月!」


懲りずに近づいてきた後輩の笑顔に、俺の抵抗はもう限界だった。


「……未開の温泉だな? よし、行ってみるか。うなぎはどうでもいいが、温泉は捨てがたい!!」


俺たちは郷田の“裏情報”を信じて、ジムニーに乗って出発したのだった。


 


――― [回想終わり] ―――


「……くそぉ、郷田の変な情報に乗らなければ、こんな砂漠でピラミッドなんか見てねぇのに……!」


「先輩、そー言えばその郷田さんって、名前なんでしたっけ?」


「……おいおい美月さん。あなた総務じゃあぁぁりませんか!? なんで知らねぇの!?」


「えへっ♡」


「……かわいこぶってもダメです」


「えぇ〜〜、気になるじゃないですかぁ♪」


「郷田だよ、郷田穂澄ごうだ ほづみ。ほづみ、って名前」


「へ〜、ほづみさん……なんか、“むせる”名前ですね」


「いやいやいや! あいつ炎の匂いとか染みついてないから! 装甲騎兵じゃねーの!」


くだらない会話をしながらも、ジムニーはピラミッドへと近づいていく。


だが、近づくにつれて空が急に暗くなり──

視界の端で、何かが“うごめく”ように見えた。


「……先輩、なんか、あそこ、砂が……渦巻いてません?」


「やな予感しかしねぇ……」


風が突然吹き抜け、遠くの砂丘からワラワラと何かが這い出してくる──


「ミ、ミイラっぽいの来てますけど!? めっちゃ乾いてるやつ!!」


「もういっそ乾燥剤として売れよ!!」


「逃げましょう先輩、砂漠走行用のサンドトリッパー無いんですか!?」


「なんでそんなに詳しいんだよぉ~」


バタバタと布が風に踊る。叫び声のようなうめき。

そしてピラミッドの上から、ギラリと光る何かが見下ろしていた。


──まだまだ、俺たちの異世界旅は、終わらない。


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