月村一族
高校1年生になり私は寮生活を始める。
お嬢様が多い学園だから、寮生活する人は少なかった。寂しいような気もしたけど、それほど気を使う必要もなくてラクだった。
入学式の人数も少なく…全体40人くらいしかいなかった。約、1クラス分。始業式の前日の入学式は高校の教師と在校生の代表…その他来賓くらいしかいなかった。
ただ、その在校生代表に彼がいた。
2年生代表…月村愁
3年生代表…月村蓮
同じ姓の3年生代表のヒトは愁先輩と容姿が似ていた。黒髪で赤茶色の瞳…愁先輩を優等生風にした感じという印象だった。
背後で他の新入生が小声で話す。
「あの在校生代表2人って、兄弟らしいよ」
「そうみたいだね、しかも理事長の孫なんでしょ?」
愁先輩たちって有名な人なんだ…その時はただそれだけの感想だった。
だって、私が2人と交流を持つなんて思っていなかったし。きっと愁先輩だって、私の事なんて覚えていないって思ったから。
正直、私は愁先輩に会えて凄く嬉しい気持ちだったけど。
出会った時に惹かれていた想いは、会えない時間で少し育まれていたみたいで…再会した時には、恋が芽生えていたんだ。
『キーンコーンカーンコーン…』
校内に響くチャイムの音。入学式が終わり自由な時間。寮に戻る人、家に帰る人それぞれ。
私は真新しい制服に身を包み、学園内を散策する事にした。だって、ワクワクするじゃない?新しい事って。
教室を出て、廊下を進み、入学式のあった体育館へ向かう。もしかしたら、まだ愁先輩がいるかと思ったから。
中を覗くと、まだ数人ほど人が残っていた。私はその残っている人を確認する。
「あ」
4人ほど集まった人達の中に愁先輩がいる事に気付いた。よくよく、見てみると…皆似ている気がした。私の視線を感じたのか、それぞれがコチラに振り返った。悪い事をしているような気分になりソワソワしてしまう。
「菜月?」
愁先輩が私に気付き、驚いた表情をしていた。そして小走りに私に近付いてきた。
「菜月…だよね?」
「あ…お久しぶりです!愁先輩。あの…無事、入学できました」
私は照れながら笑う。愁先輩は驚きの後、微笑みに変わった。
「おめでとう!」
私の頭をクシャクシャと撫でる。それが照れくさくて、でも嬉しかった。頑張ってよかったって思えた。
「愁?」
私達のやり取りを見ていた男の人が、近付いてきた。見た感じ30代の愁先輩に似た男性。落ち着いた雰囲気で、妖艶な人…。瞳の色が紫で…惹かれる気がした。
「その少女は?」
「あ…えっと、今年の高校新入生で…清瀬菜月さんです」
愁先輩は微妙に緊張しているように思えた。
「き…清瀬…菜月です。初めまして」
私は不思議な感覚になりながら、挨拶をする。
「愁の…父親です。どうぞ宜しく」
優しく微笑み、手を差し出してきた父親。私はその手を軽く握った。父親は、私の事をジッと見つめてきた。
「キミ…僕の愛人になるかい?」
「は?」
真面目な表情で突拍子もない言葉を吐く父親に私は呆然とした。
「何を言っているんですか?」
愁先輩も驚き、突っ込みを入れる。
「僕は大真面目だよ」
父親はフッと笑った。
「愁…気付いているんだろ?」
「…そう…なんですか?」
2人のやり取りがわからず、呆然と見つめる。
「必ず…そうなる」
「…」
「ただ…決めるのは彼女だけどね」
「…はい…」
ヒソヒソと話す2人をよそに、私は他の2人の様子を見ていた。気のせいか、私を見てやっぱりヒソヒソと話す。
(一体、何なの?)
怪訝に私は愁先輩を見た。
「あの…」
愁先輩は私と目が合うと、優しく笑いかけてきた。
「菜月…父の愛人になる?」
「愁先輩まで、何言ってるんですか?」
「ははは」
実はこの時、愁先輩が半分以上本気で言っているなんて思ってもいなかった。
*****
次の日…不思議と私を見つめてくる視線が多かった。
「私、どこか変?」
同じクラスで、同じ寮生の新しい友達…優希に質問してみる。
「どこも?何で?」
「う~ん…気のせいかなぁ?視線を感じる気がするんだよね…」
「そう?」
優希には感じていないらしい視線。でも…。
「菜月」
校門をくぐると、愁先輩が私に声をかけてきてくれた。
「愁先輩!おはようございます」
まさか朝から会えるとは思わなかったので、気分が少し持ち上がる。
「え?月村先輩?」
一緒にいた優希が驚き、そして照れる。
「おはよう」
愁先輩は、挨拶をすると周囲を見渡した。
「注目されてるね」
「きっと、先輩が私達に話しかけてるからですよ」
理事長の孫が一般生徒に声をかけてたら、注目されるでしょ?しかも新入生。
「いや。菜月のせいだよ」
「え?」
「コチラを見ている人の大半は…月村の一族だね」
「…一族?」
「血縁者」
私は周囲を見渡した。この学園って…血縁者が多いんだ…。
「遠縁だけど…一族だ」
「そう…なんですか…」
優希も私同様に驚き、周囲を見渡す。愁先輩はマジマジと私の事を見つめてきた。その視線に私は顔が熱くなる。
「多分、これで…大半の者は手を引くと思うんだが…」
「?」
愁先輩は呟くと、一つ溜息を吐き…その流れのまま、私の顔を引き寄せキスをした。
突然のキスに驚き、固まる。
軽く触れたキスは、次に触れると長いものになった。私は我に返り、愁先輩の腕の中で暴れた。
「んっ…」
先輩は暴れる私を力強く抱きしめ、深いキスに変えてきた。深く絡まってくるキスは私の抵抗を打ち消していく。優しくて、甘い…官能的なキス。体中の力を奪っていく。
キスが終わった時には、私は愁先輩に体を預ける感じにもたれ掛っていた。初めてのキスだった。
「菜月、可愛い」
耳元で囁く愁先輩。恥ずかしくて真っ赤になる。
「何で…こんな事…」
「それは、周囲の注目する奴らに知らしめる為だよ」
「何をですか?」
愁先輩は、真剣な眼差しで私を見つめ、そして微笑む。
「菜月は俺の女だって」
「え?」