1.甘いパンケーキの記憶は、体に毒です。
マイペース投稿になります。よろしくお願いします。
春。
日本の学生おいて春というのは、1年の始まりの季節である。
人によっては、新しい土地、新しい学校、交友関係。色々なことが変化するタイミングだ。
雨宮紬もその1人である。
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なんか、思ってたよりもこの辺って人多いんだな。
そんなことを考えながら、電車から見える景色に目を向ける。
窓には小麦色の髪の毛をした少女の顔が映っている。
立っているので精一杯だというのに、通勤通学時間の電車には容赦なく人がなだれ込んでくる。
イヤホンから流れてくるのは、最近アニメの主題歌となり、話題になったロックバンドの曲。
別に好きで聴いているわけではないが、もうほとんど覚えてきたところだ。
電車のアナウンスが鳴り、駅へ到着する。
駅から学校までは徒歩で10分程度の距離であり、同じ制服の生徒がたくさん歩いている。
高校2年。
私は、両親の離婚によって、この中途半端な時期に転校することとなった。
私としてはいいタイミングであったと思う。
両親は別に仲が悪いとか、喧嘩ばかりとか、そういったことは無かったが、ただ合わなかったことが積もり積もっての結果だと思う。いつかはそうなるとなんとなく思っていた。
どちらについていくかは紬が決めろ。
父に言われ、私は母についていくことを即答した。
母は嬉しそうにしていたが、私は私のことを知っている人が誰もいない環境に移りたいだけであった。
父は家に残り、私は母と集合住宅のアパートへ引っ越した。
春休みの間に引っ越し、編入と色々な手続きを終え、4月から新しい学校へ転向することになったのだ。
松島高等学校とかかれた門を通り、学校へ着くとまずは職員室へ向かった。
担任と落ち合い、一緒にHRへと行くことになっている。
職員室はほのかに珈琲のいい香りがした。
「失礼します。雨宮紬です。吉野先生はいらっしゃいますか。」
「おー、早いね。ちょっと今手が離せないからそこ座っててー」
口調とは合わない、凛として透き通った声が職員室の奥から届く。
職員室の端に申し訳程度に置かれている2人掛けの合皮のソファに腰掛ける。
なんだか他の先生たちからも様子を伺うような視線が集まり、下を向いてしまう。
「ごめんね、新学期だから配布するもの多くって」
そう言いながら来たのは、女性にしては身長が高く、170cmぐらいはあり、黒髪、ポニーテールの大人びた女性。私の入る2年1組の担任である。
「いえ、電車が心配で家を早く出てしまいましたので、ご迷惑おかけしましたかね」
「いや、全然!それにさ、私、美少女好きだからさ!」
「...はい?」
にやりとした視線が向けられる。
「雨宮さん、きっと人気者になれると思うよ。可愛いし、クラスのみんなも大歓迎だよ。」
軽く肩をぽんと叩かれる。
「だといいんですが、ありがとうございます。吉野先生も、美人ですよ。」
軽い会釈を返す。
「そりゃどうも、独身だけどね。」
豪快に笑いながらそう返されるとなんて声をかけていいのか困る。
「とりあえず、あと10分ぐらいしたら教室に行くからさ、これ目を通しといて。」
渡された一枚のわら半紙には、クラスの全員の名前が載った名簿。その下には恐らく手書きで書き加えられたであろう文字で、所属の部活動が記載されていた。
結構まめな先生なんだなぁ。感心しながら目を通す。
クラス人数は私を入れて30人、男女比もおおよそ半分といったところだろうか。
男の数は18人。
部活は結構バラバラって感じかな。なるほどね。
少しして吉野先生に声を掛けられ、一緒に教室へと向かった。
吉野先生はやはり見た目も相まって人気なようで、廊下ですれ違う生徒によく声を掛けられていた。
後ろの子誰?なんて質問をする生徒もいたが、先生は答えずに、いいから教室いけとか、もうチャイムなるぞとか適当にあしらっていた。
ざわついている教室の前に着くと、まるで図っていたかのようなタイミングでチャイムが鳴った。
先生はちらっと私の確認をして、顔色を伺ったようだが、すぐにドアを開けた。
「はーい、席ついてー」
がやがやしていた教室はすぐに静まったが、男子生徒のお、吉野先生じゃん、ラッキーという声が聞こえる。
それに続くように他にも、誰?めっちゃ可愛い子いんじゃん!といった声によってすぐにまたざわつき始める。
ざわつきに対して特に注意することは無く、吉野先生は声を上げた。
「今日から2年1組の担任をする、吉野です。静かにしたら隣にいる美少女について話そうと思うんだが...」
「え、先生!?」
思わず声を漏らしてしまった。
そして、教室は一瞬で静まった。
「はい、雨宮さん、自己紹介どうぞ!」
普通こういうのって先生が何となく紹介してからじゃ...
そう思いながらも、すぐに笑顔を作り、全員に目配せしながら教卓の前に行く。
ーどういうキャラがいいかな。
「雨宮紬です。家族の都合で引っ越してきました。街のことも学校のことも分からないことだらけなので、色々と教えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。」
簡単な挨拶をし、教卓に上履きを掠める。
ガタン、と音を立て教卓がわずかに動いた。
「あ、すみません。」
少しだけ恥ずかしそうな顔をすると、クラスメイト達からは拍手、そして吉野先生は、大丈夫大丈夫とオッケーマークを指で作りながら声をかけてくれる。
先生に案内され、一番前の端廊下側の席に座る。
雨宮だから名前の順かな、そんなことを考えていると、隣の席の男子に声をかけられる。
「雨宮さん、俺柿沼、よろしく!何か分からないことあれば何でも聞いて!」
さっき、吉野先生ラッキーとかなんとか言っていた人だ。
その頬は若干恥ずかしがっているところが見てとれる。
「ありがとう、なにかあったらお願いするね。」
笑顔で返すと、お、おうと指で鼻を搔いていた。
その後は年間スケジュールの説明や、係決めをのちに行うことなどを説明し、HRは終わった。
その後は全体の始業式があるため、体育館へ移動する。
「はい、じゃあ体育館に移動するように、くれぐれも静かにな」
吉野先生の指示により全員立ち上がって移動を始める。
すると3人の女子に囲まれた。
「雨宮さん、一緒に行こうか」
話しかけてきたのは、黒髪ボブで頭にカチューシャをし、猫目の女の子。
元気っ子といった感じだろうか。
「ありがとう、場所とか分からないから助かる」
友好関係を築くにはフレンドリーに、愛想よく、笑顔でと。
敬語は使わない、多分その方が私みたいな見た目の人とは壁を感じない。
「おおぉ...、なんか挨拶の時から思ってたけど、完璧美人ってイメージにしてはやわらかいね...ちょっとびっくりしたよ」
うんうん、と両脇にいる2人もうなずく。
「あー、私は美咲。こっちが日菜子、こっちが澪ね。」
美咲と自己紹介をしたのは猫目ボブ、日菜子と紹介された子はやや人見知りなのか、目線は合わせないが、別にとっつきにくそうな感じではない。澪って子は腕を組みながら観察しているが、こちらも顔は笑顔で人当たり良さそうだ。3人とも程よく垢抜けていて、いわゆる一軍女子ってやつなのかなと思った。
「美咲ちゃんに、日菜子ちゃん、澪ちゃんね。覚えたよ、私のことも紬って呼んでね」
そのあとは特に内容のない話をした。
駅前のパンケーキ屋が美味しいだとか、誰々先生はよく怒るだとか。
他愛のない会話、私が気を遣わないように色々なネタを話してくれたのだろう。
途中で廊下での会話を先生に「さっそく仲良くするのはいいけど静かに」と言われ、中断してしまった。
体育館での始業式が終わり、また軽いHR。その後は昼食を食べて解散。という流れらしい。
HRの後は先ほどの3人から学食に誘われたので一緒に昼食をとることにした。
「紬さんは、この後どうするの?」
話しかけてきたのは日菜子。
「うーん、どうっていわれてもやることもないしなぁ...適当に校内散歩して帰ろうかと思ってたよ」
これは本心。特段学校にいてもやることがないし、クラスメイトの顔と名前を覚えられるわけでもない。
「あー、じゃあさ!部活見学しない?って言っても私たち3人とも違う部活だから、ついでに色々見たらいいと思うよ!今日は授業からほとんどの部活は午後から練習とかあるだろうし!」
美咲が提案してくれた。
部活かぁ。特に入る予定は無かった。
2年という中途半端なタイミングで部活に入って、何か得られるものはあるだろうか。
いや、意味はある。交友関係だけじゃなく、色々なパイプが今は欲しい。
「部活かぁ、考えてなかったけど、顧問とか他の子に邪魔じゃなければお言葉に甘えようかな...」
「よっしゃ!決定ね。ちなみに私は軽音部、日菜子は書道部で澪は陸上部。何か興味ある部活とかある?」
「軽音部、みてみたいかな。」
こうして、軽音部のある部室棟へと足を運ぶことになった。




