大変なことになった (クロウ視点)
あれは本当にまずい。記憶が完全に戻るだけであんな力を発揮するなんて、思いもしなかった。
私の興味本心で郷土を、魔族領を壊滅させてしまうなんて、なんと恐ろしい。
お嬢様、本当にまずいことになってしまいました。早く、早く伝えなければ!
「はぁ、はぁ。お、お嬢様聞こえていますか?」
「あらクロウ?もう終わっちゃったのかしら?」
「そ、それがとんでもない緊急事態でございましいて。」
「緊急事態?それは思ったよりも弱すぎて相手にならなさ過ぎたってことかしら?」
「私のせいです。少し羽目を外しすぎました。謝って済む話ではないほどの真剣なことです!」
「な、なにが起きたのよクロウ。あなたがそこまで声を荒げるなんて珍しいわ。今あなたのいる場所にシュヴォーさんと行くわ。」
後ろから二人の気配を探知。
「クロウさん、あの人間が敵ですね?」
「なにが起きたか話してちょうだい。」
「ユナトさんはもう人間の域を超えています。あれは人間じゃない、悪魔です!」
「クロウさん、ユナトさんをリストに加えてもよろしいでしょうか?」
「そ、そんなに危険人物だったの!?」
「私の王手で吹き飛ばし、木にぶつかったときに完全に記憶が戻ったらしく、優しかったユナトさんは消えました。そ、それから確かにあの時、”《古今魔法創造協定》の幹部、『不断』のユナト。”と言ってました。」
お嬢様とシュヴォーさんの顔色が悪くなっていくのを感じてる。
それもそうだ。魔族だけでなく人間の間でも恐れられているオーリゴ・ノウの正式名称である《古今魔法創造協定》は79年前の悲惨な過去を作り出した組織だ。
種族関係なく狙われた生物を実験対象とした無差別殺害。
この組織の名を知らない生物はいない。
「い、今すぐユナトを緊急危険リストに加え魔族・人間情報局本部に伝達します。」
「クロウ、あなたそんな恐ろしいものに挑んでよく生きてたわね。さすが私の執事よ。」
「生きているのは奇跡です。それに私は挑発を繰り返し、もっと恐ろしいものをこの目で見ました。」
「戦闘狂も大変ね。それで、何を見たの...。」
「龍の一声です。今現在進行形です。」
「そ、それってあの?あれのこと!?」
「それはかなりまずいです。ユナトはどれほど魔素を保有してると思いますか。」
「少なくとも直観では私以上。おそらくシュヴォーさんよりもあるかと。」
「そ、それじゃあ対処できないってこと!?い、いやよこの土地を離れるなんて。お母様とお父様が眠ってるこの故郷を離れることなんて私できないわ。」
「お二人方、まもなく『戦団』のミューン様が到着します。そのあと、ほかの皆様方もここに来られるとの連絡が来ました。」
「国家の未来を守るためこの私クロウ・エルド、この事件の不始末、この身に代えても死守します。
お嬢様、いざというときはこれを壊してください。」
ヴァジェ様のお母様、お父様から頂いたヴァジェ様専用の魔法具をつかわせてしまうとは。
今更後悔してももう遅い。私が調子に乗ったせいで、こうなってしまったのだ。
「クロウ、私、ヴァジェ・エルドが命令するわ。死なないで。」
「.........はい。」