記憶
「ぁあ、ああ、思い出した。」
倒れた時に樹に体を打ち付けてしまった痛みによるものなのか、それとも手記を見たときに思い出したのか、きっと後者だろうとは思うけど、俺はここで寝る前のことと、俺が何をしてたのかを思い出した。
それと同時に、手記は光り、粉々に砕け散ってしまった。
砕けた残骸は俺の体に吸い込まれ、脳に知識が吸収された気がした。
「おお、なんだが懐かしいきがするな、こんな感じ。
そうか、俺は魔法を探求してたのか。」
魔法を探求することは人生をかけて己の最高魔法を探し求めるということだ。
最高魔法とは、いわば自分にしか使うことができない”オリジナル”ってやつだ。
オリジナルを使うことができる者はかつて世界に五人しかいないと言われていた。
俺が長い間寝ていたのは、俺が長時間寝ることによって魔素の吸収と保存容量が拡張されるという独自の理論のもと自分自身の体で実験していたからであると判明した。
時間が経つにつれ俺は名前、年齢、友人、地位、家族などさまざまなことを思い出してきた。
「俺はユナト、年齢は23歳、両親はすでに他界し妹と弟がいた。
確か、オリジナルを探す会にみたいなやつの幹部ぐらいの地位に位置してたはず、
友人は四人ぐらいいた気がするが、名前が分かんねえ、聞けばわかりそうだなってぐらいか。」
胡散臭そうな会だなぁと思いつつも、久しぶりに魔法でも使ってみるかと俺は手や足を軽く動かした。
「ええと、魔法は想像が大事なんだよな、こんな感じで、ほい。」
感覚を取り戻そうと俺は手始めに、誰でも使えるであろう水魔法の中でも超簡単な水を浮かばせる魔法を使ってみた。普通は詠唱というか単語とかを言ってから魔法を使うんだけど、俺は頭の中で考えて使うからそんなことはしない。
「そうだな、川の水をちょっと持ち上げてみるか。」
指を川に向け、くいっと引くと川の水は俺に迫ってくるように飛んできた。
「うわっ!」
ざぶーんと水が全身にかかった俺は服が濡れくっそ寒くなった。
川の水は半分くらい失い、上流から水が再び流れ始めた。
「さみぃい、おかしいなぁ、何を間違えたんだ?」
想像が大きすぎたのか?それとも魔素の量が多かったのか。
体ががくがくと震えながらそんな考えをしてた。
昔っからの癖なんだろうか、いつもこんなことをしてた気がする。
でも流石に寒いので今度は火魔法をつかって乾かそうと思った。
「水であれなんだから、火はもっと気を付けなければここには燃えやすい樹が生えてるんだからな。
小さく、焚火のように.........えい。」
なんか見たことのない色をした小さな灯ぐらいの火がぽんっとでてきてぷかぷか浮かんでいた。
灯は俺の体の周りをまわるように動いた。
体と服に浸みた水分はすぅうーっと乾いていった。
「あぁ、思い出した。」
そうだ俺は爆炎のような凄まじい魔法でもなく、体の傷を癒すような魔法でもなく、日常の些細なことで使うあれば便利な、そんな魔法を開発していたのか。
誰もこんな魔法を思いつくやつはいなくて、魔獣とか魔人を撃退するための魔法が主流となっていた。
オリジナルとは自分の最高魔法を編み出すこと。
ということは俺は、何個もオリジナルを持っているということか?!
なんてことを考えていたら流石に腹が減ってきて少し空きすぎて痛くなってきた。
「食うもんとか探さないと、そのためにはどっかの村か街、はたまた国とかに行かないとなぁ。
俺はどれほど寝ていたのだろうか、はぁ、今更ながら妹と弟は無事なのか。」
なんてぶつぶつ喋りながら、俺は荷物を持って、ついでに持ってける物がないか探して袋の中に詰め、寝ていた場所から離れていった。
そこに残ったのはびしょびしょに濡れた土地と手記の吸収されなかった切れ端だけが残っていた。