芥川龍之介「羅生門」~夏休みにもう一度読んでみませんか~
芥川龍之介の代表作の一つ「羅生門」。発表から100年以上経った今もなお、その輝きは失われていません。
今回は、「羅生門」を読むヒントを述べたいと思います。
1.下人の心理とモラルについて
生きるために盗みを働くという単純な「悪への転落」の観点への警鐘を以前述べましたが、下人の心理的な変化や、彼が自己正当化のために築き上げる論理に着目してみて下さい。
例えば、死人から髪を抜く老婆の行動を「悪」と断じることで、自身の盗みがあたかも「正義」であると錯覚するかのような下人の心理や、極限状況下で失われていく人間(他者と自身)の尊厳に対し、それをどのように扱うかという迷いを読み取ることが大切です。
善悪二元論を超えるかのような老婆の「悪の論理」に、下人の倫理観がどのように揺らぎ、再構築されたか、またはされなかったのか、という複雑なプロセスを考えながら読んでいきます。
2.羅生門という「空間」の象徴性
物語の舞台となる「羅生門」は、単なる物理的な場所ではなく、極めて象徴的な意味合いを持っています。
都市と地方、生と死、善と悪、人間と獣性の境界としての門の役割を考えながら読みます。
門の2階の広間という閉鎖的空間が、下人の心理状態や、そこで行われる道徳的選択にどのように影響を与えているか。
社会正義が機能せず、倫理が崩壊しつつある空間で、「生きるためには悪も許される」と語る老婆は、生への執着を剥き出しにします。下人の人間性が試される場として、門は機能します。
これらの観点に着目しながら読むと、「羅生門」がより面白く感じられるでしょう。
※「羅生門」本文…Webの「青空文庫」で読むことができます。
※私の考察は、「芥川龍之介「羅生門」本文と解説」にまとめてあります。よろしければご覧下さい。