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異世界日本の反人分子  作者: よしろう
4/4

3 定例会議

    数日後  職場



「どうでした。上司?久しぶりの休暇は。普段あまりご自身から休暇を取られないので次からはしっかり有休を消化してくださいね。」



くれぐれも体を壊すなと暗に忠告する。しかし、部長は笑顔で肩をブンブン回した。


「大丈夫!まだまだ働けるから・・・。いてっ。肩が…。いてててて・・・。」


「説得力ゼロですね・・・。」


部長はよくおっちょこちょいなところもありしょっちゅう体を痛めるを。体力だけはあるのに、けがに対する体制がないのが不思議だ。


そうはいっても妖怪頑丈なので痛がりながらも休暇について語った。


「まあ、久しぶりにサッカーを見たよ。まあ毎回同じチームだけど、結構盛り上がったよ。僕は西山出身だから西部のファンなんだよ。東西ダービー、1-1から一点勝ち越した瞬間、思いっきり叫んだよ!」


「部長、サッカー好きなんですね。知らなかった。」


「君、僕の性格で判断してない?」


「いえ・・・」


そんなことはない、とは言えない。部長は性格自体おとなしいから、あんまりスポーツで盛り上がるイメージがないのだ。ましてや叫ぶなんて。僕は頭の中で部長が叫んでいる姿を思い浮かべる。あんま声出てなさそう・・・。


ちなみにここのスポーツチームは野球もサッカーも四チームだけ。


東山出身者の東部と西山出身者の西部(以下略)という何ともひねりがない。けど意外にもこれが方角ダービーとして盛り上がるのだ。普段どこ出身でも気にしない我々だが唯一スポーツの時だけどの方面出身かで派閥ができる。


「僕は東部に住んでいるので少しうれしくないですね。

負けちゃったか・・・。いや気にしていないのですけどね。残念だな~。いや~。」


「あ、そうだった・・・。ごめんね・・・。」


「いえいえ、気にしてませんよ。二、三発殴らせてください。」


「気にしてるよね!?」


まあそういった風にこんな小規模な場所でもスポーツ熱はある。しかし、やはりこの「國」を背負う身、やはりすぐに事務の話が始まる。


「そういえば昨日の件、お疲れだったね。よく生きて帰ったよ。彼の旧知の知り合い以外、誰も帰ってこれないと思ったから・・・。」


「危うく切り捨てられそうになりました。」


そういって、昨日のことを今一度回想する。あのまま止めてなかったらどうなっていたかが少し気になる。迅を連れて行ってよかったといまさらながら安心していた。


その切り捨てられそうになったという話を聞いて部長はいとも簡単に軍令部長の逆鱗に触れた原因を当てて見せる。


「総裁の話ででしょ?」


「おお!正解です。よくわかりましたね。」


「だと思ったよ。あいつ、いま銀行ともめてるからな~。

それになんかあいつ、総ちゃん苦手だし。いつもやりたいことを妨害されてね。まあ、現実見ないあいつも悪いけど。」


「・・・。」


(総ちゃん、あいつ!?やはりさすがは幼馴染だな・・・)


戦闘力ゼロなのに強そう・・・。ひと付き合いのうまさが垣間見える。それに、あの軍令部長が連絡の不備に対して苦々しく思っただけで、何の制裁をくらわさなかったのもこのためか・・・。


とりあえず任された仕事がうまくいかなかったことを謝罪した。どうあっても責務を果たせなかったことは申し訳なく思った。するとすかさずフォローが入る。


「いや、親友の僕でさえ何もできないんだ。そうなって当然だよ。万が一にかけたんだけど。まあ、大丈夫さ。」



そういって、笑みを浮かべ、椅子にもたれかかる。

そして「それよりさ・・・。」と違う話題を投げかけてくる。


「今度の総会だけど、軍部はあいつじゃなくて、迅君が出ることになった。そして、学研は院長が忙しいという理由で鬼灯さんが出ることになったそうだ。」



「あいつらがですか?鬼灯の場合は大丈夫でしょうが、迅は途中で飽きそうなんですよね。」


ちゃんとおとなしくできるのかどこか心配になってくる。

普段おちゃらけているあいつがおとなしくなるのは軍令部長がらみの案件だけだ。昔からよく知っている。


そう思っていると


「まあまあ、君も行くことになったから。」



「・・・。」


さらっととんでもないことを言う。部長級の会議で、これからの方針を決める最重要の会議なのに・・・。



「いくら部長でも無責任ですよ…。私には荷が重いです。」



「え~。適任だと思うんだけどな~。知り合い同士なら会議が活発化されるからいいかと思ったんだけどな~。」



(確かに知り合い同士では話はしやすいけど、そんな軽いもんじゃないんですよ・・・。)



どうやら表情に出ていたのか私が難色を示していることがわかると、ついには、頬を膨らませ駄々をこねる。


「いやだいやだ。僕行きたくない。若い人たちについていけないー。」


そういって部長は床を転げまわる。


「子供ですか、あなたは・・・。」


そして挙句の果てには地面を這ってきて僕の着物の袖をつかむ。


「頼むよ…。有休何日か分譲るから…。」


「どうせあなた使わないでしょう・・・。」


「ギクッ・・・。」


ばれたか、とでも言わんばかりの顔だった。


「いやだと言ったら嫌ですよ。」


そういった瞬間、部長の雰囲気が変わった。

そして、


「君、宮司さんとも親交あったし、財務部長とも知り合いだよね・・・。」


「そうですけど・・・。」


「じゃあ決定だね。名前書いてねここに。これ、今日までなんだー。これ上司権限だから。」




と、半ばパワハラのような暴論を振りかざしてきた。本来であれば断っていた。だがしかし、今の上司は真顔であり、その目は今までにないほど冷酷だった。そしてぐいぐいと書類を僕に提示する。


背中からは覇気を感じる。有言かつ、無言の圧力、さっきの懐柔戦法とは打って変わり殺されるのではないかと思うほどだった。



(やっぱ部長は隠れ強キャラだな)



僕はその圧力に屈してしぶしぶ名前を書く。

するとまた、目線の柔らかさが表情に戻った。



「ありがとうね。まあ、物は試しだし責任も取るからさ。いずれここの長になるだろうから。何事も経験!経験!」



「そういう問題ではないのです・・・。」



僕は悶々とした気持ちの中、やれやれと思いながらそう言った。




       幹部会議




『君は特に何も話さなくてもそれはそれで構わないよ。僕らの予算は通ってるし、あまり出る幕はないから中央の実像を知っておいで。』




あの人は最後にこう言った。その言葉を胸に僕は今、白猫神社の神前にいる。焦りからかかなり早くついてしまったようだ。神社に住み込んでいる宮司様さえまだ出てきていなかった。


しかし、厳かなる神前の前で足を崩すのもいかがなものかという考えがあり、正座のままでいた。すると、


ガラガラガラ・・・。



引き戸が開いて白い狩衣に身を包んだ宮司様が出てきた。耳は烏帽子で隠れていて雰囲気は華やかだ。


「お勤めご苦労様です。今回が初めてだそうですね・・・。どうか気負わずにリラックスしてください。」


「いつも祭祀の時はお世話になっています。お気遣いいただきありがとうございます。」



この人には、年に一年の式典で大変お世話になっている。

また、初もうでの時にはこの人独りでこの里全員分の祝詞の依頼をさばききるのだ。


やはり経験豊富なだけあって、体力がある。そして、その献身的な仕事ぶりから里の人の尊敬を集めている。


「いえいえ、自分に課せられた仕事ですので。」


「謙遜なさらないでいいんですよ。」


話してしているとまた一人、扉を開ける。それは、そろばんを腰にひっさげた財務部長の筧さんだ。眼鏡がよく似合っていて、ザ頭脳派といった雰囲気を醸し出している。



「いや~。ごめんね、総務課。無理なミッションを押し付けて・・・。もとはといえば狸野郎が悪いんだけどね。」


「いえいえ、予算の増額いただきました。」


「対価を払っただけだからね~。それにしても軍部に文句を言おうと思ったけどきょうは若いのが来るらしいからやめておくよ~。」


するとまた引き戸が鳴る。

迅が来た。


「お、噂をすれば、」「軍部だね。」



「ん、俺のうわさ話してたんすか?」



「軍部は気にしなくていいよ。」


そう言われて、迅は悪口を言われたんじゃないかと思い焦った。


「そうなるとなんかいやだ。おい、凍魔!何があった?教えろよ!なあ!」


「何でもない。」


「ほんとか?ほんとなんだな?」


迅はそうあわただしく言う


(相変わらず調子のいいやつだな)


大丈夫なのかという不安だけがあおられていく。いい意味でも悪い意味でも軍人らしくないやつのことが心配でならない。


ガラガラガラ。また一人きた。白衣に身を包んだ鬼灯だ。迅と僕の同期である。妖では珍しく髪色が黒である。しかし、やはり獣の耳を持つ「半妖」である。


「あら皆さん来てたの。諜報部が欠席ってことは私最後…。」


「そうだぞ~遅かったな鬼灯~。俺はもっと早く来てたぞ~。」


迅が鬼灯をあおる。するとその安易な挑発に鬼灯は乗る。



「言ってくれるじゃないの迅・・・。一発殴らせてもらってもいいかな…。」



「ごめんなさい。」



迅はすぐに謝る。鬼灯を相手にすると面倒なことになるのがわかっているのだ。やっぱり心配だ・・・。鬼灯までも心配になった。そこで宮司様が鶴の一声を挙げた。



「まあまあ皆さん。神前ですので穏やかに行きましょう。」



「「すみませんでした。」」



宮司様の前だと迅と鬼灯はおとなしくなる。

やはり、宮司さんの尊敬の厚さが表れている。さすが、これまでの会議全てで司会を務められているだけある・・・。

どうやって軍令部長をおさえこんだのだろう。秘訣が知りたい・・・。


まあ、ともかくいよいよ会議が始まる。へましないようにしないと・・・。



「それでは定例部会、始めさせていただきますね。」



「「「「よろしくお願いいたします。」」」」



「ではまず予算の要求についてはほとんどの部で定まりましたが、軍部だけ決まっておりませんでした。今回はこれがメインの議題となります。」



「その件ですが。」



迅が手を挙げて遮った。



「今回の予算については、前年と同様で大丈夫です。」


その声に私は驚いた。どうやってあの部長を懐柔したのだろうか・・・。それとも部長をガン無視したのか・・・。

一方で


「軍部もようやく観念したのか。まったく、おとなしく従っておけばよかったものを。」


と筧さんはどこか嬉しそうだった。

しかし、


「いえ。そうではありません。」


鬼灯が口をはさむ。



「今回我々は画期的な武器を開発し、それを軍部に供与することで、妥結いたしました。その新兵器につきましては会議後に研究所までお越しいただき、皆様の御覧に入れたいと思います。」


なるほどと、全員が納得した。たしかにこれだけの無償供与をもらえれば予算の増額など逆に無神経だろう。


何はともあれ予算は秒速であっけなく片が付いた。これで会議に大きな弾みがつく。そう思った矢先宮司様は突然とんでもないことを言い出す。


「じゃあ今日はここで終わりにしましょう。今日の時間の大半はこれにあてるつもりでしたが、それが無くなったので。」



「「「えっ・・・。」」」


僕たちは三人とも混乱した。


「いいんですか?まだ俺たち会議も何もしてませんよ!」


迅は珍しくまともな焦り方をする。だが


「まあ、明確な縛りもないしな、メインの議題がつぶれたならしょうがない。」


と筧さんはなぜかノリノリだ。


(これが経験の差か・・・。)


何か目に見えないとてつもないことを痛感した気がする。



「じゃあ、研究所に行っちゃいましょう。」



そういって宮司様は足早に研究所へ向かう。

筧さんもそれに続いていく。



そして取り残された三人。


少し雑談をすることにした。一か月ほどあっていなかったからこのメンツがそろうのは久しぶりだ。


「鬼灯は久しぶりだな。」


「まあ、ずっと開発と諜報だけどね・・・。あとスパコンと連絡網の管理かな。」



一部の仕事は、ほかの部署と仕事がかぶっている気もしなくもないとのことだ。



「軍部はずっと山にこもりっきりだから似たようなもんだよ。たまには街に出て警察の名目でうろつきたいけど、治安良すぎて意味ないんだよな・・・。」


この町に貧困層はあまりおらずみんな手に職をつけている。金がなくても飢え死にはしないから犯罪を犯す理由もないのだ。


「総務は、相変わらず法整備頑張ってるけどね。影薄いよ。」


少し目立たない総務が悲しくなってくる。


「そ、そんなことないよ。いつも頑張ってくれてるじゃん!」


「そうそう、いつもお疲れ~。」


二人が急いでフォローを入れてくれる。

そして迅がさっさと話題を変える。


「まあとりあえず、行くか。懐かしいな~。」


「まあ、少し間取りは変わってるけど大体そのまんまよ。」


「じゃあこれ終わったら飲み屋行こうぜ。」



「前と同じ失敗するなよ。私が介抱しなきゃならなくなるだろ。」



和気藹々とした会話が流れていった。



おしまい















































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