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異世界日本の反人分子  作者: よしろう
3/4

2 軍令部長

         陸軍屯所にて 



陸軍の軍令部もとい屯所は山の山頂にある。陸軍は防衛のためこの盆地を形成する山の輪郭を細かく結んだラインに壁を作り、一種の要塞のようなものを作り上げている。その壁の途中に砦のような軍令部がある。



幸い、僕の住む山の山頂に軍令部がちょうどあった。いつものようにならずに済んだので良かった。ひたすら上っていくと、最上段、54段目に到達する。普通ならこの辺りで階段は終わっている。



しかし、階段は住居が終わってもいまだに続いている。周囲は森でやはり囲まれている。何ら整備されていない、けものみち同然の道だった。


迅曰、人間が山を越えても入ってこられないようにするためらしい。


しかし、暗い森も段々と開けて、光が差してくる。



(見えてきたな。)



一番最初に姿を現したのは、アンテナだった。この山に仕掛けてある無線カメラを管理するためのものだ。やはり、そこには植物のつるを絡ませ、木を植えてその葉の中に隠すなどのカモフラージュがされている。



そして、二人の銃剣を構え、淡い緑色の軍服を着た厳しい顔の衛兵も見えてくる。



これまで、部長同士の会話はすべて平行線だったらしい。詳しくは聞いていないが、部長の机の上の事務録にはそう書いてあった。


部長退勤後に財務の人に話を聞いたが、陸軍部だけ予算は決まっておらず、それにこれ以上の予算の増額は厳しいとの見通しだった。今回は次回の話し合いの場所、交渉の現状と日時そして決まらなかった際の対応についての手紙を渡すことだ。


衛兵に近づいていくと、衛兵は敬礼をして出迎えてくれた。



「総務の方ですね?迅さんが待ってますよ。」



そして僕に黒い手袋をした手を差し出してくれる。握手をした後、彼らは門を開けて、僕を中へ招き入れる。そしてその内側の建物の戸を開けて、迅のいる部屋、小隊長室へと向かう。



「部長と会うなんて度胸ありますね。」



案内する彼が話しかけている。彼のはいているブーツが廊下でカツカツと音を鳴らす。私の草履の擦るような音とは違い、非常にきりっとした音だ。床は石畳だった。

それが緊張させて来るようだったし、


度胸ありますね・・・。


 


その一言でまた緊張度が増す。一歩また一歩と近づくたびに緊張のベクトルは上がる。普段は鳴りを潜める心臓の音が聞こえてくる。


鬼とうわさされているからなおさらだ。


「第二小隊長室」


そう書かれた部屋を開けると。

と、その付近にある長椅子には迅が足と腕を組んで座っていた。衛兵は去り、部屋には僕と迅の二人だけになった。



ふだんの派手な姿とは打って変わって、軍服姿だった。何か新鮮さを感じる。軍刀を腰に携えていて、普段とは打って変わって落ち着いた姿だ。


公務をしていたようで、机には何枚かの書類が置いてあった。彼は僕を一瞥すると、ぎこちなく立ち上がる。表情はやはり険しい。


「本当に行くのか・・・?半径一メートルに近づくだけで空気の震えを感じるんだぞ・・・?普段からさっきを醸し出している人だよ~。」


そういう彼の目に映るのは恐れだった。おそらくほんとのことを言っている。


「ちょっと待って・・・。」


私は迅の前をぐるぐる回る。行くか行かないか・・・。言いつけだから行かなきゃいけないのは分かるがどうしても一歩が踏み出せない。


「・・・。」


迅はこれを茶化してくると思ったが、逆に同情したような目になっていた。


「しゃあ~ないな。俺も一緒に会ってやるよ。」


そう言って肩を組んでくる彼が頼もしく思えた。

そして、二人で部長の待つ、稽古場へと向かった。

普段彼はそこで隊員たちと稽古をするそうだが、いまだ負けたことがないらしい。


「ここだよ。剣道場は・・・。」


そう言って彼は引き戸を開けた。

そこでは数人の隊員が集まり銀髪で、長髪かつ美男子の指揮官は木刀を持って隊員と手合せしている。


だが全く勝負にならず、軍令部長の剣速はみるみる上がり、隊員はみるみる撃たれ始めていった。最後は彼の横なぎを受けて隊員が吹き飛ばされて終わった。


「ぶ、部長。し、失礼します。」

そう言って、さっきのかっこよさなど微塵もない震え声で、部長に話しかける。


「何だ。」

短く一言だけ声がする。重く軍人らしい声だった。そしてまず僕が自己紹介する。



「総務、次部長の凍魔です。今回、総務部長の命で参りました。」



「陸軍部 部長の清治(きよはる)だ。ご足労感謝する。」


そう言って彼が近づいてきた。怖いので目線をあえて合わせずに、手紙を渡した。その手紙を軍令部長は受け取り、開いた。


しばらく無言になって見入っていたその時だった。

彼は手紙を宙に投げ、そして木刀でその手紙を一刀両断した。そして木刀を投げた。その木刀はある隊員の頬をかすめ、壁に突き刺さった。そして隊員はその場にへたり込み魂が抜けたように気を失った。


「おい、廉太郎!しっかりしろ!」


その呼びかけに彼は応じず、彼は担架で運ばれいった。

僕たちはその様子を見届けてふと軍令部長の顔の方を見た。しかし・・・


「ひっ!」


私と迅はほぼ同タイミングで声を上げる。これまでのイライラが溜まりタガが抜けたのか、空気がつい今まで隠していたであろう殺気で揺れていた。そして、目は普段とは違い赤い瞳をしていて、完全に血走っていた。まさに鬼そのもの、いや悪魔そのものだ。


私はその形相に恐れおののき、腰を抜かしそうになるがかろうじて足に力を入れ、踏みとどまる

すると、彼は私に向けて怒鳴った。


「中銀の狸どもに伝えろ!私は折れないとな!国防において妥協など罪だ!あいつらはまるで分っておらん!そんなことのわからないやつにこの国を守る資格などあるか!」


そう言って彼は引き戸を開け、すっこんでいった。

彼が奥に去ると僕は自分の心拍数が無意識に上がっていたことに気づいた。清治軍令部長・・・二度と会いたくない・・・。


何がそんなに彼を怒らせたのか気になったので、試しに手紙を見てみるとそこには中央銀行が金を貸すことを渋っていること、そのせいでこれ以上予算の増額はできないことが書かれていた。


(これは決まらないな。会議の時どうなるかだ。これは部長の力量にかけよう。)


そう思って、僕は横の迅に目をやると


「ふ~。漸く終わった~。きつかった~。」


と言って床にへたり込んでいた。彼がいなくなって気が抜けたようだ。その姿は先ほど見た隊員の気絶とさほど変わらなかった。


「なっ?怖かったろ?」


「確かにそうだね。」


そう二人で共感を分け合った。


だが二人して安心していた時、奥から人が倒れる音がした。一人ではなく少なくとも複数人がなぎ倒されていた。



引き戸をそっと開けると、軍服を着こみ、帽子をかぶった軍令部長が日本刀片手にどこかへ行こうとしていた。

それを隊員たちは必死に阻止していた。足をつかんで引きづっているものもいた。


「ええい!止めるな!あいつを、狸どもを脅して説得するのみだ!」

そういう彼に部下は口々に


「だめですって!逆に減額されますよ!」


とか


「それだけは・・・。」


と懇願していた。その声たちを聴いて迅は逆に落ち着いていた。


「あの人自体強いから人間どもに負ける未来はなさそうだな。数対一でも誰もかなわないから。まあ、すぐに取り押さえて、睡眠薬を打つだろうけどな。数か月ぶりだったけど変わってないね~。」


とどこか安どの声を上げる。


「数か月振りなのかよ。」


「中には一年以上あってないっていう先輩もいる。」


「え~・・・。」


だがそうは言いつつもなぜか迅は楽しんでいるようにみえる。どうやら休みがなくても、どこか満足感を味わえているようだ。



「まあ、何かと楽しんでるようで何より。」


と言ってみた。

楽しんでねぇよ!、とすぐさま否定するが、その表情は笑顔だった。そのあと懐から懐中時計を取り出す。


「じゃあ俺は森の警備へ行く時間だからここでお別れだな。また飲めるといいな。まあ次の休みがいつか分からないがな・・・」


そう迅は遠い目をした。そこで、


「軍令部長も飲みに誘わないの?」


と言ってみた

僕が言うと迅は驚いたような顔をした。しかし、少し考えたような顔をして段々とその表情は和らいでいった。


「さあな。」


そう言った彼の口調は穏やかだった。


第二話おしまい





























      

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