0 戦争
「死ね!この地球のごみが!」
「ぐはっ!」
ある兵士が軍刀で袈裟に斬られ命を落とした。銀髪かつ長髪の、軍服に身を包んだ人型の妖が、一人また一人と銃を持った人間を切り倒していった。
広大な平野ではあちらこちらから火の手が上がっている。
森を背にして戦う妖たちは数十年前に存在が確認され、その特異な存在を恐れた。そしてそれは妖の「駆除」につながり、やがて人類と戦争するに至った。
しかし、無情にも妖たちは連戦連敗、すべての戦力を出し起死回生を狙い今日にいたった。
指揮官である彼の横に立つ山ほどもある九尾は一人また一人と人間をなぎ倒す。
あるものは、どこからか仕入れた銃をあたりかまわず連射する。河童らしきものは人から生気を奪い取り、座敷わらしのようなものは奥でひたすら幸福を呼ぶ祈りをささげている。
その内容は一言でいえばまさに死闘だった。死力を尽くして戦う妖らには服装はそれぞれ違えど偉大なる結束力があった。
だが銃を持ち、最新兵器と人海戦術で押し切る人間と物資の不足からか直接攻撃系しか持ち合わせない、銃弾を何発か食らうことが前提な妖たちとの戦いは、時間がたてばたつほど人間有利となる。
特にあの大きな九尾は的のように猛攻の餌食となっていく。そして、銃弾でダメージを負った大勢の妖怪たちが一発のミサイルで一気に命を散らす。
いくら人よりも妖怪がタフだとは言え何発も食らって耐えきれるはずもなく、座敷童たちもやはりロケット砲で集中砲火をうけて祭祀用の器具ごと殺害され、無論巨大化した九尾もわずか数分で人の姿に戻った。
短髪の九尾は膝に手をついて苦しそうに
「ハァッ・・・ハァッ・・・。ごめん・・・役に・・・立てなくて・・・。」
といった。
そういう九尾の背中は着物に血がにじむほどボロボロで、口から血が垂れてきている。軽傷ではないのは間違いなかった。
その様子を指揮官は刀を構えながらも一瞥し
「問題ない。」
とそう一言いった。そして、
「その傷はきついだろう。すぐにここを離れろ。」
と後ろへ下がるように伝えた。しかし、九尾はそれだけは頑として譲らなかった。
「まだ戦えるよ・・・。僕はまだ・・・」
そう言って腹を押さえながら腰から日本刀を引き抜いた。
そして近くの敵に挑み、銃弾を交わしながら一刀で切り捨てた。
「馬鹿言うな・・・!まったく無茶しおって・・・。
て、うぉっ!銃弾か・・・!」
すこしでも敵に意識を切ればいつの間にか銃弾が来る。
彼は第六感でそれに気づき身をひねって回避するも頬から血がしたたり落ちた。
「やや劣勢か・・・。このまま押し負ける前に何か策を・・・。」
そう言って指揮官は手の甲であごの垂れてきた血をぬぐう。すると一人の兵士が走りこんできた。
「伝令!」
「何だ?」
いらだったように彼は少し大きな声で言った。しかし、その伝令が持ってきたのは最悪の知らせだった。
「西側の部隊が壊滅しました。我々はもうじき囲まれてしまいます。敗北はもはや必至です。早く逃げてください!」
その伝令を聞いて、近くの妖たちはいっせいに指揮官の方を見た。
「・・・。」
何も言わず下を向いた彼の脳裏に写ったのは今回払った大量の犠牲だった。
(これだけの犠牲を払って引くのか?何も得られてないのに?あいつらはなんのために死んだんだ?)
延々と自問自答を続けていた。しかしそれを続ける暇はなかった。
「時間がありません!早くご決断を!博士からは「里」の準備はできていると。グハッ」
決断を迫った兵士はある者の言葉を口にした直後、頭に銃弾を食らって死んだ。即死だ。
(ここは戦場だったな・・・。動揺して周りが見えていなかったよ。すまない。)
心の中でそう今散った部下に告げた。
それは彼にあることを決断させるには十分だった。
「退却する・・・。みな引き上げよ・・・。我々の敗北だ・・・。だが妖という種は存続する・・・。必ずな・・・!」
落ち込んだように小さな声を吐き出すようにに戦争の終わりを告げた。普段冷静な彼がめったに見せない姿だった。
そして彼らは多大な犠牲を出しながら敵を巻くことに成功し、妖怪の種の存続には成功した。
このようにして妖たちは壊滅した。この日は「敗北の日」として強く刻み込まれることとなった。