最終話 それぞれの幸せ
「ねぇ、叔父上?明日晴れたら釣りに行きたいな?教えてくれる?」
「ああ、いいとも。何匹釣れるか競争しよう」
「えー、絶対負けるに決まってるよー」
「そんなのやってみないとわからないだろう?」
「…お姉様には勝ちたいな」
「よし!じゃあ頑張らないと!お姉様はいっぱい釣って帰ったぞ?」
「え?そうなの?えー、負けたくない!」
「はははっ、じゃあ早く寝て明日に備えよう。今日は何の本を読もうか?」
「えーとね……えっ…と…」
小さな男の子は沢山の絵本の前で選んでいるうちに眠ってしまった。
マクロスはその男の子を大切そうに抱えてベッドに運ぶ。
カイルとアイリスが初めての懐妊報告に来てから10年。
2人はニ男三女に恵まれ、入れ替わり立ち替わり子どもたちがフーラに乗せられてマクロスのところへ来ては、1週間ほど泊まって行く。
山暮らしを小さい頃からさせて精神力を鍛えてほしいなどと言われ、マクロスは体よく子守りを押し付けられている毎日だった。
しかし、マクロスはおかげで毎日賑やかな生活を送り、子どもたちも自然を知って延び延びと育っていた。
いずれその子どもたち5人のうちの誰かがジルコニア公爵家を継ぐことにしてくれるらしい。
(兄上、義姉上、本当にありがとう。僕は幸せだよ)
すやすや眠る子供の顔を見つめるマクロスの顔は本当の父親のように優しい顔をしていた。
◆ ◆ ◆
「ねぇ、カイル?起きてる?」
「…ん?起きてるよ?アイリス眠ってなかった?」
カイルは眠そうにしながら、隣で横になっているアイリスにそう聞いた。
「変な夢見て起きちゃった」
「え?どんな?」
「木から落ちる夢」
「それは怖かったね」
そう言って、アイリスを優しく抱きしめた。
「それがね?小さなあなたが助けてくれるの。でも私怪我しちゃって、あなたがおぶってくれて、すごくかっこよくて大好きって思って、絶対結婚するーって叫んでるのよ?おかしいでしょ?もう結婚してるのにね?ふふふっ」
と、アイリスがおかしそうに笑った。
カイルは目を瞠る。
「その夢の中の怪我って左腕?」
「え?どっちかまでは覚えてないけど、ええ、腕だったわ?どうしてわかったの?」
カイルはアイリスの手を取って、袖を捲ると左腕の上の方を指差した。
「…⁉︎え?これって、…傷痕?」
「…その夢は僕と君が小さい頃体験した本当のことなんだよ。夢に記憶が出てきたんだね。
あの時は君を守りきれなくてごめん。傷なんか作ってしまって…」
「…この傷のおかげで、あなたはお嫁さんにしてくれるって言ってたわ。だから私は傷ができてよかったって思ったの。…それから結婚の約束をして…
これも本当のこと?」
「そうだよ?僕が10歳で君が6歳の時の事だから忘れて当然なのに、僕は間抜けにも真に受けてしまって…ほんとに馬鹿な男だろ?」
「カイル!」
アイリスはカイルに抱きついた。
「私ったらそんなことも忘れてあなたから逃げてたなんて、信じられない!ごめんね、本当にごめんなさい」
「いいんだよ。僕も記憶喪失になって、2人はあの出会いで良かったんだ。令嬢でも王子でもなく、ただの人間として愛し合えたんだから。君に出会えて本当によかった。…大好きだよ、アイリス」
2人はあの頃の狼と少女のように、寄り添って幸せな眠りについた。
fin




